殺人発生
翌朝、遥は自宅近くの公園のベンチに座って文庫本を読んでいた。
本を読んでいるのは、優助が来る迄の時間潰しである。
「おーい」
と、優助が駆けてきた。
遥は読んでいた本にしおりを挟んで閉じた。
「遅い」
「スマン。寝坊した」
遥は優助を睨んだ。
「怒ってる?」
「別に怒ってませんよ」
遥はそう言って立ち上がり、「行こうか」とベンチを離れる。
「行くって何処へ?」
「で、デートに決まってるでしょ!」
遥は頬を赤らめながら言った。
「まさか、昨日の今日でもうプランを?」
その問いに遥は、バッグに本をしまい、映画のチケットを2枚出した。
「それってもしかして!?」
優助は強引にチケットを奪取した。
「これ人気が高くてなかなか手に入らない例のチケットじゃん!何処で手に入れたんだ!?」
「貰ったのよ。出版社の人に。原作者名見て」
優助はチケットの右下辺りに小さく書かれた原作者名を見た。
そこには小此木 遥美とある。
「それ、私のママがデビュー当時に書いた推理小説の実写映画」
「えっ、小此木さんってあの小説家の娘なの!?」
「そうよ。知らなかった?」
「うん、知らなかった」
「そんな事より、早く行こう?時間無くなっちゃう」
遥はそう言って振り向いた。
優助は頷き、遥の横に付いて共に歩き出した。
二人は公園を跡にして暫くすると、今は使われておらず、近い内に取り壊しが決まっている廃ビルの前を通り掛かった。
そのビルの前には、頭に赤いランプを載せた白黒のツートン車が数台、ハザードをたいて止まっている。
「ねえ、鷺ノ宮くん?一寸邪魔してみない?事件かもよ?」
「えっ、でも映画が」
「そんなの別に今日じゃなくても大丈夫よ」
遥はそう言うと、優助の手を掴んで、廃ビルの入り口に張られたKeep outと書かれた黄色いテープの前にいる警官の所に駆けた。
「お巡りさん、此処で何かあったんですか?」
警官はキョロキョロと辺りを見回すと、小声で言った。
「(実は先刻、此処で殺人事件が遭ってね。今捜査中なんだ)」
「殺人事件ですか!?」
遥は眼をキラキラと輝かせた。
「あのっ、その事件の捜査に協力させて頂けませんか!?」
「ダメダメ、これは警察の仕事だから。それに、現場をウロチョロして荒らされでもしたら困るから」
遥は困った顔で後ろを振り向いた。
優助がいない。何処に行ったのだろうか、疑問符。
遥は閃いて頭に電球を浮かべると、警官の方に向き直って手を掴み、その手を自分の胸の上に導いた。
「ちょっ、君!?」
警官は顔を真っ赤に染め上げた。
「触りましたね?お巡りさん」
遥はそう言って息を大きく吸い込み、叫ぼうとしたが、慌てて警官が彼女の口を塞いだ。
「(どうして欲しいんだい?)」
遥はニッコリ笑顔でこう言う。
「中に入れてくれないかな?」
警官は仕方があるまいと、黄色いテープを持ち上げた。
「痴漢」
遥はそう言ってテープを潜って中に入って行った。
勿論、この警官が遥に対して殺意が芽生えたのは言うまでも無い。
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