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閑話 11-17 サクラ、ジョージと一緒に映像化の諸々を打ち合わせる

副題の「11-17」は、この閑話が第十一章 十六話終了ごろぐらいという意味です。

時系列で言うと、ユージが旅立った十一章エピローグの後ですね。

今回は会話多めです!

ご注意ください。

『サクラ、ただいま! ベイビーもただいま!』


『おかえりジョージ。あ、ちょっと動いたみたい。パパの声が聞こえたのかなー』


『こんにちはサクラさん。あらあら、もうずいぶん大きくなったのねえ』


 アメリカ、ロサンゼルス郊外。

 ユージの妹・サクラと夫のジョージが住む家。

 ジョージが来客を連れてきていた。

 サクラさんは妊娠中なんだから、私たちが行くわ、と気づかったプロデューサーと脚本家の夫婦である。


『すみません、こちらに出向いてもらっちゃって。もう安定してるんですけど、ジョージが心配性で……』


『いいのよいいのよ! 何かあったら大変ですもの! それで……触ってもいいかしら?』


『ええ、どうぞ! 最近はけっこう動くんですよねー』


 午後の陽が射し込むリビングのソファで、和やかにくつろぐ初老の夫婦とサクラ。

 ジョージはキッチンでコーヒーを淹れているようだ。もちろんカフェインレスコーヒーである。


『それで……今日はどうしたんですか?』


『ああ、中間報告みたいなものだよ。正式には日本サイドと書面で交わすが、サクラさんにも伝えておこうと思ってね。そのうえでひとつアドバイスもしておきたいと思ったんだ』


『はあ、そうですか……』


 ジョージの友人のルイス。彼に紹介してもらったプロデューサーから持ちかけられた映画化の話。

 ユージとサクラが引き受けたソレは、すでに検討のための契約が結ばれていた。いまはプロデューサーによる資金集めの段階である。

 まだオープンになっていない話のため、サクラは実感がわいていないようだ。


『どこから話そうか……ふむ。サクラさん、私にはテレビ業界にもコネクションがあってね』


『はあ……そうですよね、最近はドラマシリーズでも映画監督が作ったり俳優さんが出ることも多いですもんね。えっと、どなたでしたっけ、あの……』


 サクラ、もはや一般人と同じ反応である。だが海外ドラマにおけるJJなんとかの話はしてはいけない。


『ユージさんが旅から帰ってきてからになるのだが、まず最初にドキュメンタリーとして取り上げることになると思う』


『……えっ?』


『ユージさんが撮影した動画とユージさん本人へのインタビュー。まあインタビューは、実際のやり取りは文字で、映像上はインタビューの映像に吹き替えを乗せることになるだろう。それから日本の跡地の映像や、当時のネットの反応を紹介しようと考えている。おそらく2時間程度の番組になるはずだ』


『は、はあ……でもそれって、本当かどうかわからないんじゃ?』


『その通り! でも気になるだろう? すごく疑わしい話だ、俺が暴いてやろう、と』


『それが普通だと思います。私だって信じられませんでしたから』


『うむ。だがおそらく、これで話題になるだろう。そこで、次だ』


『あ、なるほど! 話題になったところで、映画を発表するんですか?』


『サクラさん、それでは、ほら見ろ映画の宣伝だったんだ、で終わりだよ。次は真面目なテレビ局で検証番組をやるのさ』


『え? その、ディスカバリー的なアレとかですか?』


『そうだ。動画や写真が加工されていないかの検証。ユージさんが撮影したモンスターや獣人、生き物や生態系を含めた検証。夜空を撮影してもらって天体観測。文字の検証。専門家を交えて、あらゆる角度から本当かどうか検証する』


『……ひょっとしたら、お兄ちゃんが帰ってくるヒントも!』


『そうだね、あるかもしれない。それとあわせて……サクラさん』


『はい?』


『家があった場所も検証したいと考えている』


『わざわざ日本に行くんですか?』


『それはもう! こんな話を聞いたら、自腹どころかお金を払ってでも研究させてくれって人はいくらでもいるはずだ!』


『は、はあ、そんなものですか……』


『もちろん! こういった流れで、ユージさんにも協力してもらってドキュメンタリーと検証番組をしばらく放送する。並行して映画の撮影をはじめ、公開したいと考えている』


『そうですか……たしかに、いきなり映画より盛り上がりそうですね』


『そう、そこだ。日本サイドとはあらためて話すとして、先にサクラさんにアドバイスを伝えておきたかった』


『え? なんでしょう?』


『サクラさん、自宅があったまわりの土地を買い占め、警備をつけておいたほうがいい』


『……え?』


『マスメディアの取材もそうだが……放送がはじまったら、さまざまな人が押し掛けるだろう。おそらく映画の舞台になった場所の比じゃない。ファンや研究者、異世界行きを望む者、一般人も、ひょっとしたら公的機関も動くかもしれない』


『……え? えっ?』


『サクラさん。もし異世界に行く方法がわかったら……そこは新天地だ。現代で発見されたフロンティア。日本政府がどう反応するかはわからないが……とにかく、周辺の土地を押さえ、警備するに越したことはない。金銭面でも警備会社の紹介でも、私たちにできることはなんでも協力しよう』


『そ、そこまでですか?』


『おそらく。少なくとも、私が知っている中でさえ、お金も時間もあって面白いことが好きな人たちもいる。周辺の土地を丸ごと買い上げ、家はもちろん自費で研究施設を作り、世界中から研究者を集めるという人は何人も思い浮かぶぐらいだ。長寿や若返り、身体能力のアップ、魔法……どれか一つだったとしても、飛びついておかしくない』


『……え? まあ、そう言われたら確かに……』


『ちなみに、私だってやる』


『ええっ!?』


『サクラさんやユージさんがそれを良しとするならそれでもいい。ただ、そうなるだろうと知っていて放置はできなかったんだ。コレに怒られるからね』


『そうよ! この人ったら弁護士に日本の法律を調べさせてたんだから! オンを仇で返してどうするのって怒ったの』


『ありがとうございます。と、とにかくお兄ちゃんと、弁護士さんに相談してみますね。あ、あと、オンじゃなくて恩ですよ? オンは英語じゃないですからね?』


『うむ、それがいい。いずれにせよ、番組の企画が動き出すのはユージさんが旅から帰ってからだ。早くても撮影は秋ごろ、放送は冬あたりになると思う』


『わ、わかりました……』


 プロデューサーから聞かされたことで、ようやくサクラも現状を把握したようだ。さっそくスマホを取り出して郡司の電話番号を探している。


『サクラ、日本はまだ早朝じゃないかな?』


『あ、そっか。ちょっと焦っちゃったみたい』


 サクラの横に座り、話を聞いていたジョージがさっそく電話をかけようとしたサクラに忠告する。冷静なように見えて、サクラもだいぶ動揺しているようだ。


『だいじょうぶよサクラさん。早いほうがいいでしょうけど、話題になるのは冬に放送されてからですからね』


『あ、はい、ありがとうございます』


『早いほうがいいって、もう先走ってるヤツもいますけどね!』


 脚本家の夫人の言葉を受けてジョージが言う。

 なぜか笑い合うサクラ以外の三人。アメリカンジョークではない。


『えっと、どうしたんですか?』


『それがね、サクラ。どうせ映画化するんだからって、ルイスが異世界のモンスターをCGでモデリングしはじめてるのさ。仕事じゃなくて趣味だって言い張ってるんだけど、アレはもう製作に参加するつもりだね』


『それに、パタンナーの子ももう服を考えはじめちゃってるのよ。まあ二人とも製作スタッフに参加してもらう予定ではあるんだけどねえ』


『あ、それで最近ルイスくんは遊びに来ないんだ』


 三人が笑っていた理由を聞き、納得顔のサクラ。

 どうやらルイスは幸せなジョージとサクラに遠慮したわけでも、妊娠したサクラに気を遣ったわけでもなく、趣味に没頭していたようだ。いや、そのまま仕事に繋がるのだが。



 ついに見えてきた映画化に関する具体的な話は、こうしてひっそりと進んでいくのだった。

 この日を境に、日本で設立された会社とNPOは動きを加速することになる。

 ブラックはイヤだ、という元ニートたちの切実な悲鳴とともに。



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