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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二章 ユージはぼっちニートからニートに進化した』
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第一話 ユージ、遭遇したゴブリンを撃滅する

※残酷な表現があります。苦手な方はご注意ください

 北条雄二、30才無職。愛犬のコタロー(メス)とともに北関東の一軒家に住み着く引きニートである。

 いや、北関東の一軒家に住んでいた引きニートであった。両親の死をきっかけに引きこもりを脱却しようと外に出ると、そこは異世界の森だったのである……


 なぜか通じているライフラインと敷地の境界線にある謎バリアに安堵しつつ、食糧確保に森を出歩く日々。

 引きニートは脱却したものの、いまだぼっち。というかこの世界に人間もしくは知的生物がいるのかもわからないまま、今日ものんきに森を探索するのであった。


「ふんふーん。だんだん暖かくなってきたし、このまま夏になるのかなー。どう思うコタロー?」


 雄二の問いかけに振り向くことなく無視するコタロー。と、いきなりコタローが駆け出し、木に向けて跳躍。雄二の頭ほどの高さまで跳び上がり、木の幹を蹴り、さらに跳躍。そして華麗に肉球パンチを繰り出し、森バトっぽい鳥を木から叩き落とす。


 15才と犬としては老齢にさしかかっているにもかかわらず、ゴブリンを倒した次の日から、コタローは犬離れした身体能力を見せている。


「よーしでかしたコタロー! 三角跳びとかかっこいいな! ご褒美にさっそくモツをやろうではないか」


 明らかに犬を超えた身体能力をスルーし、「かっこいい」の一言で片付ける雄二。

 サバイバルナイフでコタローが仕留めた森バトの腹を捌き、モツはコタローへ。

 モツを抜いた森バトは、氷水入りのコンビニ袋の中に入れて冷やしながら持ち運ぶ。たくましくなったものである。


「獲物も手に入れたし、今日は切り上げて帰るか。ん? どうしたコタロー」


 5メートルほど先の薮を見つめ、グルルとうなり声をあげるコタロー。警戒している姿を見て、雄二は右手にトレッキングポール、左手に鉈を構える。


 ガサガサガサッ!


 薮から飛び出てきたのは、3匹のゴブリンであった。

 3匹とも太い木の枝を棍棒がわりに手にしている。


 家がゴブリンの襲撃を受けた以上、森で遭遇することは雄二も想定していた。というか、掲示板で指摘されていた。

 しかし、引きこもってもジリ貧な食糧事情と、せっかく異世界に来たんだから、ケモミミにもエルフにも会いたい! 魔法もきっとあるはずだ、という根拠不明の欲求から、リスク承知で森の探索を進めていたのである。


 元来、雄二は楽天的でそこそこアクティブであった。10年も引きこもっていたのは、それなりの理由があってのことである。

 それはさておき。


「先手必勝ッ!」


 勇ましく叫ぶも、体は動かない雄二。いつものことである。まったくもう、と言わんばかりに雄二を一瞥し、ゴブリンたちに向けて駆け出すコタロー。いつものことである。


 コタローの勇姿に引っぱられ、雄二もゴブリンに向かっていく。右のゴブリンにコタローが飛びかかったのを目にし、雄二は中央のゴブリンを右手に握りしめたトレッキングポールで牽制する。


 右手を前に伸ばし、右足も前に。体の右側面を相手に向け、左手を後方に。優美なるフェンシングの構えである。雄二の中では。


 中央のゴブリンの顔めがけ、トレッキングポールの先端で細かく突いていく。嫌がったのか、ゴブリンは顔の前に棍棒をかざし、めちゃくちゃに振り回す。しかし、雄二にとってこれは牽制である。


 右のコタローに向かわないよう、右手のトレッキングポールで中央のゴブリンの注意を引きつけつつ近づけさせない。本命は左のゴブリン。


 案の定、1匹だけフリーなゴブリンは雄二めがけて突っ込んでくる。フェンシング(っぽい)構えももともと誘いだ。中央のゴブリンに体の右側面をさらす以上、左のゴブリンからは雄二の体が丸見えである。


 ゲギャギャッ!


 棍棒を振り上げ、雄二の目の前まで駆け込んでくる1匹のゴブリン。


「うおおおりゃあ!」


ノーステップで左足で地面を踏みしめる。生まれたエネルギーは腰へ、肩へ、振るった腕を伝って鉈へ。


 グチャッ!

 ゆうじ の かいしんの いちげき!

 

 勢いよく振られた鉈はゴブリンの側頭部にヒットし、そのまま頭の半分まで食い込む。

 マジか、と予想以上の一撃に驚く雄二。だが鉈が抜けない。

 慌てて中央のゴブリンを見ると、攻撃に夢中になって突き出すだけになっていたトレッキングポールをかいくぐり、すでに雄二に接近している。


 あたふたと焦る雄二。その時である。

 突然、ゴブリンが雄二の視界から消える。転んだのか、ラッキー! などと思いつつ雄二が足下に目を向けると……


 コタローであった。あっさり1匹を片付けたコタローが、取って返して右前脚でゴブリンを足払い。

 うつぶせに転倒したゴブリンの背中を右前脚で押さえ付け、もうなにやってんのよ、と雄二を見上げるコタロー。


「さすがコタロー! 頼りになる!」


 喜び、コタローを撫でようとする雄二だが、コタローは珍しく嫌がり、ワンッと一鳴きしてして雄二を見つめる。いいからさっさとトドメをさしなさい、と言いたいようだ。


 ようやく冷静になった雄二は、コタローに押さえつけられてゲギャゲギャ言っているゴブリンを尻目に、まずは左のゴブリンに刺さった鉈を抜こうとする。


 両手で柄を掴み、左足をゴブリンの頭にかけ、引き抜く。

 グチュッという音、抜けた鉈についたゴブリンの青い血と灰色の柔らかそうな何か。

 とたんに青い顔になる雄二。


「画像もいけるし鳥も捌けるようになったし、グロ耐性はあるつもりだったけどやっぱこれは別モンだわ。音とか手応えとかマジきつい。今夜はいい夢みられそうだ」


 自分をなだめるかのように大きな声で独り言である。

 深呼吸して動揺を抑え、最後のゴブリンの下へ。

 うつぶせに倒れたゴブリンの首の後ろ、延髄を狙って鉈を振り下ろす。


ゲギャゲギャゲッ ダンッ! ゴロゴロゴロ……


 あ、これ無理だわ、とその場で嘔吐する雄二。

 だいじょうぶ、と寄り添うコタローの目が優しい。


 ひとしきり吐いた後、ふらふらと立ち上がり、ペットボトルに入れた水で口を洗い流す。


「ふう。もうここはとりあえずこのままでいいや。帰ろうコタロー」


 おぼつかない足取りの雄二の代わりに、周囲を警戒しながら先導するコタロー。いつもより雄二との距離が近いのは、ゴブリンの血のごとく真っ青な顔の雄二を心配してか。できる女である。犬だけど。


 通常の倍以上の時間をかけながら、無事に自宅にたどり着く一人と一匹。そう、家までは無事であった。


 その夜、雄二の体を激痛が襲う。



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