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おいしいパンを作りましょう。 作者:パン大好き
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93.目の前の兵士の、そしてその次に来るであろう無慈悲な己の運命に、ただ絶望した


 その夜は新月だった。

 風のない静かな夕闇。そんな秋の余韻に浸る間もなく、けたたましい鐘の音が村に訪れた危機を知らせた。邪炎の襲撃は予言通りではあったのだが……アシスもモムルも眼前の敵に唖然としていた。何しろ数が多すぎる。昨晩の襲撃を退けたとて決して準備を怠った訳ではなかったが、村の兵力では明らかに抑えきれない勢力だった。

 イラードにひた迫る燎原に揺れる圧倒的な数の邪炎。おぞましい唸り声を上げ、夜の野を煌々と照らし出す。邪炎の身体にひとたび接した草木はたちまち燃え上がり、最期の慟哭のように煙をもうもうと上げている。圧倒的な炎から生まれた熱風は轟々と大気をうならせ、大地の焦げた臭いとともに頬を焼き、喉をひりつかせた。



「ミーア!」

 聖なる炎の輝きを放つ剣を掲げ、モムルが邪炎を切り裂いた。しかし、邪炎の数の壁に阻まれてしまい兄は愛しき妹になかなか近づくことができない。

「くそっ、なんとしてでもミーアだけは守るっ!」

 開戦後ほどなくして乱戦状態となった。指揮官たるモムルの采配も早々に機能しなくなってしまった。それでも一体でも多くの邪炎を倒す。いや倒さねばならぬ。村とミーアを守るための剣として、モムルとともに戦う兵士たちはただただ目の前の邪炎を切り裂いていった。

 ミーアはアシスと数人の兵士とともに戦っていた。ミーアの炎の魔法による援護を受け、ロッドで邪炎を叩き崩すアシス。

「アリュクスみたいな巨大な邪炎はいないようだな」

「強さよりもこの数はやばいよ、アシス。みんな囲まれてる」

「分かっている。もう、使うしかないか……」

 ロッドの慌てた声を聞き、アシスは両腕に魔法を込め出した。水の魔法の象徴である青き閃光がアシスの両手に灯りはじめる。邪炎はその光を認めると、怯えるどころか狂ったように攻撃の激しさを増した。

 村長たるモムルの魔力も徐々に削り取られてゆく。最初は三度斬れば倒せた邪炎が、五度斬らねばほふれなくなった。そして、いよいよ十度斬りつけても、その動きを止めるのに精一杯の状態となってしまった。

 数人ずつ連携しながらしのいでいた村人たちも刀剣に付加された炎の魔力がかげり、徐々に押し込まれるようになった。いよいよ戦線を保てなくなり、ジリジリと村を背にして後退してゆく。幸いまだ犠牲者は出ていないようだが、まさに防戦一方となってしまった。

「もはや、これまで、かっ……」

 モムルが歯軋りして漏らした背中には、村の防壁がもう間近に迫っている。邪炎は勢いを増して攻め寄せてくるが、すでに抵抗する手段がなくなってしまった。

 あわてて退却する兵士が尻餅をついた。腰が抜けてしまったようで、立ち上がることができない。

「あっ、あああぁぁ……いやだっ!!」

 無慈悲な邪炎の触手が年若き兵士の鎧に掛かる。

「助けてくれっ!頼む誰かっ!ああぁぁっ!」

 モムルは動けなかった。

 周りの村民兵士たちも動けなかった。それは炎の魔力が枯渇したからではなかった。目の前の兵士の、そしてその次に来るであろう無慈悲な己の運命に、ただ絶望したからであった。暗黒を宿す邪炎の触手に身を焼かれんとする若き兵士が、自らの来し方と奪われた行く末と、愛する女と、その結晶たる小さき命の存在を走馬灯のように脳細胞が描き出した時だった。

「させないっ!!」

 アシスが叫ぶ。

「間に合えっ! 極大魔法、レガリオンッッ!!!!」
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