いつもご愛読して頂き、ありがとうございます。お陰さまで前回の話で一万アクセスを記録させていただきました。微々たる記録ではありますが、作者にとっては大きな一歩でございます。重ね重ねありがとうございます。
それで今回そのことを記念いたしまして番外編をやらせていただきます。テレビドラマの『トリック』をモチーフにした推理モノっぽい何かです。初挑戦なので不備はあると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
また、例の如くキャラ崩壊や原作とは少し違った独特な世界観でやらせていただいていますので、その点にはくれぐれもご注意お願いします。
それではどうぞごゆるりとお楽しみ下さいませ。
「……マジカル☆増田?」
普通の魔法使いことこの私、霧雨魔理沙がその聞き慣れない名を聞いたのは、マホケン(魔法学研究所)のラボでのことだった。
ところで、私たち魔法使いは年に一度、魔法使い資格の更新をする為に研究結果の査定を受けることになっている。
一般にも知られているように、魔法使いというのは危険な職種だ。魔法というものの理論がまだ完全ではないのだ。一流の魔法使いでさえ、希に制御しきれなくなることがある。原理の完全解明がされていないそれは、何が起こるか分からない、まさに総パルプンテといえる。無暗やたらと使ってはいけない。だからこのように、魔法使いになるには資格が必要で、資格を持っていない天然の魔法使いは(現在はほぼいないが)マホケンが各地からかき集め、強制的に監視下に置かれることになっている。また、才のある者や、私のように魔法使いに憧れていた者は、マホケンに付属する魔法科学アカデミーにて、魔法の勉強をしながら魔法使いを目指すことも出来る。まあ結局、マホケンから逃れることは出来ないのだが。
今でこそマホケンのやり方は定着してきたが、昔、この体制を巡って争いが起きたこともあったらしいが、資格さえ持っていればマホケンから研究資金も出るし、最高の環境で魔法研究を行えることから、現在では異論を唱える者はいないだろう。
私がマホケンから魔法使い資格を得たのは3年前。魔法科学アカデミーを卒業した時だ。自慢ではないが、当時最年少での資格取得となっている。
幼いころから魔法使いに憧れていた私は、一家丸ごと幻想入り事件の後、偶然出会った魔法使いの魅魔様に弟子入りした。魅魔様は魔法使いとしては非常に優秀で、幼いころからその下で修業が出来たのは、運がよかったのかもしれない。だが、魅魔様の破天荒な修行内容ときたら、魔法に必要な繊細さより、意地と気合いとタフネスを身に付けさせてもらった。
そうして一度魅魔様の魔の手から逃れ、魔法学校ともいえるアカデミーに入学し、魔法の基礎を学びながら順風満帆な学生ライフを満喫した。理解が深まってからよく分かったが、魅魔様の修行は破天荒ではあったが非常に的確な修行だったようで、おかげで大した苦もなく卒業、資格取得とさせてもらった。
卒業して暫くはマホケンで研究活動を行った。だが、その方向性に違和感を感じ、今では個人での研究にシフトしている。人手が必要な時は、マホケンでスタッフを募集したり、たまにふらふらっとやってくる魅魔様に手伝ってもらったりするので、それでもなんとかやっていけている。毎日充実した魔法使いライフを送れていると言えるだろう。
そうしてこの度、査定の日を迎えたわけだが、一度目の査定、つまり去年の時はそれは酷いものだった。何を報告すればいいのか分からず、適当に作ったキノコの研究日誌を提出したのだが、マホケン職員に白い目で見られ、あわや資格はく奪(はく奪されると資格を再取得するまで魔法が使えなくなるなるよう、サイレスがかけられる)になるところだった。魅魔様の助けを受けて、なんとか難を逃れることができたが、非常に危ないところだった。本当に魅魔様には世話になりっぱなしだ。私はおそらく一生頭が上がらないだろうな。
まあ、そんなこんなで「次はないぞ」ときつく脅されていたので、事前にしっかり準備をして余裕を持って査定に臨んだ私は、あっさり査定をパスして暇を持て余していた。
そうして、ラボで偶然出会ったアカデミーの同期の男と世間話をしていた時、例の名前が出たのだった。
「マジカル☆増田ねえ。聞いたことねーな。お笑い芸人か何かか?」
当然その名に覚えがなかった私は、その同期に聞き返してみる。というか随分古いタイプのお笑い芸人の名前みたいだ。
「いやいや。そうじゃなくて。最近出来た新興カルト集団の親玉で、自分を魔法使いと名乗っている怪しい奴がいるんだよ。当然ウチじゃそんな奴は登録されてないんだけどね。でも人里の方では話題になっていて”奇跡の術”を使って空を飛ぶらしいんだ。しかも飲んだら魔法が使えるようになる“魔法の聖水”っていうのを高値で売りさばいているって話だよ」
「なんだそりゃ? それ飲めば魔法使いになれるってのか? そりゃあ詐欺だぜ」
そうだ。ただ水を飲んだだけで魔法が使えるようになるはずがない。魔法ってのは、空気中に存在するマナの密度やその流れを読み、それに合わせてマナを組み合わせを変える信号を呪文という形で発信して初めて使用可能になる。何も分かっていない魔法と言ったが、やはりある程度の理屈や法則はある。それを理解しなきゃ例え素質があっても使えるものじゃない。一朝一夕で使えるものでは決してないのだ。
「そう。そうなんだよ。魔理沙の言うとおり、まさに詐欺なわけ。本当はただの水なのさ。これに対してはマホケンも困っていてね。誰かが対処しなきゃいけないんだけど、みんな手持ちの仕事で一杯なんだよ。それで他に都合のいい人はいないかなあ、と」
嫌な予感がする。というかその予感しかしない。何だ。見るな。私を見るな。
「おお。そんなこと思っていたら、毎日暇で暇で仕方ない魔理沙ちゃんがいるじゃありませんか。いやはやこれは天の思し召しかな? ……というわけで、どう? やってみない?」
「……断る!」
冗談じゃない。なんで私がそんな面倒臭いことに首を突っ込まなきゃいけないんだ。というか初めからそれが狙いだったな。やたらとフレンドリーに話しかけるから妙だと思ってたけど、これが狙いだったんだな。だが、私が疑惑の眼差しを向けていると、そいつは何故か呆れたように私に言う。
「ふーん。そうなんだ。でも、いいのかな〜魔理沙ちゃん。この事件は君にも関係あると思うんだけどな〜……」
「……? どういうことだ?」
「君の後輩にさあ。魔奈美っていう子いたでしょ。ほら、君に懐いてた」
……魔奈美。確かに私の後輩だ。つーかこいつの後輩でもあるんだけど。やたらと私にくっ付いてきていた奴だ。私もなんか妹が出来たみたいで嬉しくて、結構仲良くやってたんだけど。そういや卒業してからは互いに忙しくて会っていないな。……魔奈美がどうかしたんだろうか。
「その子ね、卒業試験また落ちたんだよ。今回で2度目。まあ、うちらの業界じゃザラなんだけど。でもその子ひどく落ち込んでいてね。それで、……そのカルト教団にハマっちゃったらしいんだ」
「それ、本当なのか?」
「うん。確かな情報筋から聞いたから。それでマホケンはますます困ってるんだよね。現役アカデミー生にそんなもんやってもらったら、ウチらの面子が立たないでしょ。だから是非とも早急に片付けてほしいんだけど、頑張ってね」
そう、だったのか。魔奈美は真面目な奴だから、落ち込みようも酷かったのだろう。私にはその情景がリアルに想像でき、胸が少し痛んだ。そうか。そうだったのか。
……って、ん? 今、さらりと何を言った?
「おい待て。なんで私がやることになってるんだ。断ったはずだぜ?」
「へー。可愛い後輩を見捨てるんだー。そうなのかー」
「くっ! タチわりーぞ。お前!」
「やってくれる?」
「……。分かったよ。やりゃーいいんだろ! やりゃあ!」
仕方ない。これで引き受けないと夢見が悪そうだ。というか私も、本当に魔奈美がその宗教団体に関係しているのか気になった。目の前のこいつはああ言ったが、魔奈美はあれでなかなか頭が切れる。にわかには信じられなかった。
「さっすが、魔理沙ちゃん! カッコイイー! キャー惚れちゃうー! いや、本当まいってたんだよねー。他の奴ら、みんなして僕に押し付けるんだもん。いやー本当助かったよ」
「おい待て。お前、自分がやるの面倒くさいから私に押し付けたのか」
「あ・具体的にはね。そのマジカル☆増田って奴を懲らしめて、教団を解体してくれればいいから。しかも無事ミッションを終えたら特別ボーナスがでる! かもね〜」
「人の話を聞け! つーかもう意地でもボーナス貰うからな!」
「はいはい。がんばって。死なないようにね」
さらりと言い放った。私は今、悪魔を見た気がする。謝れ。全国の悪魔の皆さんに謝れ。
「お前が死ね! 今すぐ死ね! 投げたブーメランが戻って来たと思ったら股間に戻ってきて死ね!」
「もう〜。魔理沙ちゃんったらイケズなんだからぁ~」
「気持ちわりぃーんだよ、お前は!」
まったく。ふざけた奴だ。信じられない奴だ。魔法使いとしてあるまじき奴だ。きっと閻魔様のジャッジは黒一色だろう。そのまま地獄の浪人生になれるくらい黒々としているだろう。だがこんな奴に乗せられた私も、ちょっと情けない気がして泣きたくなる。
……。
まあ、いいさ。私は私の目的で動くまでだ。魔奈美の無実さえ証明できれば、こんな仕事降りてやる。
そうして私は、ふざけた同期にさんざん恨みごとを吐きつつ、その集団がいるらしい人里に向かうのだった。
人里。人が住んで里ができりゃ人里だ。何かと狭いこの幻想郷にも人里は沢山ある。前に霊夢の奴をを箒に乗せて行った、えらく巨大な町とも呼べる人里から、山奥の方にひっそりとある半妖怪が住む、十数人くらいの小さな人里まで、一口に人里といってもそれは多種多様だ。
だが、私達がただ「人里」と呼ぶのはこの場所、紅魔湖の近く、博麗神社の山の下、さらに市庁舎もあるこの里のことだ。でかい櫓が見えるので、私的にも迷わず飛んでいける便利な場所だ。おそらく幻想郷の中心部に位置するのだろうが、あまり詳しくは知らない。さんざん空を飛びまわっている私だが、幻想郷の端、結界の区切り目には行った事がないから、ここが本当に中心なのかどうかは分からないのだ。
で、とにかく人里だ。幻想郷中からいろんなものが集まるこの場所は、いつも人で賑わっており、ついでに人でごみごみしている。私から言わせれば、確かに買い物くらいなら丁度いいかもしれないが、とても住もうという気にはならない。とくに私たち魔法使いのようなデリケートな仕事をするには向いていいないだろう。なので私の家はこの里を少し外れ、魔法の森に向かう入り口付近にある。森には珍しいキノコなどが生えており、研究の役にも立っている。
というか、そんなことはどうでも良くて、私はこの面倒くさい仕事をさっさと終わらせるために、「マジカル☆増田」とやらをを探して歩くことにする。だが、ラボでは人里にいるらしいとしか聞いていない。それではあまりに情報が乏しいので、道行く人々に聞いて回ってみるが、今のところこれといった情報は得られていない。となると案外、派手に活動しているわけではなさそうだ。
さっそく嫌になってきた私は、完全にやる気を無くしていた。大体はじめから乗り気じゃないのだ。というか元々これは私の仕事ではないのだ。そしてすでに諦めムードな私は、明日出直すべく今日はもう帰ることにする。だが、今来た道をぐるりと180度向きを変えてみると、そこに見覚えのある姿を確認してしまった。
「……魔奈美?」
そう。そこにいたのは、私の後輩、魔奈美だった。見間違うはずがない。私を真似て金髪にしたその髪。私と同じく、アカデミーの制服でもある魔女っ子スタイル。間違いなく、魔奈美本人だった。彼女はまだ私に気付いていない様で、てくてくと歩いていく。呼び止めようとして声をかけようとしたが、少し考えて出しかかっていた言葉を止める。
……。
こいつの後をつけていったら増田に会えるんじゃないだろうか? いや、まだ私は魔奈美と増田とのつながりは半信半疑だったが、つけていって何もなければそれでいい。後で久しぶりに二人で一杯やって、笑い話にすればそれでいいじゃないか。そうだ。疑惑を晴らすためにも確認だけはしておくべきだろう。
そう決めた私は魔奈美の後をつけることにする。師匠である魅魔様に何故か尾行術を教わっていたので(多分借金取りから逃げる為)、こういう事は得意だ。そうだ。ついでだからこの魔理沙大先生が尾行術講座を開いてしんぜよう。
まず、尾行において一番に重要視されるのは、相手に悟られないことだ。相手を見失ってしまうことなんかは二の次。最悪、日を改めることも考えて慎重に行うべきだ。また、不意に振り返られても絶対に慌ててはいけない。視線を逸らしてしまったり、急に向きを変えて歩きだすようでは二流、三流の仕事。それだとすぐにバレてしまう。例え目が合ったとしても素知らぬ顔で堂々としていることが大事だ。もっともそうなった場合はまた明日、ということになるのだが。とにかく、それくらいの慎重さが求められる。断じて、こんな魔女っ子ハットなどをかぶって目立ってはいけない。
という訳で、明らかに通常尾行には不利なのでインチキを使うことにする。そう、つまり魔法だ。魔法を使って自分の姿を認識しにくくする。だが、これで完全に姿を消してしまうと、マホケンから「ちょっと来い」ということになってしまうのだが。しかし、何ともいちいちやかましい奴らだ。まあでも、このくらいは許容範囲になっているので問題ない。ちゃんと試したことがあるので大丈夫。優秀な魔法使いはアウトとセーフの境界を知り尽くしているのだ。
そんなこんなで尾行続ける私。気分はまるでジェームズ・ボンド。スパイか探偵にでもなった気分だ。今ならボンドカーでも麻酔針でも使いこなせそうな気分だが、やってることは探偵ナイトスクープ(関東の人は分かんないかも)に近い。つーか地味なんだよ。尾行って。派手なのはフィクションの世界(←この話も。)だけなんだぜ?
しかも魔奈美のやつは、今のところこれといった行動はとっていくれていない。あんまり詳しく言うとプライバシーの侵害になるが、はっきり言って全く面白みの無い行動パターンだ。何であのキノコ形携帯電話に興味を示さないのかとか、あの店の前通ったらタイ焼きの目玉焼き買うだろ普通、などとツッコミたいことは山ほどある。先輩として一般社会の常識も教えておくべきだったのかもしれない。
そうして私は、魔奈美はどうやら関係ないなということを、尾行開始から約1時間で決めつけた。大体あいつが、そんないかがわしいものにハマるわけないのだ。そして私は、魔奈美に声をかけようと魔法を解除して近づくが、
「マジカルッ☆!!」
いきなり魔奈美から発せられた大声に、出しかかっていた声は再び止められた。
「お久しぶりです。魔理沙先輩。先程から微弱な魔力反応を感じていたので誰かがつけてることは分かっていたのですが、まさか魔理沙先輩とは思いませんでした」
「おお。その、なんだ。久しぶり」
ぎこちない返答を返す。きっと私の眼は泳いでる。水族館にいるイワシの大群よりも泳いでいる。
「いいですよ。隠さなくても。そのうち来るだろうと思っていましたから。マホケンから依頼されて来たのですよね?」
「えーと、その。なんて言ったらいいかな。無理矢理押し付けられたって言うか……」
正直、魔奈美がここまで鋭いとは思っていなかった。私が知っている魔奈美とは少し様子が違う気がする。――でも、まだその時私は、魔奈美が事件に関わっているなんて思っていなかった。魔奈美の口から、まさかあんな言葉が出てくるとは、夢にも思っていなかったのだ。
「――魔理沙先輩。増田様の力は、『本物』ですよ」
それが、魔奈美の出した答えだった。
それから私は奇妙な場所に連れて行かれることになった。人気のない路地裏にある古ぼけた屋敷。結構大きな屋敷だ。だが大きいのは大きいのだが、いかんせんボロい。霊夢のところの神社と十分渡り合えるくらいのボロ屋敷だ。木造で出来たそれは時代の流れを醸し出している。しかもそれは貫禄と言うよりご苦労さんと言いたくなるボロさだ。こんなにボロくて、しかも路地の奥にあれば何かよからぬことをしていても中々見つからないだろう。そして、このボロ屋敷こそ敵の本拠地だった。やや緊張しながら中に入る。中は一切仕切の無い広間で、まるで小さな体育館みたいだった。至る所に飾ってある呪術道具がその場所を異様なものにしている。――しかし、私はその部屋よりも、そこで繰り広げられている光景に、言葉を失った。
「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」
……そこでは大勢の人間が奇声を張り上げて叫んでいた。数は20人程度。だが私は人数以上のプレッシャーを感じた。辺りを包む熱気は頭をくらくらさせる。まともな神経の持ち主であれば、とてもじゃないが長居は出来ないだろう。――異様。まさに異様と呼べる光景が広がっていた。
「どうですか魔理沙先輩。これが増田様の作った“マジ会”ですよ」
「……マジ会?」
「マジカルでマジ会。私のような落ちこぼれの魔法使いにも夢を与えてくれた、奇跡の集団です」
マジ会。それが増田の作った組織らしい。可哀想に。騙されているとは知らず、魔奈美は本気で信じ込んでしまっている。
私は言いようのない怒りを感じていた。追い込まれている奴を騙して踏みにじるなんて絶対許せない。
「魔奈美。その増田様って奴に会わせてくれないか。私がお前の目を覚まさせてやる」
私は魔奈美に強く言う。こんな奴のいいようにはさせない。
「そう言うだろうと思っていました。でも、無駄ですよ。貴女じゃ増田様には勝てない」
――付いて来てください。ふふふと笑いながら魔奈美はそう言って熱気の中心へと向かっていく。それに倣い私も後を追う。
いきなり現れた闖入者に戸惑う信者たちを眺めながら私は歩く。こうして見ると、どいつもこいつも普通の人間に見える。おそらくこいつらも増田に騙されているだけの一般人なんだろう。魔法を使いたいという人間は沢山いる。私もその一人だった。増田はそこにつけ込んだのか。
……許せない。腹が立つ。私は確かな苛立ちを覚えながら、魔由美に付いて歩く。そんなに広くない場所だ。すぐに信者たちが作った輪を抜け、一番壁際に着く。するとそこには、一人の男がいた。
「ふふふ。マジカルッ☆! ようこそマホケンからの使者よ。お待ちしておりました」
私の前に現れたその男は、白いだぼだぼのローブを着たメタボチックで暑苦しそうなおっさんだった。背中には何やら妙な羽飾りと、頭の上にもこれまた妙な輪っかが針金で固定してある。とてつもなく似合っていないが、どうやら「天使」または「神様」を演出しているらしい。ホラーだ。私は軽く、いや重く引いてしまっったが、本人はご満悦の表情。ひどく腹が立つ顔だったが、しかしその顔には眉毛が無かった。つまりそう。この男は明らかに変態だった。前代未聞、問答無用の変態だった。外に出れば5秒でしょっ引かれてしまいそうな、そんな男だった。
しかし、その変態な男はなんと、胡座をかいたまま宙に浮いていたのだった。
「ば、馬鹿な。嘘だろ?」
確かに容姿こそ変態のそれだったが、その男のやっていることが私を驚かせるのに十分だった。
その男からは何の魔力も感じないのに、なんとそいつは「たった一本の杖」で空中に浮いていたのだ。しかも杖は体の横からでた片手で軽く触れているだけだ。そんな杖一本で、その男はなんと空中に浮いていたのっだった。しかもただ浮いているだけではない。座っている。空中に座っているのだ。ただの杖一本で、空中で胡坐をかいて座っているのだ。
おかしい。どう考えてもバランスが取れていないはずなのに。だがその男は平然とした風で、力んでいるようにも見えない。私は何度もその男から魔力反応を見たが、全くその男からは魔力を感じない。不自然だ。こんな体勢で、しかも魔法も使わなかったら、バランスを崩して落ちるはずなのに。だがそいつは全くそんな気配を見せず、しかもときおり自慢げに私を見つめてくる。なんとも腹の立つ顔だったが、しかし眉毛がない。つまりこれがマジカル☆増田。その人だった。
「どうですか、オジョーサン。私の漲る魔力は!」
「ふざけんな! お前からは魔力なんて感じねぇよ! 何か仕掛けがあるんだろ?」
そうだ。空中浮遊をするこの男からは一切魔力は感じないし、眉毛もない。必ず何か仕掛けがあるはずだ。大体こんなのは魔法じゃなくて手品だ。
そう思った私は、まず上から体を吊って支えているという線で考えてみる。都合のいい事に上には天井がある。このトリックにはもってこいの環境だ。細い糸で何か所か吊れば見た目には浮いている様に見えるだろう。だが私が、上空から何かで吊っていないか奴の上を箒で叩いてみたり、ムカついたので薄い髪を引っ張ってみたり、さらにマジックで眉毛を書こうとしてみたりするが、全く仕掛けが分からない。天井にもそれらしき仕掛けは無かった。奴はそんな私を見て再びニヤついてくる。腹が立つので一発箒でしばいておく。
しかし、それにしても仕掛けが分からない。いや、絶対に何かしらのトリックがあるはずなんだ。そして逆転の発想で、下に透明な箱でもあるんじゃないかと調べてみるが、奴の体臭が臭いことしか分からなかった。風呂には入っていないのかもしれない。
「おやおや。何をやっても無駄ですよ。仕掛けなんてないんですから」
「うるさい。絶対に何かあるはずなんだ」
「まったく。往生際が悪いですね。いいでしょう。もっと面白い魔法を披露して見せましょう」
増田はそう言うと、
「マジカルッ☆!」
その例の掛け声とともに、奴は空中で座った状態から滑るように地上に降りる。案外背が低い。私と同じくらいか。
だが、そんなことを考えている隙に、奴は立ったままゆっくりと浮き始める。しかも今度はなんと杖なしだ。両手を聖者のように広げた奴の足は、どんどん地上から離れていく。そして終に、だぼだぼのローブの裾からわずかに見えるその両足は地上から30cmほど完全に浮いていた。ゆらゆらと揺れながら私を見る増田。確かに眉毛がないが、その行為は私を驚愕させるのには十分だった。
「ふふふ。これがマジカル☆! 魔法という奴ですよ、オジョーサン」
「まじかる、じゃなくてマジかよ。ありえねぇ……」
いよいよ訳が分からなくなってしまった。さっきのトリックについてならまだ分かる。そう、奴は杖をついていた。実は、そうは見えないが奴はすごいマッチョで、杖1本でも身体を支えられるのだ。……という素晴らしい推理をすることも出来た。まあ、それは魔法どころかトリックですらないのだが、今度は杖すら持っていない。なのに奴の身体は空中にぶらぶらと宙に浮いている。これでは私の推理は外れだ。もう一度魔力の反応を確かめてみるが、当然、奴からは何も感じない。
私はパニックになっていた。本当に訳が分からない。何がどうなってるんだ? 奴の行動は不可解を極めた。一瞬、こいつは人間ではなくて妖怪か何かなのでは? とも考えたが、誰であっても力を使えばマナに反応が残る。私がそれを見落とすはずがない。
頭は完全に混乱していたが、念のためもう一度奴の上空を調べてみることを思い立つ。だが当然何もなく、10円ハゲしか見つからなかった。さらに私は混乱する。本当の本当の訳が分からなかった。
「どうしました? もう降参ですか?」
「そんなわけないだろ! くそっ! なんでなんだよ!」
「ふふふ。貴女も素直になれば良いのです。……ほら。あれをごらんなさい」
そう言って増田は部屋の隅を指差す。そこには折りたたみ式のテーブルがあり、そこには透明な液体が入ったビンが大量に並んでいた。そしてそのビンのラベルには如何わしい書体で大きく文字が書いてある。
「魔法の、聖水?」
そこにあったのは魔法の聖水というビンだった。しかし、魔法と書いてはいるが、そのビンからも魔力は一切感じなかった。
「あれが、私の作った魔力促進剤です。あれを飲み続ければ、どんな人間でも魔法が使えるようになるのですよ」
成程。あれがマホケンのラボで聞いたやつか。私は瞳に魔力を込める。魔法の眼で見てみるが、やはり間違いなくただの水だ。だがこれはチャンスだ。これなら強制的に奴を捕らえられる。
――魔法使い条約、第一条。魔法使いとは、一般常識に囚われない柔軟な思考と発想と、日々の絶えまぬ努力によって研鑽を積み、公序良俗に基づき社会に貢献する非営利の組織、または個人でなくてはならない。
つまり奴のやっていることは、例え本当の魔法だとしても条約違反だ。
「お前は信者たちにあんなものを買わせようとしているんだな。それは違反と知っているのか?」
「買わせようと? いえいえ。聖水の代金は一切戴いておりません。これでも私は本物の魔法使いですから」
そう言って奴は免許証を見せる。私には見分けがつかない程精巧に出来ているが、きっと偽物に違いない。
「嘘つくな! あんなもんいくら飲んだって魔法を使えるようになるわけないだろうが! お前のやっていることは詐欺だ! 魔法使いなんかじゃねぇ!」
私は声を張り上げて怒鳴る。単純に腹が立った。魔法使いを馬鹿にされているようで。だが、奴は私の怒声などまるで意に介さず、それどころか哀れむような目で私を見てきた。
「おやおや皆さん聞きましたか? このマホケンからの使者は我らの聖なる水を侮辱しましたぞ」
信者たちがにわかに殺気立つ。幾人もの視線が私に突き刺さる。痛い。想像以上のプレッシャーが襲う。そして私が少し動揺しているのをいいことに、増田はまたニヤニヤしながらしゃべりだす。
「まったく。マホケンの連中は頭が固いですなぁ。今の時代はこんなに便利なものがあるのに。そうやって、いつまでも昔のやり方にばかり囚われているから、涙を流すことになってしまった可哀想な人たちがいるのですよ?」
言われてはっする。おそるおそる魔奈美ほうに振り向く。すると魔奈美もまた”魔法の聖水”を大事そうに抱えていた。
「魔奈美。お前……」
「魔理沙先輩。確かに私はアカデミーでは魔法使いの芽すら出すことは出来ませんでした。先輩に追いつこうと一生懸命修行しましてけど、私には才能がありませんでした。でも、魔理沙先輩。この“魔法の聖水”なら。これさえ飲んでいれば、私だって魔法使いになれるんですよ」
魔奈美は語る。まっすぐ私を見据えながら、震える声を絞り出す。
「辛い修行をして、涙を流して、そうやって魔法使いになる時代は終わったんです。これからは誰もが魔法使いになれる時代が来るんです。空を飛ぶことが出来るのは、選ばれた人間でなくてもいいんです!」
魔奈美はそう言いきった。まだ肩は上下し、息も荒い。そして、私を睨みつける魔奈美の眼は、可哀想なくらい真剣だった。
……私は、胸が熱くなっていくのを感じた。胸だけじゃない。頭の先からつま先まで、私の中に熱い思いが満ちていった。
許せない。絶対に許せない。こんな奴を。追い詰められて落ち込んで、それでも諦められなくて必死にすがろうとする奴らを、魔奈美の思いを、この増田って奴は踏みにじっているんだ。絶対に、許すことなど出来なかった……!
「おい増田。お前、覚悟は出来てるんだろうな」
八卦路に手をかける。何、一瞬だ。一瞬で最大出力のマスタースパークをお見舞いしてやる。一瞬でみんなの眼を覚まさせてやる。こんな茶番はもう終わりだ。
だが、……ついに私がマスパを撃つことは無かった。
「何やっているんですか、魔理沙先輩。やめて下さい。ほら、先輩も飲みましょうよ。先輩ならこれでもっと強力な魔法使いになれますよ?」
魔奈美は私に“魔法の聖水”を手渡す。まだ増田を睨んだままの私にお構いなしに、私の手を引っ張っていく。
……おい。見ろよ。増田。こいつはこんなに優しい奴なんだ。お前を信じて守ろうとしているんだ。こんな優しい奴を、お前は食い物にしているんだぞ。
私はもう限界だった。怒りで全身の血液が沸騰しそうだった。そして私は、魔奈美から受け取ったそれを、思いっきり地面に叩き付けた……!
「いい加減にしやがれ! こんなの全部インチキだ! みんな目を覚ませ!」
私の怒声とともに、ガラスの割れる音が響き渡る。一瞬にして辺りは静まり返った。お願いだ。私のことを信じてくれ。
だが、そんな私の願いも虚しく、魔奈美の口から信じられない言葉が出た。
「……5万円」
「え?」
「先輩。その瓶は一本5万円です。割っちゃったんだから弁償して下さい」
……弁償だと? おい、待てよ。さっきと言ってることが違うじゃねぇか。これは完全に違反だ。証拠がでた。奴は商売として聖水を売っている。
「増田! これはどういうことだ! やっぱり金をとってんじゃねぇか!!」
もう今日はどれだけ怒鳴ったのか分からない。とにかくこいつは、どうあっても私の敵であるということだけはよく分かった。だが増田は、この期に及んでまた信じられない弁解をする。
「いえいえ。”聖水”の代金はいただいていません。ですが“瓶”は売り物ですからね」
「……! な、なんだよ。それ」
「“瓶”は5万円になります。当然、お支払いして頂けますよね?」
どこまで腐ってやがる。結局同じことじゃねぇか。5万円だと? ただの瓶だぞ!
もう、何と言っていいのか分からず、増田につかみかかろうとする。だが私のその行動は、信者たちから猛烈な反発を受ける。
「5万円!」「5万円!」「5万円!」
囲まれる。いつのまにか私の周りは敵だらけだった。強烈なシュプレヒコールを全身に浴びる。
「おい、待てよ! おかしいだろこんなの!」
「おやいや。マホケンからの使者はマナーも弁えていないのですか? 売り物を台無しにしたんだから弁償するのは当たり前でしょう」
「くっ!」
「5万円っ!」「5万円っ!」「5万円っ!」「5万円っ!」
シュプレヒコールは止まない。むしろどんどんヒートアップしていく。……もはや私の心は持たなかった。
「わかった。払うよ。でも今は手持ちがないんだ。今度にしてくれないか」
ついに耐えきれなくなった私は苦渋の決断をする。事実上の敗北宣言。今も怒りにまかせて奴に飛びかかりたかったが、これ以上何かをしても増田の思うつぼだ。奴は信者を完全に味方につけている。どう考えても私の方が不利だった。
「いいでしょう。どこへなりとも行って下さい。ただし逃げようとしても無駄ですよ。どこに逃げてもすぐに捕まえます。なぜなら、私にはこんなにも優秀な“魔法使い”がいるのですから!」
増田のその一言で、信者たちから一際大きな歓声が上がる。
「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」「マジカルッ☆!!」
もう、私にはそこにいることは出来なかった。集団を前に私は無力だった。……悪を懲らしめに来たはずの私は、結局自分の力の無さを思いを知らされただけで終わった。
「で。泣き寝入りした挙げ句、私のところに頼ってきたと」
私はその後、一人では増田に勝てないと考え、紅魔館のヴアル魔法図書館の主、知識の魔女ことパチュリー・ノーレッジの元に来ていた。奴は、例のごとく大量の書物に囲まれており、埃っぽい室内の中のさらに薄暗い場所にいた。相変わらず不健康そうな顔をしている。そばにいる小悪魔のほうが100倍健康そうだ。悪魔なのに。
実はパチュリーは、持病に喘息を抱えている。その為、年中家の中に引きこもっているので、不健康そうと言うか不健康そのものなのだが、一向に健康というものに気を使おうとしない。だからか、可哀想とか、幸薄そうという印象はこれっぽっちもしない。むしろ、何時、誰であろうとも尊大な態度をとり続ける鼻持ちならない奴、というのが私の印象だ。
だが、さすがに延々と本を読みつづけているだけあって、その知識量は凄まじく、また、そのジャンルも多岐に渡る為、今回の事件の助っ人には適任だといえた。
「泣き寝入りとは人聞きが悪いな。私はまだ諦めていないぜ?」
「それで人を巻き込もうとするんだから余計にタチが悪いわ」
「本を読んでるだけじゃないか」
どうあっても相変わらずのパッチュリーに、私は当然の抗議をいれる。横にいる小悪魔も何故かしみじみといった風に頷いた。だが奴はそれが気に入らなかったようで、急に立ち上がったかと思うと、私に向かって指さし付きでこう言い放った。
「かのアルキメデスは言った! 我に本を与えよ。されば地球を動かしてみせよう、と!」
「……」
「パチュリー様。言ってません」
「ごほん。とにかくそういう訳で私は忙しいの。悪いけど帰ってちょうだい」
何がそういう訳だったのかったのかよく分からないが、動く気は無いということは分かった。やはり動かない大図書館の異名は伊達じゃない。だが私は、そんなことは百も承知で頼んでいる。これくらいでは引き下がれない。
「お前は何とも思わないのか? 増田の奴、魔法使いを馬鹿にしてやがる。許せないと思わないのか?」
私はパチュリーに熱く感情を込めて訴える。その熱さは松岡修造並の熱さだ。しかし奴は、
「それで私の邪魔をするというのなら叩き潰してやるわ。でも現状、直接私に何かした訳じゃない。私が動く理由にはならないわ」
などと言う。しかも「今のところ貴女の方が許せないわね」と、再び読書に集中してしまった。分かってはいたが簡単には動いてくれない。まあ、こいつの性格を考えれば当然だろう。自分の邪魔をする奴には容赦しないが、邪魔さえしなければ他人の事などどうでもいいのだ。
だが、私は諦めない。今はこいつの力が絶対に必要だ。私一人では増田には勝てない。悔しいがそれはさっき痛感した。だから私は私のプライドを捨てる。魔奈美を解放してやりたい。魔奈美のような被害者をこれ以上出してはならない。その為に私は何だってする!
「パチュリー。ならこれならどうだ? 私が持っている幻の魔導書『ネクロノミコン』をお前にやる! 私の宝物だ! だから、手を貸してくれ!」
これが最後の賭だった。これ以上の交渉カードは私は持ち合わせていない。だがこれなら絶対に釣れるという自信があった。本を愛するパチュリーなら、この本に惹かれないはずがない。……しかし。
「いらないわ。てゆーかそれ、私が貴女にあげた本でしょうが」
「え?」
「しかも最近。一週間くらい前よ」
……。
しまった。何てことだ。私の切り札がこうも簡単に破られるとは。私の手札の中の最高カードだったのに。レアなのに。私の3600点以上に及ぶ宝物の中の一つなのに。パチュリーは動かせなかった。くそっ。なんてこった。
これからは誰から貰ったものかくらい覚えておこうと思いつつ、私は、どうにもならないこの現状に絶望していた。もう本当に手がない。ついでに5万円もない。私はこれ以上ないほどのピンチに陥っていた。
「ちょっと手伝ったくれたっていいじゃないか! パチュリーの馬鹿! 人でなし! 外道! 畜生! 人畜無害!」
ヤケクソになった私は思いつく限りの暴言を吐く。いささか見苦しい。こんな言葉いくら言ったって奴には届かないだろう。だが、私の予想に反し、全くやる気が無かった奴は私の言ったある言葉に異常な反応を示す。
「な、何ですって? 人畜無害ですって……?」
……。
「パチュリー様。怒るところ違います」
「こあ。覚えておきなさい。真の天才というのは時に害にもなるものよ」
言い切った。やはりパチュリーはただ者ではなかった。小悪魔から、その根拠不明の自信を、私にも少し分けてもらいたい気分です等と、やや呆れ気味にツッコまれてもその自信は揺るがない。その表情はまさに自分の才を信じて疑わない者の顔だ。アホの顔だ。いつもこれの相手をしなければいけない小悪魔の気苦労は計り知れないものがある。だがこれはいい流れだ。私の意図とは違ったがこれはチャンスだ。私はさらに駄目押しで煽る。
「やーい。パチュリーの人畜無害! 今時、人畜無害なんて超ダッサ〜い」
言ってて意味が分からなかったが効果は抜群なようで、いつも冷静なパチュリーの顔に怒りの表情が浮かぶ。そしてついに、パチュリーが折れたのだった。
「……! ふっふっふ。そこまで言われて黙っているわけにはいかないわね。……いいわ。会ってやろうじゃない。そのマッスル増田とやらに!」
「……マジカルな。マッスルだとベクトルが逆だ」
「いざ、行かん!」
こうして妙なテンションのパチュリーが仲間になったとさ。
それから私たちは、紅魔館の船着き場に来ていた。空を自由自在に飛べる私にはまどろっこしいが、いちいち船を使わなくてはいけないらしい。というかパチュリーも飛べるはずなんだ。あれで一応魔法使いだし。だがその件について小悪魔曰く、
「パチュリー様は長年の運動不足がたたって空中で姿勢の制御が出来ないんです」
ということらしい。恐るべし引きこもり。引きこもりは人から空を飛ぶ自由を奪うのか。ああ、健康って素晴らしい。などと思っていると、
「向こう岸まで一回500円だよ」
なんか勝手に話が進んでいる。なんだこの船って有料なのか。
船頭のおっさんは真っ直ぐ私を見据えてくる。仕方ないので私は黙ってパチュリーを見た。するとパチュリーは、一切躊躇わず小悪魔を見た。
「こあ。払いなさい」
「私がですか」
あわれ小悪魔は、なけなしのお小遣いから500円支払う。大丈夫。負けるな、小悪魔。私なんか5万円だ。
「ちょっと待っててよ。今、紅魔館宛ての積み荷を降ろすから」
船頭のおっさんはそう言って作業を始めだした。本当にまどろっこしい。飛べば一発なのに。私が段々イライラしていると、見かねた小悪魔がおっさんの手伝いに加わる。おお、意外といい奴だ。それから二人は、私の聖母のような眼差しに見守れながら作業を続ける。何故か若干白い目で私をちらちら見つつ、黙々と作業をこなす二人。初めての共同作業は積み荷を降ろすことでした。……とかなんとか思っていると、今まで沈黙していたアホが蘇った。
「さあ動きなさい。次郎丸!」
……パチュリーである。先ほどから姿が見えなかったので、何をしているんだろうと思っていたら、どうやらその船に興味がおありらしい。なんと奴は勝手に船を発進させてしまった。
「って、くおらぁ。何しちょんじゃい! 待ちんしゃい!!」
哀れ船の持ち主は気合いと共に、恐らく外に出て気分がハイな状態になっている引きこもりを追う。必死だ。お故郷の言葉が出ている。
「はっはっは! 走れ! 飛べ! 千の風に乗ってどこまでも!」
何やら上機嫌の引きこもりは鼻歌交じりに凶行を続ける。成程。外界に出ると人様にご迷惑をかけるから図書館に封印してあったんだな。などという新説を思い浮かべつつ、全力で追うおっさんを見る。
「……おっさん。クロール超速ぇ」
愛と勇気と9割以上の意地で、船に乗って暴走する引きこもりに食らいつくおっさん。私はそこに人類の可能性を見た気がした。そして、見る見るうちに、船とおっさんと引きこもりはどんどん遠ざかっていき、すでに遙か向こうの方まで行ってしまった。
「……行っちゃいましたねぇ」
「ああ。残念だったな、小悪魔」
「え? 魔理沙さんは……」
「私は飛べるから。んじゃ、またな!」
そう言って私は箒に乗って後を追う。やっぱり私はこうでなくちゃな。悠々と空を飛びながら、つくづく空はいいものだと思う。そして、一人置いてけぼりにされた小悪魔はというと、
「……あれ? これって今のうちに図書館、片づけるチャンス?」
意外と、したたかだった。
そうして、知識の魔女、パチュリーを仲間に引き入れた私たちは、増田のインチキを暴く為、再戦へと向かうのだった。
お疲れ様でした。いかがでしたでしょうか。トリックを仕掛けた情景がちゃんと描けているか不安で仕方がないんですが。また、割とメジャーなトリックなので途中でタネに気付いた方もおられるでしょう。まあ、現在の作者の実力では完全オリジナルのトリックなんか思いつけませんでしたので、ご容赦ねがいます。
一応、続きのプロットは完成しているので後は書くだけなんですが、何時頃完成するかは今の段階では分かりません。でも、なるべく早いうちに続きを書きますのでどうぞご声援よろしくお願いします。
おまけ

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