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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第九章 開拓団長ユージはホウジョウ村村長と防衛団長を兼務する』
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第五話 ユージ、開拓民を率いて戦後処理する

作中にて残酷な描写があります。

苦手な方はご注意ください!


また、前話の後書きに布陣見取図を追加しております。

前話の配置がわかりづらかった、という方はそちらをご覧ください!

 ユージの前で剣を構えていた元3級冒険者パーティのリーダーが、崩れ落ちたオークリーダーを目にしてふっと構えを解く。

 振り返ってユージを見る男の顔に浮かんでいたのは、苦笑いだった。


「ま、まあ、みんな無事だったんだし良しとしましょうよ」


 ユージが男にフォローの声をかける。ユージがフォローとは。明日は槍でも降るのか。

 ユージの言葉に、ああ、そうだな、とパーティリーダーはいまだ苦笑いであった。



 戦闘を終え、息があったモンスターにトドメをさしていき。

 今は開拓民とケビンたちが、柵の前に集まっていた。


「それにしてもすごい光景ですね…………うっぷ」


 いまだ逆茂木に突き刺さったゴブリン。地面には、何本もの矢が刺さって青い血を流すゴブリンが大量に転がっている。殺し間の中ほどには、アリスの魔法を受けて焼け焦げたオークたち。開拓地に近い柵の前には、ロープにかかって転がり、ユージたちが仕留めていったゴブリンたちの亡骸。時が経つにつれ、血臭と焦げ臭さが鼻につく。


 戦闘を終えて気が抜けたのか。

 あらためて戦いの跡を見渡したユージが、あまりのグロさに吐き気をもよおす。

 目で、鼻で、惨状を感じてしまったのだ。


「ああ、そういや大規模な戦闘ははじめてだったか。まあそのうち慣れるさ。ともかく、お疲れさん。初めてにしちゃ作戦も指揮も上出来だったぜ」


 パーティリーダーが労うようにバンバンとユージの背中を叩く。

 いやちょっと、いまそれは、などと言いながら吐き気をこらえ、しゃがみこむユージ。

 ユージに心配そうな目を向けていたコタローが、足下からさっと退避する。ゆーじ、だいじょうぶ? でもわたしにはかけないでね、と言いたげな動きであった。冷たい女である。いや、仕方あるまい。地面に体が近い分、人よりもかかる危険性が高いのだ。コタローは犬なのだ。

 そんなユージにトコトコとアリスが近づき、ユージ兄、だいじょうぶ? と背中をさすっていた。優しい女である。そして、この惨状を目にしても平気なようだ。グロ耐性はユージよりも上なのだ。もっとも、ユージに吐き気をもよおさせた臭いの大半はアリスの火魔法が原因なのだが。

 さりげなくケビンが差し出した水袋を受け取り、ようやく落ち着いたユージ。どうやら吐かずにすんだようであった。


「これ、片付けが大変ですね……。そうだケビンさん、モンスターから素材はとれないんですか?」


 立ち直ったユージがケビンに質問を投げる。

 戦場となったのは、開拓地から街を繋ぐ獣道、その開拓地前である。衛生的な観点からも処理しないわけにはいかないのだ。

 開拓団長として、村長としての質問とも言えるユージの言葉。男子三日会わざれば、である。ユージは33才のおっさんだが。


「もちろん私たちも片付け手伝いますよ。素材ですか、そうですねえ……。例えばドラゴンなんかは、牙や鱗が使えます。ただ、ゴブリンやオークは……。肉や骨は、細切れにして畑にまけば肥料になるようですが……?」


 そう言ってケビンは、ユージの奴隷、犬人族のマルセルを見つめる。現在のところ、開拓地の農業はマルセルが取り仕切っているのだ。

 ユージも尋ねるようにマルセルに目を向ける。ユージはちょっと青い顔であった。細切れ作業を想像してしまったのか。


「まだ肥料はなくても大丈夫です。細切れにするのは大変ですし」


 マルセルは首を振って肥料にすることを否定する。その横では、マルセルの息子のマルクがほっとした表情を見せていた。ユージ同様、細切れにする作業を想像して不安だったようだ。


「ってことは、単純にどうにか処分するしかないんですねえ。うーん」


「ユージ兄、アリスがえいってまほーで燃やしちゃう?」


 自分の出番だ! と思ったのか、張り切ってアリスがユージに声をかける。お、そりゃいい、と元冒険者たちも喜びを見せる。

 60体のモンスターの死体処理。

 それは、アリスの独擅場となるのだった。



 えーい、というかわいらしい掛け声とともに放たれるアリスの火魔法。それは数日前、殺し間の下草や灌木を処理する際に活躍した範囲型の火魔法であった。

 柵のそばで見守るユージたちの足下には、たっぷり水が入った瓶が並んでいた。手持ち無沙汰なのか、ケビンに声をかけるユージ。


「それにしても……どうしてこの場所が襲われたんでしょうね。やっぱり見つかった集落のゴブリンとオークですよね?」


「ええ、そうでしょうねえ。多少は知恵がまわるオークリーダーがいるようですから、道を見つけてたどってきたのかもしれません。道の先には何かがいる、それぐらいは判断できる知能があるようですから。街道であれば巡回する警備隊が片付けるんですが、ここはまだ未開に近いですしね」


「なるほど……。だとすると、街のほうは大丈夫ですかね? それに、道を拓いていた大男や猿人族の男も……」


「街は問題ありませんよ。この道は私たち以外は冒険者ぐらいしか使いませんし、コイツらが街まで行ったところで壁の上から弓矢を放って終わりです。これが村なら、この数は大変だったかもしれませんが。道を拓いていたあの二人は……ずいぶん道の周辺の地形に詳しくなっていたようですし、まあ大丈夫でしょう」


 ユージとケビンがそんな会話を交わしている間に、アリスの火魔法も消えたようだ。

 死体の肉は燃え尽き、白骨がごろごろと転がっていた。

 陰惨な光景である。

 昼間でよかった、とユージがつぶやき、つまんでいた鼻から手を離す。

 ちなみに、コタローと獣人族一家は住処であるテントに一時退避していた。彼らにとって、鼻をつまむ程度で我慢できる臭いではなかったようだ。


「よし、じゃあ火が燃え移らないように水をまいて、アリスが造ってくれた穴に放り込んでいきましょう!」


 ユージが号令をかけ、おー! と声をあげて開拓民が動き出す。

 防衛戦の指揮で自信を得たのか。ユージ、ナチュラルな指揮っぷりであった。


 アリスの魔法、ユージが家から持ち出したスコップの活躍、重機並の高い身体能力を発揮する元冒険者たち。戦地の後片付けは、わずか二日で終わった。驚異的なスピードである。

 ちなみに、ユージとアリス、コタロー、獣人一家の三人、針子の二人、ケビンが連れてきた冒険者で弓士のイレーヌは位階が上がったようだ。元冒険者チームは誰一人上がらなかったのは、これまで数多のモンスターを倒してきたゆえであろう。


 ともあれ、こうして開拓地初の防衛戦は60匹のゴブリンとオークをあっさり殲滅し、被害ゼロ、無傷で勝利を得るのだった。

 むしろ開拓民たちの位階が上がったことにより、さらに戦力を高めることになったのである。過剰もいいところだ。


 そして。

 防衛戦から二日後、戦場の片付けが終わったその日の夕方。

 ついに、モンスターの集落討伐への出発を告げる伝令兼案内役が到着するのであった。



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