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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十二章 エルフ護送隊長ユージは王都に向けて旅をする』

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第七話 ユージ、異世界生活五年目でようやく覚悟を決める

「アリスちゃん、それはいいんだ。それより……。アジトに、シャルルがいる」


「シャルル兄が!?」


 狼人族の男・ドニが告げた言葉に驚くアリス。

 盗賊に村を襲われ、行方不明になっていたアリスの家族。

 ユージがアリスを保護してからおよそ三年半が経っている。

 ケビンが手を尽くしても見つからなかった情報は、意外な所からもたらされた。


「ドニさん、覚えてますか? 行商人のケビンです」


「ケビンさん? あ、ああ覚えてるが……そのマントに旗……ケビンさんはゲガス商会だったのか?」


「ああ、ご存知だったんですね。ひょっとして、最初に幌馬車に当たった石はドニさんが?」


「ああそうだ。待ち伏せがバレているってのと、ゲガス商会の旗を見つけて、コイツら見逃すつもりだったらしいからな。潰してもらう好機だと思ったのよ。すまねえ」


「ドニ! やっぱりてめえの仕業か!」


 どうやらケビンはドニとも面識があったようだ。ケビンが行商で行っていた村の狩人。たしかにたがいを知っていてもおかしくはない。

 そのままケビンが話を進める。

 盗賊の情報、アジトの情報、そしてアリスの兄をどうするか。

 いまだに呆然とするユージは置いておいて、ケビンが情報を聞き出すようだ。ちなみに護送隊長はユージである。


「アイアス、黙らせといてください」


 ドニの裏切りを糾弾する盗賊の生き残りに目を向け、専属護衛の一人に指示を出すケビン。

 どうやらこの男、盗賊には冷たいようだ。

 同意するかのようにワンッと吠えるコタロー。がいやはだまらせときなさい、と言いたいようだ。盗賊に冷たい人物はここにもいたようだ。犬だが。


「なるほど、旗に気づいていたんですね。襲撃した盗賊を始末させて、あわよくばアジトを潰してシャルルくんを助け出してほしいと」


「そうだ、頼む!」


「ユージ兄! ケビンおじさん! サロモンおじさん! シャ、シャルル兄を助けて!」


「アリス……」


 ドニに寄り添っていたアリスが振り返り、一行を見渡す。

 やっと見つけた家族の情報である。目に涙を浮かべ、ユージに、ケビンに、サロモンにお願いするアリス。

 その悲痛な叫びが届いたのか、ようやくユージが再起動を果たして立ち上がる。


「そうだ、ユージ殿。童貞捨てて悩むのは後にしろ。ユージ殿、ケビン殿、どうする?」


 ユージとケビンに声をかけるサロモン。

 プルミエの街の冒険者ギルドマスターであるサロモンだが、同行しているのはエルフの少女・リーゼを護衛するため。一歩引いた立場から二人に判断を促していた。


「ドニさん、アジトにいる盗賊の数は? シャルルくんのほかに人質はいますか? アジトはどんな場所ですか?」


「シャルルを抜いて、アジトにはあと8人。人質になるのはシャルルだけだ。ここはまだ移動して間もねえんだ。アジトはもともと洞窟で、掘って広げてる」


「ふむ、その程度ならなんとでもなりますか。ドニさん、この隊の索敵役は優秀なんですよ。どうやって隠れていたんですか?」


「ああ。コイツらは『泥鼠』。待ち伏せや襲撃の時は、体に泥を塗って臭いを消す。それからこうやって草をまとって目をごまかす。……俺が、耳と鼻で相手を先に見つけて隠れれば、音はほとんど鳴らねえ」


「なるほど、それでドニさんはいまも生きていると。シャルルくんが人質ってわけですね? それに……ドニさん、右目のほかに右手も傷付けられていますね?」


「……ああ。片目、耳、鼻。あと足が動けばいいだろってな。まあ俺が働く限り、シャルルは生きてられるんだ」


「ドニおじさん……」


 アリスの村が襲われてから三年半。

 狩人で狼人族のドニは、その索敵能力を買われて生かされた。シャルルはドニを働かせるための人質だったようだ。


「では、待ち伏せでなければ問題ありませんね」


 視線を落とし、コタローに目をやるケビン。

 それに応えるかのようにワンッと鳴くコタロー。そうね、うごけばわかるわよ、とでも言うかのように。


「あとはシャルルくんをどうやって助け出すかですね……」


 アジトを潰してアリスの兄を助けるにせよ見捨てるにせよ、判断するには情報が足りない。ケビンは狼人族のドニから泥鼠の情報を聞き出していく。


「俺がアジトに戻ってその後に攻撃すればいい。俺が命をかけて、中からシャルルを守る。だから頼む!」


「……怪しまれませんか?」


「アリス、アリスもお願い! アリス、魔法でバーンってやるから!」


 ケビンとドニの会話は続く。

 いかに協力的な相手がいるとはいえ、ケビンは手慣れたものである。

 そしてアリスからの不吉な言葉。

 アリスを見つめ、ワンワンッと吠えるコタロー。ありす、それじゃおにいちゃんもしんじゃうわよ、と呆れた様子だ。

 洞窟型のアジトとなれば、たしかにアリスの火魔法一発で殲滅できるだろう。アリスの範囲型火魔法は、ゴブリンとオークの集落の半分を火炎で包むほどの威力なのだ。どう考えても鏖殺である。


「怪しまれない状況……おお、そうだ! よし、いけそうです。……ユージさん。アジトを潰してシャルルくんを助ける。それでいいですか?」


 どうやらドニが戻っても怪しまれない解決策が浮かんだようだ。

 これでアリスの兄を助けてアジトを潰す算段が立ったのだろう。ケビンは判断をユージに託す。

 いかにケビンが主導しているとはいえ、一行の責任者はエルフ護送隊長であるユージなのだ。まあ護送対象のリーゼはすっかり蚊帳の外だが。


 ケビンの投げかけを聞いて、ひとつ大きく息を吐くユージ。


「アリスのお兄ちゃん……。ケビンさん、わかりました。じゃあ襲撃するメンバーと残るメンバーを決めましょう」


 青い顔をしながらも宣言するユージ。

 ワフッと一声鳴いたコタローがユージの足に寄り添う。それは、よくいったわゆーじ、と褒めているかのようで。



「ユージさん、手早く決めましょう。エンゾさんが周囲を探っていますから、生き残りはいないと思いますが……」


 盗賊に襲われたが、撃退ではなく殲滅であったとあらためて告げるケビン。

 ユージの顔は青い。


「そうですね。まず、俺は行きます。アリスとリーゼはここで待たせます」


「ユージ兄! アリス、アリスも行く!」


『アリスのお兄ちゃんを助けるんでしょ? リーゼもやるわ!』


「ダメだ。二人とも、俺に任せて大人しく待っててくれ。ですよね、サロモンさん?」


「ユージ殿、リーゼの嬢ちゃんに伝えてくれ。護衛としてそれは許可できないって。アリスの嬢ちゃんも……手が足りなけりゃアレだが、今回は充分だろう。それに、何かあった時に動揺されても困る。二人とも俺と一緒に居残りだ」


 屈みこんで二人の少女の肩に手を置き、そっとなだめるサロモン。優しい男である。だがせめて顔に付いた返り血は拭くべきだ。気づかう言葉とは裏腹に、見た目は二人の美少女に襲いかかる犯罪者だ。事案である。


「ユージさん、私も行きますよ。私のかつての行商先を襲い、今度は直接襲われたわけですからね。このまま見逃すわけにはいきません」


「ケ、ケビンさん……?」


 ニッコリと笑って強襲組に参加表明するケビン。

 いつもと雰囲気が違うケビンにユージは引き気味である。


「まあ馬車と馬の管理、居残り組の護衛にアイアスは置いていきます。サロモンさんがいますし、居残り組の戦力はそれで充分でしょう」


 ケビンの案に賛成なのか、ガウッと勇ましく吠えるコタロー。すでに歯を剥き出し、わたしはいくわよ、と言わんばかり。殺る気まんまんである。


「ユージ殿。次はおそらく見た目も人間だろう。ためらうなよ。コイツらはアリスの嬢ちゃんの村を襲い、家族をさらい、これまで行商人や旅人を殺してきたんだ。子供を助けるってのもあるが……この道が通れなくなったら、いずれプルミエの街は干上がる。盗賊はきっちり殺ってくれ。これはプルミエの街の冒険者ギルドマスターとしての言葉だ」


 ユージと目を合わせてサロモンが告げる。

 まるでユージの罪悪感を晴らすことが目的のように。

 ユージの顔色は優れないが、サロモンが言わんとしたことは理解したのだろう。かすかに首を動かして頷いていた。


 盗賊のアジトを潰しに行くのは、ユージ、コタロー、ケビン、ケビンの専属護衛の一人、エンゾの合計四人と一匹。

 居残り組はアリス、リーゼ、ケビンの専属護衛の一人、サロモン、ユルシェル。


 プルミエの街から王都への旅、その五日目。

 ユージがこの世界に来てから五年目。

 ついにユージは、人間と戦うことになるのだった。

 いや、すでに童貞すら捨てているのだが。あらためて対人戦、しかも殺る気でとなるとやはり違うのだ。



あと二話で落ち着くはず……


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