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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第三章 ユージはニートだけど日本ではお金持ちらしい』
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第五話 ユージ、妹のサクラにメールを送る

「よーし、せっかく外に出たんだし、ちょっとだけ雪遊びしようか、アリス!」


「雪あそびー?」


「そう、雪だるまを作るんだ!」


 アリスとコタローと一緒に、妹のサクラに送る写真を撮り終えたユージ。

 さっそく妹にメールを送るのかと思いきや、まだ現実逃避を続けるようだ。

 ひさしぶりの外遊びにキャッキャとはしゃぐアリスと一緒に、庭に積もった雪で雪だるまづくりである。


「いいかーアリス、こうやって雪玉を作って転がしていくんだ。そうすると雪がくっついてだんだん大きくなっていくからなー」


 目の下にくっきり隈を浮かべ、疲れた顔なのに楽しげに瞳に光があるユージ。

 遊びはじめた二人を後目(しりめ)に、コタローがワンッ! とひと吠え。

 どうやら家の外、森に向かいたいようだ。散歩だろうか。


「どうしたコタロー。森に行きたいのか? アリスは置いていけないしな……。コタローだけで大丈夫か? どう思うアリス?」


「コタロー()強いからだいじょーぶだよ! コタロー()かしこいから迷ったりしないもん。だいじょーぶだよ、ねーコタロー?」


ウォンッ!


 そうよ、ゆーじといっしょにしないでほしいわ、と力強い鳴き声で応えるコタロー。

 そういえばアリスは「コタローは(・・・・)」強くてかしこいから大丈夫だと言い切っていた。

 この場には発言者のアリス、コタローのほかにあと一人しかいない。

 がんばれユージ。




「じゃあ俺が作った雪玉が下で、アリスの雪玉が上だな。持ち上げてっと! よし!」


「これが雪だるまさんかー、なんかかわいいねー」


「アリス、まだ完成じゃないんだ。ここからがオリジナリティを求められる難しいパートなんだ。枝を刺して腕にするもよし、バケツをかぶせて帽子にするもよし。でもまずは顔がなくちゃかわいそうだろ? アリスは雪だるまさんに顔をつけてあげられるかな?」


「うーん、アリスはじめてだからわからないけど、やってみる!」


 アリスは車庫やプレハブ倉庫、葉が落ちてさびしい様相を見せる生垣をまわり、顔のパーツとなる素材を集めていく。

 うんしょ、うんしょと言いながら雪だるまの前まで運んできた時である。


ドサッ ワンッ!


 コタローのお帰りであった。

 門を開けたユージが目にしたのは、白銀の世界にくっきり映える薄茶色のコタローの姿と、足下に置かれた白い何かであった。


「お、コタロー、どうしたんだこれ? ウサギじゃないか。狩ってきたのか?」


「あー!! ゆきうさぎだー! すごいねコタロー! ユージ兄、これね、ゆきうさぎって言ってね、冬しかとれないけどすっごくすっごくおいしいんだよ! でも白くて見つけづらいからとるのが大変なんだって」


「おー、すごいなコタロー」


 わしゃわしゃとコタローを撫でまわし、褒めたたえるユージ。コタローはユージに体をこすりつけ、目もあわせてくる。

 つかれてるんでしょ、おにくたべてげんきだしなさい、と言いたいようだ。

 アリスはさっそくユキウサギの両耳をつかみ、車庫に作られた獲物の解体スペースに向かっている。

 北条家の女子は、文字通りの肉食系なのである。




 自室でパソコンと向かい合うユージ。

 ついに心を決めたようだ。

 とりあえずフリーメールのアカウントを取得したようである。


 ちなみにユキウサギは解体☆幼女アリスちゃんの手によってスムーズにバラされ、心臓は昼食に、残りのモツは功労者のコタローに。

 皮を剥ぎ、内臓を抜かれたユキウサギは、低温で熟成させるため雪だるまの胴体部分の雪玉の中に突っ込まれた。

 雪のなかに入れていちにちぐらいで食べごろなんだよー楽しみだねーと、満面の笑みを浮かべたアリスによって。そこにはためらいなどなかった。

 現在、北条家の庭には、顔なし雪だるま・ユキウサギ入りが寂しげに(たたず)んでいる。


「サクラか……。写真は添付するとして、何から伝えればいいんだろう……」


 ブツブツと呟きながら、書いては消し、書いては消しを繰り返すユージ。

 悩みながらもなんとかメールを書き終え、サクラに送るのであった。




  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



サクラへ


ユージです。


連絡が遅くなってごめんな。

兄ちゃん、サクラのメールアドレス覚えてなくてさ。

電話は繋がるけど変な音しか聞こえないし。


もう知ってると思うけど、

兄ちゃんさ、よくわからないことになってるんだ。

家はあるんだけど、周りは森。

ここがどこかもわからないし、ホントに村や街があるかもわからない。


帰れるかどうかもわからない。


でも兄ちゃんさ、外に出られるようになったんだ。

父さんと母さんが死んで、この家にいるのが俺一人になって。

二人がいなくなってから外に出られるようになるなんて、

遅すぎて情けないんだけど。


外に出られるようになって、コタローがいて、義妹ができて。

毎日毎日、生きていくために試行錯誤して。

今は、10年ぶりに楽しいんだ。


父さんと母さんに見せたかったなあ。

サクラに会って見せたいなあ。


いろいろ迷惑をかけてごめんな、サクラ。

そっちに一人にしてごめんな、サクラ。


会えないけど、メールするし写真送るし、なんなら掲示板も見続けてほしい。

動画もアップするし、いろいろ教えてくれる掲示板のみんなとのバカなやり取りも楽しいんだぜ。


じゃあ、ジョージくんと仲良くね。

俺はこっちでなんとかやってるから。


またメールします。


           北条 雄二



追伸


そういえば子どもの頃、妹が欲しいって言ってたよな?


サクラにもアリスっていうかわいい妹ができたぞ。


サクラのかわいい妹に、服もアクセサリーもぜんぶあげていいよな?

いいと言ってくれ!

正直すまんかった!




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