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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十一章 開拓団長兼村長兼防衛団長ユージはエルフ護送隊長も兼務する』
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第九話 ユージ、アリスとリーゼと一緒にプルミエの街を見てまわる

「うわあ、うわあ! ユージ兄、おふねだよ! アリスはじめて見た! おっきいねえ!」


「おお、ホントだ! あの帆で進んでるのかな? やっぱ船はロマンだよなー」


 プルミエの街の河原に、アリスのハイテンションな声が響く。

 笑顔でそれに答えるユージ。


 ちなみにユージは半裸だった。ついに変態になったのだ。

 いや違う、ユージたちはプルミエの街の名物・川辺のサウナに来ているのだった。

 しかもケビンのはからいで、サウナを貸し切って。


『ニンゲンの船は大きいのね……ユージ兄、あの船はどこから来たの?』


『ちょっと待ってねリーゼ』


 リーゼの質問を訳し、ケビンに尋ねるユージ。

 ちなみに今回は、男はパンツ着用、アリスとリーゼはサウナが貸し出している専用の湯浴着に袖を通していた。二人とも盛り上がりはない。9才のアリスはともかく、リーゼはもう12才なのだが。どうやらエルフのレディは慎ましやかなようだ。カラダが。

 前回と違い、さすがにもう全裸はマズいだろうと着衣のサウナタイムであった。

 リーゼは街に来てからずっとかぶっていたニットキャップを外し、エルフ特有のとがった耳をさらけ出している。そのためにケビンがまるごと貸し切ったのだ。短い時間なのでたいした額ではなく、街の有力者がたまにやることらしい。


「どこから来たか、ですか。下流から上ってきたわけですから、おそらく王都でしょう。水棲モンスターに襲われる可能性はありますが、運べる物資の量が違いますからね。一攫千金を夢見る商人も多いのですよ」


「そうですか……ちなみに、個人で使うような小さな船はないんですか? 旅行とか……」


「ユージさん、ほぼありません。小さな船は確実に水棲モンスターに狙われます。腕に覚えのある護衛を雇っても、手の届かない船底に穴を開けられて水の中に引きずりこまれたら分が悪いですしね。いちおう船底は強化するものですが……」


 大きな船は、単に「巨大な敵で負けそう」と水棲モンスターが勘違いして襲わないだけなんですよ、と続けるケビン。それでも襲われ、沈められることも多いらしい。


「はあ、なるほど。じゃあ水運って割に合わないんですねえ……」


「そうですね。儲かるか破産か運任せです。私が修業したゲガス商会も私の商会も、水運には手を出していませんね」


 そう言って帆船を眺めるケビン。

 ちなみに、船は喫水が浅いいわゆる平船であった。川を上る際は、時に魔法でおこした風を帆に受けながら進むらしい。


 目をキラキラさせて答えを待つリーゼに、ケビンの話を通訳して聞かせるユージ。初めて船を見たアリスはいまだテンション高く、コタローと一緒に河原を駆けまわっている。


 領主との会談を終えた翌日。

 ケビン、専属護衛の二人、コタロー、ギルドマスターのサロモン。護衛する大人たちに囲まれて、二人の少女はプルミエの街を見てまわるのだった。


 手製の黒い箱におさめたカメラを胸元に掲げる、挙動不審なユージとともに。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「アリス、リーゼ、手を繋いでね。離しちゃダメだよ!」


 ユージの言葉に、はーいと答える二人の少女。

 サウナを出た一行は、ついにプルミエの街の見物に向かうようだ。


 ユージは左手をアリスと繫ぎ、そのアリスのもう一つの手はエルフの少女・リーゼと。リーゼの横には、護衛として冒険者ギルドのマスター・サロモンが歩いている。

 前を行くのは案内役のケビンと、尻尾を振ってご機嫌のコタロー。

 後ろにはケビンの専属護衛二人がついている。ケビンの護衛はいいのか。まあケビン自身も『戦う行商人』という二つ名を持っているのだ。いざとなれば、その恰幅のいい体を揺らして戦うのだろう。たぶん。


 大通りに出て、青空市場へと向かう一行。さっそくリーゼが目を見張る。

 人も家も、とにかく雑多なのだ。


『うわあ……ニンゲンってスゴイのね! ごちゃごちゃしてる!』


 笑みを浮かべてユージに告げるリーゼ。

 ユージが初めてプルミエの街を訪れた時と同じように、その印象に驚いているようだ。


 歩く人々は様々。

 旅装の者、商人風、ユージや護衛たちのように鎧に身を包んで武器を持つ者、農民風。服装も様々なら、人種も様々。コーカソイド系、モンゴロイドに近い人物、二足歩行する犬や猫に似た獣人たち。

 キョロキョロするリーゼもさることながら、空いた右手で棒を持つユージも忙しそうだ。

 ユージが持っているのは、木工職人のトマスに依頼して作ってもらった特注品。棒の先には、黒い箱におさめられたカメラが取り付けられている。

 自撮り棒である。どうやらユージは動画モードで街の様子を撮影しているようだ。


『リーゼ、ここはもともと移民の街なんだって。だから人も建物もごちゃごちゃしてるんだってさ』


 いつかケビンから聞いたことをリーゼに伝えるユージ。

 そうなのね! と繋いだ手を前後にぶんぶん揺らして、テンション高く答えるリーゼ。とてもレディらしからぬ振る舞いである。慎ましやかなのはカラダだけのようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 特にトラブルもないまま、プルミエの街の青空市場にたどり着いた一行。

 ここが今日の目的地である。


 食料品には目もくれず、リーゼの希望でやってきたのは衣料品エリアだった。

 気を張るコタローや護衛陣とは違い、キャッキャとはしゃぎながら露店を見てまわるアリスとリーゼ。

 リーゼはニットキャップをかぶり、エルフ特有のとがった耳を隠している。髪の色も目の色も違うのに、まるでアリスとは仲の良い姉妹のように見えるから不思議なものだ。露店の売り子も姉妹と間違えて声をかけるほど。ひょっとしたら雑多な人種が混じるプルミエの街では髪や目の色が違う血縁もめずらしくないのかもしれない。


『うーん、でも、ユージ兄の家にある服とか、ユルシェルさんが作る服のほうがキレイね』


 そんなことを呟きながら、それでも楽しそうに初めてのニンゲンの街、その市場を見てまわるリーゼ。そんなリーゼがふと足を止める。


『リーゼ、どうしたの? 何か欲しいものでもあった?』


 上がった身体能力をカメラの保持に活かすユージが声を掛ける。能力の無駄遣いである。いや、映像の買い手がついたのだ。向上した腕力で手ブレが少なくなるのなら、きっと有効な活用法なのだろう。


 リーゼが目を留めたのは、装飾品の露店。

 金属製、木彫り、布や糸で作られたアクセサリーが並ぶ店だった。


「ユージ殿、何か買ってやったらどうだ? そういえばユージ殿はゴブリンとオークの討伐の依頼報酬をまだ受け取ってないだろ? まあワイバーンの革の取り分だけで、この店の商品をぜんぶ買い取っても余りそうだが」


 リーゼの護衛として同行していたギルドマスターのサロモンがユージに小声で耳打ちする。

 その声を聞きつけたのか、ワンッと吠えるコタロー。あらさろもん、じょせいにきをつかえるのね、いがいだわ、と言っているかのようだ。失礼な女である。犬畜生か。


「よーし、二人とも、好きな物を選んでいいよ! 俺がプレゼントするから!」


 現地の言葉で、次にエルフの言葉で伝えるユージ。

 さっそく目を輝かせて二人の少女が品物を選びはじめる。集中する二人を周囲から隠すようにまわりを固めるケビン、専属護衛の二人、サロモン。まるでオタサーの姫を守る男たちである。


『ユージ兄、コレがいい! リーゼと、アリスちゃんと、ユージ兄と、コタローと、みんなでお揃いにしましょ!』


 リーゼが選んだのは、色とりどりの紐で編まれたアクセサリー。地球で言うところのミサンガである。ナツい。ちなみにビーズなしで紐のみのミサンガだった。


『リーゼ、これでいいの? もっといいヤツでもいいんだよ?』


『いいの! だって、コレならコタローも付けられるでしょ?』


 ニコニコと笑みを浮かべて断言するリーゼ。

 その言葉にコタローは興奮したように尻尾を振り、リーゼにまとわりつく。ありがと、りーぜはいいこね、と言っているようだ。


 会計を済ませたユージが、さっそく二人と一匹にミサンガをつける。

 アリスとリーゼ、ユージは左の手首に。

 コタローは首に。

 ちなみにこの世界では、紐が自然に切れたら願いが叶うという縁起担ぎの意味はないようだ。


 それでも、祈りを込めてユージは紐を結んでいた。

 いつまでもアリスとリーゼとコタローが元気で、幸せでいられますように、と。


 ユージ、すっかりリーゼの保護者気分である。

 まあ実際、リーゼがエルフの里に帰るまでは公的にもユージが保護者なのだが。



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[良い点] コタローへのツッコミが好き [一言] 犬畜生です
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