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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 11

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閑話14-20 サクラ、ジョージたちと一緒に映像化の話を進める

副題の「14-20」は、この閑話が第十四章 エピローグ終了ごろという意味です。

ご注意ください。

『ジョージ、それでみんなはなんて?』


『うん、予定通り帰ってきてからで問題ないってさ。サクラは何も心配いらないよ』


 アメリカ、ロサンゼルス郊外。

 リビングのソファに腰掛けていたサクラが、夫のジョージに問いかける。

 臨月間近で動けないサクラのため、ジョージがプロデューサーとの打ち合わせに向かっていたのだ。


『うん、お願いねジョージ。それにしても……大ごとになってきたね』


『だから言っただろうサクラ。ルイスなんてもう大変だよ?』


『ふふ、簡単に想像できちゃう。ドニさんの絵は描き終わったのかしら?』


『ああ! いやあ、なかなかカッコいい感じに仕上がってたよ! できあがりが楽しみだなあ』


 ユージが帰ってきてから、アメリカ組は激動の日々であった。

 サクラは大事をとってほとんど動かなかったようだが。


 プロデューサーと脚本家の夫妻は専属の通訳を雇い、ユージが掲示板に報告するアレコレをリアルタイムで翻訳させていた。

 もちろんそこにはジョージとルイスの姿もあった。

 並行してインタビューのだいたいの日程を決める。

 そして、最初に放送するドキュメント番組に関して打ち合わせを重ねていく。

 大騒ぎである。


『ああそうだ、サクラ。プロデューサーさんが、決まった内容を一度報告に来たいって。かまわないかな?』


『ええ、かまわないわよ。体調も安定してるしね!』


『わかった、じゃあ連絡するよ。楽しみだなあ』


『私も! そういえば会うのはひさしぶりだもの!』


『サクラ、そっちじゃないよ! ボクが楽しみなのは、ボクたちの子どもさ!』


『もう、ジョージったら』


 事態は進行しているが、バカップルは変わらないようだ。

 間もなくその関係性も変わるだろうが、同時にさらにバカップルになりそうである。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



『ただいまサクラ! 変わりはないかい?』


『ジョージ、そんなに心配しなくても、一時間じゃなにも変わらないわよ。あ、みなさんようこそ』


『こんにちはサクラさん。あら、サクラさんは座っていてね』


『サクラさん、おひさしぶり。飲み物も買ってきたからね、楽にしていてほしい。サクラさんはデカフェのコーヒーでいいかな?』


 ジョージが連れてきたのは、プロデューサーと脚本家の初老の夫婦。後ろにはルイスの姿もあった。

 サクラの体調を気づかって、ジョージとサクラの住む家まで足を運んだようだ。



『それにしても、すごかったわねユージさんのお話!』


『おいおい、いきなりだな。まあ私も年甲斐もなく興奮してしまったのだが』


『二人ともすごかったんだよサクラさん! みんなで事務所に詰めてね、楽しかったなあ』


『ルイス、ドニさんの時にはウチに押し掛けてきただろう?』


 大騒ぎである。


 ユージから狼人族のドニの詳細が報告された際、ジョージはサクラとともに家にいた。

 そんな二人にいち早く報告するために、ルイスは初老の夫婦が借りた事務所を飛び出して、ジョージとサクラが暮らす家に押し掛けたのだ。

 かつて三人で盛り上がった『狼男の服』を実現できるかもしれないと思ったのだろう。

 アレを服と呼ぶかどうかは疑問だが。


『剣と魔法の世界! 森の中に続く道、馬車、盗賊、エルフ、ウェアウルフ、貴族! すでに素晴らしい物語だよ! 私の目に狂いはなかった!』


『そうそう! いやあ、やっぱりわかる人にはわかるんだね!』


『落ち着けルイス、さんざん話しただろう』


『あなたも落ち着いてください。ただ、いまのまま映画にするとクライマックスをどうするかなのよねえ。ワイバーンを持ってくるか、ううん、まだエルフの里の話もあるものね!』


『あ、あの、みなさん?』


『ああ、すまないサクラさん。ほら、おまえも考えるのは後にして』


『ごめんなさいね、ついつい。今日は映画の話じゃなくてドキュメント番組についてだったわね』


『ああ、ユージさん早く帰ってこないかなあ……エルフの里……いやでも! はやくドニさんに武器を! 装備を!』


『ルイス、あとでまた話をしよう、な?』


 大騒ぎである。


 よく見ると、ジョージとルイス、プロデューサーと脚本家の初老の夫婦、四人の目の下には隈ができている。

 きっとドキュメント番組の打ち合わせで忙しかったのだろう。きっと。


『それで、その、人の手配はどうなりました?』


『問題なしね。日本サイドから読唇術の専門家を紹介してもらったわ。通訳も確保したから、これも問題なし。それからインタビュアーね、一流どころを捕まえたわよ?』


『サクラさん、こちらは順調だ。一ヶ月から二ヶ月先までにユージさんとのインタビューを撮れれば、秋の終わりあたりで放送できるだろう』


『ふふふ、いまから楽しみだ! ああ、こっちで見ようか、それとも日本で見ようか……』


『ルイス、また行く気なのか? サクラ、安心して。ボクはずっとサクラについているからね』


 異世界に行ったユージのドキュメンタリー。

 実際の写真と動画に加え、識者による見解と映像の検証、そしてユージへのインタビューで構成される予定の番組。

 映像の大半はすでに押さえられ、あとはメインとなるユージへのインタビュー、加えて識者へ映像を見せて意見をもらうのを残すのみであった。


『インタビュー、出産と子育てで私が同席できないかもって伝えました。みなさん、よろしくお願いします』


『任せておいてよサクラさん!』


『いや、ルイスの仕事はないからな?』


『そうよルイスくん。ユージさんの言葉を、日本から招いた読唇術の専門家が日本語にする。こちらの通訳が訳す。インタビュアーが答えを受け取って質問する。また通訳が訳して、今度は手配したタイピングのプロが日本語で打ち込む。ほら、ルイスくんの仕事はないんだからね?』


『くっ、もっと早くから日本語を勉強してればよかった!』


『ルイスくん、日本語をネイティブレベルでって、すごく難しいと思うよ。読み書きは特にね……』


 残念がるルイスに非情な宣告を突きつけるサクラ。

 だが事実である。

 会話はともかく、平仮名と漢字、さらに片仮名も混ざる日本語の読み書きは難解なのだ。


 それにしても。

 ユージが話す、読唇術のプロが読み取る、通訳が訳す、インタビュアーが理解する。

 インタビュアーが質問する、通訳が訳す、日本語で高速タイピングする、ユージが読み取る。

 リアルタイムでやり取りするにはそうとう大掛かりである。

 特に、読唇術とタイピングについては日本からプロを呼び寄せるらしい。

 もちろん渡航費も滞在費もアメリカ組持ちである。

 金の掛け方が違う。


『くっ、でもその場には行くからね! それぐらいいいでしょう?』


『しょうがないわねえ……口は出しちゃダメよ? インタビュアーだって、今ごろユージさんの物語を最初から読み込んでるんだから』


『そうだぞ、ルイス。ボクだってただ同席するだけなんだ』


『こちら側はスタジオを借りる予定だからな。もし落ち着いているようなら、サクラさんもどうかな? 何かあった時のために、医療スタッフと病院まで走る車も用意させておこう』


 さすがハリウッドである。

 金の掛け方が違う。


『うーん、どうなるかわかりませんし、お兄ちゃんが帰ってきてインタビューの日が決まったらでいいですか?』


『もちろんよ! サクラさんとお子さんに何かあったら大変だもの!』


『そうだよサクラ、気になるかもしれないけど、ムリはしないで。ベイビーを見ておくのはボクがいくらでもやるけどね!』


『もう、ジョージったら……』


 隣に座ったジョージの肩にそっと頭を寄せるサクラ。

 あいかわらずデレるポイントがわかりにくい。

 と、サクラの顔が歪む。


『ど、どうしたんだいサクラ? ボク、何か怒らせることを言ったかな?』


『違うのジョージ。あの、すみませんみなさん、救急車を』


『え? サクラ?』


『ジョージ……産まれるかも』


 その言葉を聞いて、ほかの四人がサクラのお腹に目を向ける。

 マタニティ服に変化は見えない。

 見えないだけで、サクラはジワリと広がる水分を感じているようだ。

 破水である。


『サ、サクラ! 大丈夫かい!? えっと、えっと、こういう時は』


『落ち着くんだジョージくん! ひとまず911だ! そ、そうだよなおまえ?』


『破水したのね。サクラさん、慌てないでね。私も最初の息子を産んだ時は予定日より前だったのよ。ジョージくん、病院は決まってるんでしょう? 911じゃなくてそっちに連絡してちょうだい。あなた、車を準備して』


 慌てふためくジョージ、冷静と見せかけて動揺しているプロデューサー。

 さすが年の功か、出産経験のある脚本家の女性は落ち着いていた。


『ほら、男たちはグズグズしないで動く! ……ってこの二人はダメそうね。ルイスくん、車を準備してもらえる?』


『はい! えっと、普通に運転すればいいですか?』


『ええ、そのつもりでね。病院にはこっちで連絡しておくから。サクラさん、病院の名前は? 入院準備はしてるのかしら?』


『あ、はい。ジョージ、お願い、荷物を持ってきて』


 おろおろしているだけだったジョージだが、妻の言葉は聞こえたようだ。

 脱兎のごとくリビングを横切り、緊急事態があってもいいようにと玄関に置いていたサクラの荷物を取ってくる。というか、それしか目に入っていない。

 玄関に向かっていたルイスはジョージにはね飛ばされ、扉に体を打ちつけていた。ぐえっと惨めな悲鳴を上げていたが、ケガはなかったようだ。


『サ、サクラ、持ってきたよ。それで、えっと、出産のときは、お湯と清潔なタオルだっけ、えっと、いまお湯を沸かすから』


『もうジョージ、ここで産むんじゃないんだから。バッグの中に病院の連絡先と名前が……』


『わかったわ、サクラさん。あとは任せてね。ほら、あなたもジョージくんもいつまで動揺してるの! 落ち着きなさい! ジョージくんは病院に電話して、あなたは車の準備ができたか見てきてちょうだい!』


 ジョージとサクラの家に、初老の女性の声が響く。

 ようやく落ち着きを見せた男たちが動き出すのだった。まあ指示に従っているだけだが。



 出産予定日の10日前。


 あたふたする男たちをしり目に、サクラは無事に初産を終えるのだった。


 ユージ、名実ともに『おじさん』である。



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[一言] おめでとベイビーちゃん!はじめまして!
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