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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十一章 開拓団長兼村長兼防衛団長ユージはエルフ護送隊長も兼務する』

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第七話 ユージ、初めて領主と対面する

「い、いよいよか……」


「ユージさん、落ち着いてください。私も同席しますし」


『だいじょうぶ、ユージ兄? 顔が白いわよ?』


「ユージ兄、せっかくかっこいいお洋服きてるんだから、しゃんとしなきゃ!」


 小綺麗な服に身を包んだユージが緊張で身を震わせる。街にたどりつき、その日のうちに一年前に仕立てた服を受け取ったユージとアリス。

 その翌日、ユージはケビンが用立てた馬車に乗り込んでいた。


 この地の領主に会うために、ユージたちは領主館に向かっているのだ。

 馬車に乗り込んでいるのはユージ、アリス、リーゼ、コタロー、ケビン。リーゼの護衛として、冒険者ギルドマスターのサロモンも同乗している。

 御者と護衛として、ケビンの専属護衛のふたりもついてきている。


 初めて領主に会うユージは緊張を隠せない。

 精神安定剤がわりなのか、コタローをヒザの上に乗せて抱きしめるユージ。暴れることも逃げることもなく、コタローは大人しくユージのされるがままになっていた。優しい女である。犬だけど。


「ユージさん、開拓の激励とエルフ保護への感謝なのです。心配しすぎですよ」


「ケビンさん、そうは言ってもですね……」


「まあユージ殿の心配はわかる。お貴族様に会うなんて考えられないからな。まあ慣れだ慣れ。それに領主様は良い人だぞ? ちょっと豪快だが」


 ユージの緊張に理解を示すのは冒険者ギルドのトップであるサロモン。平民から1級冒険者に昇り詰めたサロモンも、かつてはユージと同じように貴族に会うと聞いて緊張していたのだ。

 そのサロモンはリーゼの護衛としてユージたちにずっとついてまわっている。口の端から頬にかけて大きな傷跡が残る強面のサロモンだが、リーゼは特に怯えることなく接していた。ニンゲンって変わった顔の人もいるのね、とユージにだけわかる言葉で言っていたが。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 領主の館にたどり着いた一行は、侍女の案内で応接間に通された。

 いつものごとくコタローは門番の警備兵の詰め所でお留守番である。回状でもまわっていたのか、詰め所には獣人の警備兵が大挙して押し寄せていた。コタロー、すっかりアイドル扱いである。あるいはその語源の通り、偶像扱いである。


 ユージを中央に、着席して待つ一行。

 連れてきた専属護衛の二人はケビンの後ろに、サロモンはリーゼの後ろに立っていた。どうやらサロモンはギルドマスターではなく護衛としての立場で領主との会談に同席するようだ。


「そ、そろそろですかね……」


 そわそわと落ち着かない様子のユージ。侍女に、いや、本物のメイドさんに淹れてもらったお茶はすでに三杯目。決してメイド喫茶気分を堪能していたのではない。緊張で喉が乾いてしょうがないようだった。


 落ち着かないのはユージだけではない。

 街に着いてからずっと、リーゼは目を輝かせてキョロキョロとあたりを見渡している。エルフのリーゼにとって初めて目にするニンゲンの街。見るものすべてがめずらしいようだ。いまも侍女が着ている制服、応接間に置かれた数々の調度品、カップに注がれたお茶、次々に視線を移している。


 そして。ユージたちのもとへ足音が聞こえてくる。

 ドタドタと、貴族の館ではありえないほどの音。

 ノックもなくガチャリと開く応接間の扉。


「お待たせしましたお客人! おお、あなたがユージ殿ですか!」


 入室してきたのは大きな男。2mを超える身長もさることながら、筋肉の鎧をまとった身体は横にもデカい。ついでに声もデカい。先ほどの足音もこの男のものなのだろう。


「ファビアン様、せめて領地では貴族らしい振る舞いをお願いします」


「そうよあなた。ほら、ユージさんたちも驚いているじゃない」


 呆気にとられるユージをよそに、遅れて入ってきたのはプルミエの街の代官と領主夫人の二人。


「おお、すまんすまん! なにしろ騎士団生活が長くてな! 貴族の作法など忘れてしまったわ」


 ガハハと大口を開けて笑う男。豪快である。

 なぜかそんな大男に熱い視線を送る領主夫人。冷たい目で見据える代官とは対照的だ。


「初めてお目にかかります。プルミエの街、ケビン商会の会頭のケビンと申します。本日は開拓団長のユージ殿とそのご一行をお連れいたしました」


「おお、これは丁寧に! ケビン商会か、噂は聞いてるぞ! たしか新しい保存食を売り出しているとか……どうだ? 騎士団に卸さんか? ん?」


「ファビアン様、せめて先に挨拶を済ませてください。それから本日は商談ではありません」


「おお、そうだったそうだった! ファビアン・パストゥール、この地を治める領主である! まあ普段は王都で騎士として励み、領地のことは妻と代官に任せっきりなのだがな!」


 緊張状態からの大男の登場にいまだ呆然としていたユージ。

 領主の名乗りを聞いて、ようやくユージは我に返る。


「ホウジョウ村の村長で開拓団長のユージです。よろしくお願いします」


『はじめまして! リーゼです。もう12才の立派なレディよ! それにしても……なにアレ。ニンゲンのレディはおっぱいが大きくないとダメなのかしら?』


 ユージの自己紹介に続き、リーゼが領主、夫人、代官に挨拶する。

 通訳するユージは挨拶以外のリーゼの言葉は訳さなかった。どうやらユージも空気が読めるようになったようだ。だが、ユージはリーゼの勘違いを訂正しない。それどころかコッソリ頷く始末である。巨乳至上主義のユージにとって、レディはおっぱいが大きくないとダメなようだ。


 幸いなことに今日の領主夫人は胸部装甲をがっちり覆うホルターネックのドレス姿。夫である領主がいるからか、あるいは色仕掛けをする気がないのか。魅惑の谷間は厚い雲で覆われていた。


「おお、やはりあなたが開拓団長のユージ殿か! それにそちらがエルフのリーゼ嬢! ん? サロモン? お主なにしておるのだ?」


「領主様……本日はエルフの護衛として同席しております」


「おお、そうかそうか! サロモン、リーゼ嬢によからぬことをしようとするヤツらがいたら叩っ斬れ! 儂が許す!」


「サロモン殿、基本はそれでかまわないが、可能なら生きたまま警備兵に渡してほしい。ファビアン様、まずは席にお座りください」


 慣れた様子で領主の発言をフォローしつつ、とにかく場を収めようとする代官。

 普段は領主の代理として有能な面を見せる領主夫人は、どうやら夫の前だとしおらしくなるようだ。何に惹かれているのか、ニコニコと笑みを浮かべて豪快な領主の言動を見守っている。

 ともあれ、こうして領主とユージの初会合がはじまるのだった。



「ユージ殿、まずは礼を。冬期間のエルフの保護に感謝する。些少だが、後ほど謝礼をお渡ししよう」


「あ、ありがとうございます」


 席に着いた領主の第一声は感謝の言葉であった。

 この相手であれば問題ないと思ったのか、ケビンはユージに合図を送り、ひとまず直接話をさせていた。事前にハンドサインを決めていたのだ。


「それからアリス殿。盗賊に襲われたアンフォレ村の生き残りとお聞きした。この地を治める領主として謝罪する」


 これまでの豪快な様子から一転、平民であるアリスに頭を下げる領主。アリスは目を見張りながらもコクリと頷く。


「何年かかっても、必ずこの地を荒らした盗賊団は根絶やしにすると約束しよう。わがハルバードにかけて」


 あ、そこは剣じゃないんだ、と心の中で領主に突っ込むユージ。口にしないのは成長の証だろう。


「リーゼ殿、開拓地で不便なことはないか? もし希望があれば手配しよう。王都のエルフと連絡がつくまでこの館で保護してもよいのだが、その場合は敷地の外には出せないのでな……。まったく、わが街ながらお恥ずかしい」


『開拓地のほうがいいわ! ユージ兄もアリスちゃんもコタローもいるもの』


 ユージを介して領主の言葉を聞き、笑顔を浮かべて開拓地を希望するリーゼ。その返事にユージも思わず顔をほころばせる。


「うむ、そうか。新しい開拓地はそれほどに居心地がよいのか……」


「あなた、ダメですよ。お仕事はたくさんあるのですから」


「……まだ何も言ってないではないか」


「うふふ、あなたの考えなんてお見通しです」


 艶っぽい目つきで夫をいさめる領主夫人。

 貴族で騎士で身体に恵まれ、豪快で筋を通し、美しく色気がある巨乳令嬢を娶った男。リア充である。


「ユージ殿、開拓は順調なようだな。領主として喜ばしい。これからも励んでほしい。たしか道造りに補助を出すんだったな?」


「その通りですファビアン様。ケビン商会の会頭、ケビン殿から貴族向けの保存食の提案をいただきました。秘密を守るために開拓地で製造させる予定です。とはいえ物資を運べなければ話にならないと、道造りを援助することにいたしました」


「うむ。ユージ殿、ケビン殿。ここは辺境であり、まだまだ貧しい。ぜひともがんばってくれ。本音を言えば、ユージ殿とアリス殿は騎士団に、ケビン殿は王都で店を構えてもらいたいのだが……」


「あなた、ダメですよ。いくらあなたの生活の中心が王都でも、この地の領主はあなたなんですから。引き抜きは認めません」


「ファビアン殿、諦めてください。奥様の言う通りです」


「領主様、お気持ちは大変嬉しいのですが、私もユージさんも、いまはこの地を離れるつもりはありません」


 ケビンの言葉にコクコクと頷くユージ。いかに位階が上がって身体能力が上がったとはいえ、ユージは10年間引きニートだった男なのだ。騎士団に入り、朝から晩まで訓練に励み、領主のようなマッチョになりたいとは思いもしなかったようだ。


「あなた、騎士団はそろそろ後任にまかせて引退されたらどうかしら? そうすれば、あなたはずっとこの街で私と一緒に……」


 頬を赤く染め、この機会にとばかりにアプローチする領主夫人。ラブラブか。


「お二人とも、その話は後ほどお二人の時に」


 冷静な代官の言葉で、領主夫婦が居住まいを正す。どうやらそれぞれは能力が高いが、二人揃うとダメになるタイプの夫婦のようだ。


「う、うむ、すまぬ。さてユージ殿。後援者であるケビン殿もいるようだし、開拓地についての話をしたいのだ。なに、身構えることはない。先ほどの道造りのように、領地にとって良いことがあれば援助しようというのが基本だ。なにしろひさびさに成功しそうな開拓なのでな」


 わざとらしく咳払いをして、話を戻す領主。

 本題の一つ、エルフの保護に関する話は終わった。開拓団への激励も終わったように思えたが、どうやらこれからが本題のようだった。


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