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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十八章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 1』
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第八話 ユージ、新しいアイデアを相談しつつワイバーン戦にも備える


「この線が金属のレールで、その下を枕木で支えて。このレールの上を馬車が走るんですよ。土の上を走るより安定するはずです」


「はあ、なるほど。石畳のほうが馬車は走らせやすい。その発展形のようなものですね。どうですか?」


 ホウジョウ村開拓地の南、街まで続く道の上。

 そこにユージとケビン、木工職人のトマスと鍛冶師の姿があった。

 ユージは手にした木の棒で地面にガリガリと線を引いて、鉄道馬車とレール、枕木についてざっくり説明していたようだ。


「その、俺は問題ないっすけど。まくらぎ? っすか、適当な長さに切るだけっぽいし。まあ数揃えるのが大変そうっすけどね!」


「要はフチがある金属の板を用意すりゃいいんだな? 板のほうは馬車が乗るから固くなきゃならねえと。長さはどれぐらいだ?」


「えっと、街まで引くんで……どれぐらいですかね?」


「ユージさん、これすれ違うときはどうするんですか? 対策を立てなきゃぶつかりますよね?」


「あ、そっか、それもあった……」


「街まで? ケビンさん、金と時間がかかるがどうする?」


 ユージが奇妙な思いつきを話し、ケビンやトマス、副村長で元冒険者のブレーズ、あるいは農作業を仕切る犬人族のマルセルが検討する。

 これまで何度も繰り返してきたことである。

 まあ鍛冶職人が巻き込まれたのは初めてだが。


「一度で作れる()()()の長さはどれぐらいですか? 一日で作れる本数も考えてもらって、見積もりを出してください」


「おうよ。んん、単純だから手間賃はたいして取らねえが……素材分が高くつくんじゃねえか?」


「その、ウチの門を使えませんかね? 溶かして素材にできればちょっと安上がりに……」


「素材に関してはいくつか見積もりを出してください。長さがわかったら、今度はトマスさんに枕木の見積もりをお願いしますから」


「うっす! とりあえず待ってるっす!」


「ユージさん、この絵の通りだと()()()の間に枕木があって、馬が走りづらいですよね? 両側に枕木じゃダメなんですか?」


「あ、いいと思います。でもそうすると高さを揃えないと……どうなんだろ、それか埋め込んじゃえばいいのかな。でもそれだと大変か」


「うーん、実現したら馬車に載せられる量も増えるでしょうし、速度も上がりそうなんですけどね。まだまだ検討の余地はありますか。現状の生産量じゃ採算がとれなさそうですし」


「そうですか……いい案だと思ったんですけどね。舗装、舗装……魔法でなんとかなったりしないのかなあ」


 ホウジョウ村開拓地からプルミエの街までは道一本で分岐もない。

 雪解け水や雨でぬかるむ現状の道をなんとかしたかったようだが、そうそう上手くいかないようだ。

 ユージや掲示板住人のアイデアは、すぐに採用されるものもあれば、こうして試行錯誤が続けられるものもある。

 というか普通に、採用しなかった・できなかった案の方が多い。

 それでもホウジョウ村は、取り入れられた案のおかげで発展してきたのだ。


「今度リーゼちゃんのお祖母さんにでも聞いてみましょうか。春になりましたし、また新作の服と缶詰を持ってエルフの里にでも」


「そうですね! あ、でもまずはワイバーンをなんとかしてからですよ。ブレーズさんはそろそろじゃないかって言ってましたし」


「そうでしたね。まあ今年はバリスタもありますしねえ」


「おうよ! さすが『深緑の風』、もう使いこなしてたからな!」


「……アリスも張り切ってるんだよなあ」


 ホウジョウ村開拓地の入り口にいた4人は、踵を返して村の中心部に足を進める。

 開拓地の大外にあるのはエルフたちが造った土の壁。

 そこから伐採中の森林部が広がり、その先は木の柵と空堀が中心部を囲う。

 木の柵を越えると、家と共同住宅と缶詰工場と農地がある開拓地の中心部であった。


「このあたりもだいぶ伐採が進んできましたねえ」


「はい。切り株はまだ処理前なんですけど、どんどん伐り倒していこうって。ゆくゆくはこの辺はぜんぶ農地にするつもりです! ってマルセルが言ってました」


「家と生産場所は中心部、農地は周辺部ですか。いいと思いますよ。これだけの広さが農地になれば、開拓民の食料は賄えそうですしね」


「そのつもりです! そうすればケビンさんの荷車は食料以外をもっと載せられるようになるだろうってブレーズさんが。それに防衛の観点からも、基本はここで完結するようにしておいたほうがいいって、その」


「ああなるほど。ええ、その通りだと思いますよ」


 村の農業を仕切るマルセル、副村長で元冒険者のブレーズ、掲示板住人たち。

 ユージ、だいたいブレーンに言われた通りである。

 いや、ユージはいまも村長で防衛団長なのだ。

 長として意見を採用した結果である。

 ユージは調整型と呼ばれるタイプのリーダーなのだ。たぶん。


「それにしても……マルセルがここに残ると決めてくれてよかったですねえ」


「ほんと助かります! 俺も元冒険者のみんなも、力仕事はできるし農作業もだいぶ慣れてきたんですけどね……やっぱりプロみたいに判断できないですから」


 例えば土の状態を見て植える作物を決める、肥料の種類や量、水を撒くタイミング、雑草の処理、害虫対策、収穫の時期、連作障害を考慮した畑のローテーション。

 ユージも元冒険者たちも、農業ははじめたばかりなのだ。

 マルセルの指示があれば作業ができるようになってきたが、判断はできない。

 農業の経験と知識がなければ当たり前のことである。どこかのアイドルとは違うのだ。

 もしユージの元奴隷のマルセルが身分を買い戻したタイミングでどこかに行くとなっていた場合、ここまで順調だったホウジョウ村開拓地の農業は危機を迎えていたことだろう。


「そういえば、マルクくんはどうですか? 強くなりたい、みんなを守るって言ってましたけど」


「ふふ、がんばっていますよ。ちょうど今ごろ、ウチの専属護衛と臨時雇いの冒険者と一緒に王都に向かっている頃です」


「え?」


「冬の間に作った缶詰と服、その一部をゲガス商会に売りに、ね。いい経験になることでしょう」


「け、けっこう無茶させるんですねケビンさん……」


「雪が解けて動けるようになったこの時期は商人の往来が増えますから、そうそう危険はありませんよ。むしろゲガス商会に着いてからのほうが……」


「え?」


「お義父さんとジゼルの、『鍛えてやれ』の手紙付きです」


「あ、あはは。……大丈夫ですかね、マルクくん」


「お義父さんがこっちにいますからね。ほかのみんなはちゃんと加減を知っています。大丈夫ですよ、ええ」


 心配するユージに向けて、大丈夫だと太鼓判を押すケビン。

 強くなってみんなを守りたい。そう言って開拓村を出たマルクは、見聞を広めつつ鍛えられているようだ。

 マルク14才、試練の時である。

 王都のゲガス商会は、『お前の首が金になる』という旗印を掲げた武闘派商会なので。

 マントを赤く染めないように祈るばかりである。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ああっ、ユージ兄だ! おーい!」


「ただいまアリス! ……あれ? みなさんどうしたんですか? 顔が引きつってません? あ、バリスタの練習が上手くいかなかったんですか?」


「ユージさんにケビンさんか。いや逆だ、うまくいきすぎてなあ」


「よかった! じゃあ今年は問題なしですかね?」


「今年っていうか……ああ、まあ問題はねえな、問題は」


 トマスと鍛冶師と別れたユージとケビンがやってきたのは、ユージの家の前の簡易広場。

 開拓や住人の増加とともにスペースは広がり、いまでは『簡易』が取れた立派な広場である。

 そこには4台の櫓が設置され、その上に鍛冶師たちが組み立てたバリスタが置かれていた。

 元3級冒険者のブレーズ指揮の下、間もなくと予想されるワイバーン戦に向けた訓練が行われていたのだ。


「去年と同じで柱を立ててワイバーンの飛行を阻害して、非戦闘員は家の中。ここに誘い込んで、バリスタで墜としてブレーズさんとドミニクさん、エンゾさんが接近戦で仕留める。でいいんですよね?」


「ああ、手順に変更はねえ。ユージさんが考えた投網もうまくいきそうだ。……まあ出番があるかわからねえけどな」


「あのねユージ兄! アリス、リーゼちゃんのお祖母ちゃんに教わった魔法を見せたの! みんなスゴいって褒めてくれたんだよ!」


「おお、よかったなーアリス! 俺にも見せてくれる?」


「えっとねえ、ユージ兄にはナイショ!」


「えー? 俺、防衛団長なんだけどなあ」


「ユージさん、とりあえず今回は俺に任せてくれ。ユージさんは……アリスちゃんの護衛についてくれりゃいいから」


「え?」


「ほれ、いずれ防衛団長は退くんだろ? 今回はその第一弾ってことでな。俺が指揮するんでいいか?」


「あ、はい。そりゃブレーズさんならお任せできますけど……」


「うし。心配すんなユージさん、何も問題はねえ。いやマジで」


 小さく首を振りながらポンッとユージの肩を叩くブレーズ。

 一緒に訓練していたほかの『深緑の風』の面々、そして元5級冒険者たちもうんうんと頷いている。


「は、はあ……」


「あ! ユージ兄! エルフさんだ! 誰かなー」


「え?」


 櫓の上にいたため、遠くまで見えたのだろう。

 大きな声を出してユージたちの背後を指さすアリス。

 振り返ったユージは、二人の女性エルフの姿を目にする。

 アリスは見えなかったようだが、魔法を教えてたリーゼの祖母と、人間の言葉を話せるうえに開拓地までの水路作りに活躍したエルフだった。

 ここまで気づかれなかったのは、潜水艇で水路を潜ってきたのだろう。

 有事の際にはユージの家の壊した格子状の門を使って塞げるようにしているが、普段はオープンなので。


「あ、お二人ともこんにちは。おひさしぶりです!」


「ユージさん…………来ちゃった!」


 来ちゃった、ではない。

 ちなみに発言したのはリーゼの祖母、テッサの嫁だったエルフ・イザベルである。

 ウィンク付きである。

 見た目は30代だが、実年齢は数百才である。

 発言とウィンクはたぶんテッサのせいである。


 隣にいた女性エルフは、リーゼの祖母の真似をしようとして頬を赤らめていた。

 どうやらエルフがおかしいのではなく、過去の稀人のテッサと関わりが深いエルフがおかしいだけのようだ。


 元の世界にいるテッサの姉と母とやり取りして以降、リーゼの祖母はたまに開拓地に足を運ぶようになっていた。ユージの家で、テッサの家族と昔話をするために。

 今回もおそらくそうなのだろう。


 開拓地の二度目のワイバーン戦。

 たまたまエルフたちを迎えたことで、ワイバーン戦は雑魚狩りの様相を見せるのだった。

 何よりアリスが張り切っているので。



次話、明日18時投稿予定です!

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