第十六章 プロローグ
プロローグなので短めです。
ユージがこの世界に来てから5年目。
エルフの少女・リーゼを里へと送るため、稀人の情報を知るため、ユージはエルフの里へと足を踏み入れた。
ユージ、コタロー、アリスの二人と一匹の開拓民。
エルフと人間を繋ぐお役目を務めるゲガスと、それを引き継ぐケビン。
普段は王都で暮らす1級冒険者で、リーゼの護衛のために同行したエルフのハル。
そして。
秋に里を抜け出して、帰る術をなくしてユージたちに保護されたエルフの少女・リーゼ。
6人と一匹、それに船頭役のエルフ二人を乗せた船はゆっくりと小川を遡って進んでいく。
船着き場にいたのは、歓迎する人々の中でも年かさのエルフの集団だった。
おそらく里でなんらかの役割に就いている者なのだろう。
あご髭を垂らした老年のエルフが一人、前に出てユージたちに告げる。
『ようこそエルフの里へ。古き約定により、我々は稀人を歓迎しよう。それから……お帰り、リーゼロッテ』
『みんな、ただいま!』
船頭役を務めていたエルフが船を係留する前に。
待ちきれなかったのだろう。
リーゼはバッと船から飛び出し、いち早く桟橋に上がる。
レディだからと強がっていても、そこは12才の少女。
見知った顔との再会が待ちきれなかったのだろう。
『リーゼ! ああリーゼ、よく無事で……』
涙を流しながらリーゼに近寄る一人の男。と、無言で横を歩く一人の女。
『お父さま! お母さま! あのね、リーゼお話みたいな大冒険してきたの!』
近づいてきた二人にうれしそうに話しかけるリーゼ。
ユージと繋いでいたアリスの手が、きゅっと握られる。
『おお、そうかそうか! 一人でも無事に帰ってくるなんて、リーゼは立派なレデ』
両手を広げてリーゼに近づく男がすべてを言い切る前に。
パシン! と、乾いた音が響き渡った。
『リーゼ! どうして抜け出したの! 外は危ないって言ったでしょう!』
両手を広げた男の動きが止まる。
女は男よりも早くリーゼに近づき、険しい顔で見つめていた。
『おか、おかあさま、リーゼ、リーゼ…………ごめんなさい!』
赤くなった頬を押さえ、リーゼが涙を落として謝っていた。
親父にもぶたれたことないのに、とは言わなかったようだ。素直な子である。
『もう、この子は! 本当に心配したんだから!』
口調は荒いが、女の目からも涙がこぼれていた。
広げた女の腕にリーゼが飛び込む。
フリーズしていた男も動きだし、二人を抱きしめる。
『お帰り、リーゼ』
『お父さま、お母さま、ごめんなさい! リーゼ、帰ってきたの! 元気なんだから!』
わんわん泣き出したリーゼをぎゅっと抱きしめる男女。
いや、リーゼの父と母。
行方不明になった娘との半年ぶりの再会である。
「よかったなリーゼ。ね、アリス」
「うん! リーゼちゃんがお父さんとお母さんに会えてよかった!」
見守っていたユージとアリスが口にする。
コタローが後ろ脚で立ち上がり、繋いだ二人の手の上に肉球を重ねていた。ふたりにはわたしがついてるわよ、と言わんばかりに。優しい女である。犬だけど。
『さて。積もる話はあろうが、まずは宿へ案内しよう。ハル、リーゼ。それから二人も。稀人の一行に同行しなさい』
ユージたちに歓迎の言葉を伝えたエルフが告げる。
止まっていた時間が動き出したかのように、のそのそと船を降りる準備を始めるユージたち。
いや。
一人だけ、待ちきれない様子でてきぱきと手早く動いていた。
ケビンである。
どうやらこの男、生来、好奇心が強いようだ。
ユージがこの世界に来てから5年目。
保護したエルフの少女は、無事に家族のもとへ送り届けた。
ユージ、領主夫妻から任命された『エルフ護送隊長』の役割を果たしたようだ。
だが、ユージたちがエルフの里に来た目的はこれだけではない。
ユージは稀人として情報を得るために。
ケビンはエルフと人間を繋ぐお役目を引き継ぐために。
あと、エルフとの交易に関する交渉や写真を撮るために。
一行は、この世界の人間たちも知らないエルフの隠れ里へ足を踏み入れるのだった。
ちなみに。
感動のシーン、ユージは撮り忘れたようだ。
まああの状況でカメラを構えろというのも酷な話である。
きっと、これから撮られる写真と動画の数々で、元の世界の人たちも満足してくれることだろう。きっと。
短めですが、プロローグですので…