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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十六章 エルフ護送隊長ユージは種族間交易の人間側責任者にランクアップした』
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第二話 ユージ、ハルとリーゼの両親と話をする

 ユージたちがようやくたどり着いたエルフの里。

 天然温泉の露天風呂から上がったユージは、中庭に置かれたチェアで涼んでいた。

 ちょっとのぼせたらしい。

 温泉のせいか、あるいは混浴のせいかは不明だが。

 ユージの横にはアリス、足下にはコタロー。

 コテージ形式の宿の中庭でまったり休憩する二人と一匹は、まるでリゾート地でくつろぐセレブのようだった。


「あ、いたいた、ユージさん!」


「ハルさん、もうお風呂はいいんですか?」


「うん、とりあえずね! じゃあみんな揃ったら、ざっと明日からの予定を伝えようか!」


 ユージの元に現れたのはエルフのハル。

 王都在住で1級冒険者のハルは、通訳兼案内役としてエルフの里でもユージたちに同行するらしい。


「あの、ハルさん。それより服を着たほうがいいんじゃ……」


「そうだね、まだちょっと寒いか!」


「いや、そういうことじゃなく……」


 ハル、上半身裸であった。

 温泉に入って火照った体を冷ましているらしい。

 ユージの目に、ハルの後ろに続いてきた人たちが目に入る。

 元会頭で『血塗れ』の二つ名を持つゲガスと商人のケビン、エルフの少女・リーゼはきちんと服を着ていた。

 リーゼの父親はハルと同様に上半身裸。

 そして。

 リーゼの母親も上半身裸であった。

 首にかけたタオルらしき布で、つつましい胸は守られていたが。


「えっと、その、みなさん休憩して、服を着てから話しましょう」


 ユージ、正しいツッコミである。

 じゃあそうしよっか、と軽い言葉を返すハル。

 どうやらエルフはそのあたりの感覚が違うようだ。

 なおユージの足下にいるコタローは堂々たる全裸である。犬なので。



「ユージさん、お待たせ!」


「ハルさん、みなさんも。あ、服は着てきてくれたんですね」


 中庭で待っていたユージの元にやって来るハル、リーゼとその両親。

 今度は全員きちんと服を着ている。

 湯上がりは露出が多いようだが、本質的に露出狂なわけではないようだ。残念なことに。


「それで、これからの予定なんだけど。まず明日は全員で長老会に参加することになってます!」


「長老会……な、なんか堅そうな感じなんですけど……」


「心配しないでユージさん! 爺婆はめんどくさいけど、そもそも稀人の味方だしね!」 


「は、はあ……でもハルさん、なんでエルフは味方してくれるんですか?」


「んー、そのあたりも明日、長老たちが話してくれるんじゃないかな?」


「そうですか、じゃああと一日ぐらい待とうかな。それと、あの、すごく気になってるんですけど……」


 ユージがチラリと宿の中庭の入り口に目を向ける。

 ユージたちが泊まるこの宿は、中庭を挟んで左右に建物が並んでいた。

 中庭は文字通り、建物に囲まれた庭である。

 入り口の両サイドには木製の柱が立ち、中央に看板らしき木の板がかかっている。

 そこには文字が書かれていた。


「あれ、看板ですよね? たぶんこの宿の名前を書いた」


「うん? ああ、そうらしいね!」


 同じ看板、同じ文字を目にしているのに『そうらしい』と告げるハル。

 当然である。


「あの、アレ……日本語と英語なんですけど……」


「ユージ兄、アリスかたかな読めるよ! ホテルリバーサイドだって!」


「そ、そうだよね、そう書いてあるよね。ハハハ、アリスはすごいなあ」


 そう。

 そこに書かれていた文字は、ユージがいた元の世界の文字であった。

 大きく片仮名で、その下に英語で書かれた文字。

 『ホテルリバーサイド』。

 川のそばにあるコテージ風の宿泊施設でその名前だと、いかがわしいホテルとしか思えない。あるいは古いネタか。まあそのネタ元もいかがわしいホテルだったはずだが。

 ユージにとっては元ネタがどうこうという話ではない。

 日本語と英語。

 それは確かに元の世界の住人がこの世界、そしてエルフの里にいたという証なのだ。


「ハルさん、それでアレは……」


「うーん、それも明日ね! 長老たちが話さなかったらボクから話すよ!」


「は、はあ……」


 釈然としない様子ながらも、ここまで来たら今日も明日も同じか、と待つことを決めるユージ。

 元々エルフの里に来たのは、リーゼを送るほかに稀人の情報を得るという目的もあった。

 少なくともなんらかの情報を得られる確信は持てたようだ。

 何しろ日本語があったので。



 ユージとハル、アリスがそんな会話をしていた横で。

 ゲガスとケビン、リーゼの両親も言葉を交わしていた。


『そうか、ゲガスは引退するのか……』


『ああ、もう歳だしな。娘も嫁に行ったし、あとは気ままに生きてこうと思ってよ』


『ほんと、ニンゲンの寿命は短いわね……わかってても寂しくなるわ』


『まあそう言うなよ。これでも楽しく生きてきたんだぜ? 太く短くってヤツだ』


『あいかわらずだなゲガス。それで、ケビン殿が跡を継ぐと?』


『ああ、商会は別だがお役目はコイツに継がせる。娘婿、まあ血は繋がってねえが息子みたいなもんだな。商売の腕も確かだし、信用もできる。俺の商会も協力することになってるから問題はねえだろう』


『お義父さん……そこまで考えてたなんて……』


『は? ケビン?』


『ゲガス? エルフの言葉はまだケビンに勉強させてるところだって言ってなかったか?』


『早い口調だと難しい。難しい言葉も難しい。でも少しはわかるようになりました! ね、リーゼちゃん』


『ふふふ、リーゼはアリスちゃんとユージ兄と、ケビンさんにも教えてたのよ!』


『……恥ずかしいところを聞かれちまった……』


『いやあ、うれしいですお義父さん!』


 してやったりと顔をニヤつかせ、ゲガスの顔を覗き込むケビン。

 ゲガスの顔が赤く染まる。いや。ゲガスは禿頭である。頭まで真っ赤に染まっていた。

 どうせ言葉がわからないと思って褒めていたら、きっちり理解されていたのだ。恥ずかしかったらしい。

 まあ髭面禿頭で海賊顔のおっさんが照れた姿などキモいだけだが。


『まあ短期間でここまで理解できるなら頭脳も問題ないんだろう。それでゲガス、昔言ってた通りやり合ったのか? 娘を嫁にするヤツは血塗れにしてやる! とか言ってたじゃないか』


『ああ、やり合った。血塗れにはしてやったが……コイツはきっちり自分の身を守りやがったよ』


『戦闘力もなかなか、と。ゲガス、いい息子じゃないか。……私も、いつか現れるリーゼの婿のために鍛えねばな』


『あなた?』


『いやいや、そうそう勝てるヤツはいないだろうよ』


『え? リーゼのお父さんも強いんですか?』


 ハルとの話が一段落していたのか、ゲガスとリーゼの父の会話に混ざるユージ。

 どうやらコミュ力もちょっとは進歩しているらしい。


『ユージさん、前も言ったと思うが、エルフは長命種だ。ニンゲンと比べて鍛える時間はいくらでもある。位階を上げる時間も、魔法を磨く時間もな。二人とも俺よりは強いぞ』


『は、はい? 血塗れゲガスさんより? もしかして、みんなハルさんクラスなんですか?』


 ユージ、ちょっと腰が引けている。

 仕方あるまい。

 王都で行われたケビンとゲガスの嫁取り戦。ゲガスの剣さばきを見ていたユージは、自分では勝てないと判断していた。

 そのゲガスよりもリーゼの両親は強い。

 さらにユージは、開拓地で行われたハルと副村長のブレーズの模擬戦も見ていた。

 元3級冒険者でワイバーンの首を一刀で斬り落としたブレーズはハルに負けた。手も足も出ず。

 ハルのレベルがゴロゴロいるとなれば、ユージが引くのも当然である。


『ハルか……ユージ殿、ハルはああ見えて若いエルフの中では最強だよ。私たちよりも強い』


『あ、そうですか。よかった、ハルさんが標準ってわけじゃないんですね。……あれ? ハルさんが若い? たしか300才ぐらいって』


『この里の中では300才は若手だね。それにユージ殿、私たちはハルよりも年下だよ。まだ160才。下から数えて何番目だったかな』


『160才で……それにハルさんが若手最強って……』


 ユージ、エルフの時間感覚に衝撃を受けたようだ。

 落ち着きがないハルよりもリーゼの両親のほうが若いこと、そしてそのハルが若手最強であることにも。

 ハル、リーゼから『しゃべらなければいいのに』と言われていたのは伊達ではなかったらしい。どうやらエルフでも珍しい性格であるようだ。幸いである。


『ふふふ、ユージ殿、ハルに驚くのもわかるけどね。強さだけで言ったら、歳を重ねたエルフにはハルより強い者は何人もいるよ。長老たちや、私の母親なんかもね』


『ハ、ハルさんより上……それ、人間なんですかねえ……』


 人間ではない。

 エルフである。

 モンスターや命あるものを殺すと位階が上がって身体能力や魔法の力が上がる世界。

 そんな世界において、長命種のエルフは特異な存在であるらしい。

 ユージの貧相な想像力では、もはやどれほど強いのかイメージできないようだ。


『ユージ殿、そんな我らエルフが稀人の味方なのだ。安心してほしい』


『そっか、そうですね。ありがとうございます』


 稀人とエルフの繫がり。

 その理由こそまだわからないものの、何度も稀人の味方だと聞かされるユージ。

 ようやく実感したらしい。



 それにしても。

 ユージが開拓団長 兼 村長を務める開拓地は、ただでさえ戦力は過剰気味。

 その上ユージには、個人的な繫がりでエルフも味方になるようだ。

 しかもユージの家の謎バリアの中に入る方法もだいたいはわかった。

 もはやどうすれば開拓地を落とせるか想像できないレベルである。


 そんな意図はなかったようだが、開拓団長 兼 村長のユージは、何かあったときには助けてくれそうな戦力と繫がりを得るのだった。

 ユージ、有事でも安心である。

 『ゆうじ』だけに。



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そうか、あれラブホの歌だったのか
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