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  東方な日々。 作者:春風夜風
東方な日々では初心者の方にも分かりやすい日々の提供を目指しております。
故に今回はパチュリー様による紅魔郷メンバーの紹介的な話になっております。
決してネタがなくなったから安易なキャラ紹介に走ったわけではございません。決して。
また、作者の持病である厨二病が発症してしまった為、かなりアホな事を言っていますのでその辺りはご注意下さい。
あと、TORIKネタが随所に散りばめられていたり、無駄に長い話になっていたりしますが、8割がたどーでもいい話なので気張らずにお楽しみください。


紅魔郷組
パチュリー編
『なぜベストを尽くさないのか』
 私はその言葉に大変感銘を受けていた。今まで数えきれないくらいの書物を読んできたがこれほど心が震えたのは初めてだ。そしてそれは私に多くの事を学ばせ、多くの使命を与えてくれたのだった。
 どうも。知識の魔女ことパチュリー・ノーレッジだ。
 読書と魔法研究の為に、寿命を取っ払って人間を卒業してから相当な年月が経つ。
 あと、重要なことなのでもう一度言うが魔女だ。魔法使いではない。よく勘違いされるが魔女と魔法使いとは少し違う。そしてそれは主義、思想、宗教上の違いともいえる。
 どう違うのかというと上手く説明できないが、その違いを例えるならば、そう。きのこの山とたけのこの里の違いに似ていると言える。違いの分からない者にはどうでもいいことかもしれないが、分かる者にとってそれは大問題。まず手にとって眺める時点で、両者には大きな違いがある。きのことたけのこを模ったその造形美の違い、また形の違いから来る微妙なチョコの量の違い。さらに口に入れた時のその微妙な食感の違いときたら、本当なんで皆分かんないかなあ。
 つまり私にとって両者の違いはとても重要な違いなのだ。故にそれを間違えられると腹が立つのだ。魔女と魔法使いは全然違う。そしてそれは、魔法使いと呼ばれるより魔女と呼ばれる方がカッコイイから、ということでは決してないのだ。あと、ちなみに私は、たけのこの里派であるということもついでに述べておこう。
 さて、私の現在の仕事は紅魔館にある地下魔法図書館の管理人だ。広大な面積を誇るその図書館にある大量の書物を管理、貸し出し等の手続きを任されている。図書館は一般にも公開されており誰でも利用できる為、割と仕事は多い。だがその書物の中には魔道書等といった一般人が不用意に触れると危険なものもある。それらの書物に一般人を近づけないことも私の重要な仕事の一つだ。
 私が管理人の仕事を引き受けたのは何時だったか。私は私の友人である吸血鬼の依頼でこの仕事を引き受けた。何でも、そのあまりにも巨大な図書館を管理しきれず持て余していたらしい。私も兼ねてよりその魔法図書館の存在は耳にしており、機会があればぜひ伺ってみたいものだと常々思っていたが、実際に初めて訪れた際にはそれは驚いたものだ。
「格が、違う」
 それが私の第一声だった。まさにその一言に尽きるだろう。あまりにも圧倒的な光景が広がっていたのだ。私はそれ以外の言葉を失ってしまっていた。
 私は幼少の頃より、書物から知識を得ることを生き甲斐とし、日々先人達の知恵をその頭脳に蓄えてきた。その為、こういった大きな図書館はよく利用していたのだが、この図書館は違った。比べることすら失礼なほどに格が違った。施設としての規模、蔵書量、保管されている本の種類もさることながら、その内装は、私から言葉を奪い圧倒させるほどに美しかった。細部にわたる細かな装飾を施された本棚、壁一面に描かれた壁画、天井を彩るステンドグラス、そこから吊るされる豪華なシャンデリア、まるで美と完全に融合されたようなその建築は、至る所で設計者のセンスが感じられれた。――まさに圧巻の一言。私は思わず二つ返事で管理人の役を引き受けてしまったのだった。
 以来私は、図書館を管理しながら読書を満喫するという日々を続けている。私にとってはここは楽園のようで、うっかり一月くらい図書館に籠っていたなんてのはざらだ。そうして日々新たな知識を取り入れつづけた私は、ありとあらゆる知識に通じ、その知識量は幻想郷一を自負している。
 また、それ以外にも私の仕事はある。前述でもあったように、私は魔女という一面も持っている。魔法を扱う者でもあるのだ。日々新たな発見を求めて研究に勤しんでいる。というか、そちらの方が主だったりする。
 私は元々幻想郷の住人ではない。外から幻想入りした者だ。というのも私は外の世界(当時は私にとって幻想郷の方が外の世界だったが)での魔法研究に限界を感じ、自ら望んで幻想入りを果たしたのだ。まあ、それに至るまでの道のりも生半可なことでは無かったが、それでけの魅力がこの幻想郷にはあった。そこは魔法の力、いや”世界の力”の源である精神エネルギーや自然エネルギー、我々魔法を扱う者は”マナ”と呼んでいるが、そのマナの力が満ち溢れていたのだ。魔法を扱う私にとって、幻想郷は確かに理想郷、桃源郷と言えるのかもしれない。
 そもそも私は、幼い頃より魔法の才があった。読書好きで知識量も多かったのが幸いし、10ですでに一人前になっていたし、そのころから自ら新しい魔法の研究も行っていた。さらにその後も実力を伸ばしていき、幻想郷の学会で発表した論文により魔法学の博士号を取得した。現在は幻想郷唯一の魔法研究機関、特別区立魔法学研究所(通称マホケン)とそれに付属する魔法科学アカデミーの幹部も担っている。
 マホケンは世界でも有数の魔法研究機関でその魔法学のレベルは極めて高く、魔法を扱う者にとって理想的な研究機関だ。私も現在のように個人での研究に切り替える以前は、日夜マホケンで魔法研究に勤しんだものだ。そもそも私が幻想入りを果たした理由の一つにマホケンへの興味もあったのだ。
 しかし実際住んでみて分かった事だが、幻想郷とは実に不思議なところである。私も幻想入りした当初はそれは驚いたものだ。そこには異常とも呼べる程、圧倒的な濃度のマナが広がる世界だったのだ。元々マナはどんな世界にも存在するし、ありとあらゆる力の源となっているものなのだが、幻想郷に存在するマナの量は私の想像を遥かに超えていた。それは巨大なマナの力の中に幻想郷が存在すると言ってもいいくらいに圧倒的だった。まさに魔法研究を行うにはうってつけの場所だったのだ。マホケンの魔法学レベルが高いのもうなずける話だ。
 だがマナの力とは恐ろしい。多くの研究者達が長い年月をかけて研究してきたはずなのに、その力がどうやって発生するのか、どういう原理なのか、まるで解っていない。魔法学、マナの力を魔法を扱う者の見地で解明しようとする学問なのだが、その魔法学をもってでさえマナの力は解明出来ていない。確かに存在するし、散々利用してきたエネルギーのはずなのに、何も分かっていないのだ。マナをより具体的に扱える魔法学の分野でさえ今はお手上げ状態である。
 私は過去、思い切ってマナの力を科学の見地で解明を試みた事もあったが、結局何も掴めなかった。それほどまでに難解で不可解で、とても神秘的な力なのだ。そして多分それはこの世の真理に最も近い存在なのではないだろうか。故に難解を極める。そしてだからこそ私は強く惹かれたのだ。
 私は私に理解できないという事が許せない。全くもって罪深いことだが、私がまだ知らないことが、理解の及ばないことが、どうしようもなく許し難い。自分に理解出来ないことがこの世に存在するというだけで腹が立つ。私は全てを知りたいのだ。全てを理解したいのだ。そしてそれは完全でない人間故の傲慢な発想なのだろう。
 だが、私は答えを求め続ける。その知識と知恵を駆使して全ての答えを求め続ける。それが知識の魔女パチュリー・ノーレッジなのだ。
 そして私はこの幻想郷で魔法学を学び、そこに一つの可能性を見た。
 魔法を操る魔法学と、理屈を操る科学との両方からの見地で研究することがマナの解明に繋がるのではないか、と。魔法とは云わば、理屈は全然理解していないのに使い方だけは知っているというものだ。それに対して科学はまず理屈から入る。そしてその両方からアプローチをかけていけばこの世の真理に近づけるのではないか。私はそう考えた。そうして私の考えに同調する者達と設立したのが魔法科学アカデミーだ。
 このアカデミーでは魔法研究者の卵たちを育成しながら、マホケンとは少し違ったベクトルからの研究も行っている。つまり科学の導入だ。
 魔法研究、マナ研究に求められているのは、昔ながらの固定的な考えではない。これまでの理屈を全部ひっくり返すような若い発想だ。その為にアカデミーは魔法学と科学との融合を果たしたが、これが答えとは限らない。常に新鮮で新しい発想を取り入れよう。それがアカデミーの基本理念なのだ。
 そうして現在、様々な発想、知恵、発見を繰り返しマナの研究は進み、少しずつだがその原理の影が見えかけてきている。
 昨日の常識は今日では全く通用しない。そんな研究が毎日繰り広げられているのだ。この調子でいけばひょっとしたら人類という種が生きている間に真理の扉は開けるのかもしれない。
 ……そう。全ての者がベストを尽くせば、理解できないことなど、解明できないことなど、この世には全く存在しないのだ。私が長い間忘れかけていた「ベストを尽くす」という私の基本精神を、私は一冊の書物により思い出させてもらっていた。
 つまりは『なぜベス』なのだ。
 この書籍により私は初心に帰ることが出来た。始めの頃の情熱を思い出すことが出来た。上田次郎大先生の著はこれが初めてだが、私は大変感動してしまった。今まで読まなかった時間が惜しまれる。それほどまでに強烈なインパクトを私に与えていった。
 そもそもこの素敵本「なぜベス」は、どうやら外界の書籍の様で、偶然幻想郷に流れてきたものをこあが人里で購入してきらしい。はじめ私はあまり興味が無かったのだが、そろそろ魔道書にも飽きていた為、暇つぶしに手に取った。そして電撃が走ったのだ。
 有り得ない。何故この様な素晴らしい本を私は今まで見過ごしてきたのか。大先生のお言葉はまさに私にとって青天の霹靂。寝耳に水。とにかく衝撃的だった
 もしかすると私とこの本の出会いは運命だったのかもしれない。私の友人に私は運命を操ると豪語する馬鹿がいるが、そんなちゃちゃな運命ではない。断じてこれはそんな小さなものでは無い。……もっと超然とした、宇宙的な、何か圧倒的な存在に定められたような、そんな運命。偉大なる叡智の神により導かれし強大な時代の流れの中で燦然と輝く奇跡のような運命。惑星直列にも匹敵する巨大な意志が見え隠れする波乱に満ちた運命。
 そう。選ばれし民である私は、選ばれし書であるこの本に出会ってしまった。それを偶然というにはあまりにも出来過ぎている。
 私は、出会ってしまった。
 なら、その意味は?
 私はついに、この図書館から動く時がやって来たのであった……!


「パチェが図書館から出てくるなんて珍しいわね。今夜は月でも降るのかしら」
 ……。まったくもって失礼な事をいっているこれは、この館の主にして我が友人、レミリア・スカーレットだ。私はレミィと呼んでいる。私のことをパチェと呼ぶのはこいつだけだ。
 私は私の使命を全うする為、まずレミィの元に来ていた。レミィは大抵、自室兼執務室としているこの部屋におり、私もたまに訪れることがないこともない。レミィの部屋はは何やら作業をしていた様で、机の上には様々な書類が散乱していた。
 レミィの家系は代々貿易業を生業としている。どうやら、幻想郷に入る前から商売を続けていたらしい。そして幻想入りを果たした後、レミィがその後を継ぎ、何やかんやあって、今では多くの商人たちを上で動かすレミリア商会の会長となっている。幻想郷一の資産家と名高いレミィは、その一言が与える影響力も計り知れず、自らが動かずとも大金を動かすことが出来る。また新たな商売への投資も積極的に行っており、私とレミィの出会いも、レミィがアカデミーのスポンサーとして現れたのがきっかけだ。
 このように強大な影響力を持つレミィに商売の話を持ちかけてくる輩は後を絶たず、館には商人の来客が頻繁にある。その為館には、商談用の部屋や来客者が寝泊まり出来る部屋、さらにその力を誇示する為の美術館も小規模ながら存在する。
 そんな風に部屋数は多いのだが、一応妖怪のレミィの屋敷で寝泊まりしたがる人間は少ないし、商談だってレミィが自分の部屋を気に入っている為、大抵はこの部屋で行っている。なのでほとんどの部屋が使われていないのが現状だ。
 レミィの部屋は自慢の部屋だけあって、広さや部屋数はかなりあり、普通に使うだけなら5,6人は住める。さらに、いかにも高そうな置物や絵画なども飾っており、品のいい家具類も、見る者が見れば目を見開いて絶句してしまうような高級品ばかりだ。まあでも、レミィ自身はあまり興味がないのか、結構ぞんざいな使い方をしているので、単に主としての威厳を保つための手段として買い揃えただけなのだろう。だが、よく見渡すとその部屋にはファンシーな人形や縫いぐるみも多く飾ってあり、こんなんじゃ威厳もへったくれも無いだろうと思ったのだが、本人は気にしていない様なので私からは何も言わないことにする。
 ちなみに、先ほど言った運命を操る友人とはこいつのことだ。以前、夕飯のおかずの運命を操るとか言って、こいつが全て自分好みのおかずにしていたのを私は目撃している。しかし私には、運命操作のその過程が分からないので、偶然にしか見えない。むしろ未来を当てたという点では占いに近いのでは?と思っている。というかこの紅魔館において、発言力が一番強いレミィの一言が、運命になりやすいのは当然のことであり、調理中の咲夜の前であれが食べたいこれが食べたいと言ったからではないのかと追及していみたら、「違うもん!そんなんじゃないもん!」と泣きべそかかれてしまった。
 面倒くさくなったのでその場は認めてやったがあまり信じてはいない。まあ実際、商売人のスローガン的なものなのだろういうのが私の見解だ。
 しかしレミィはそれを認めようとせず、会えば何かと“自分は運命を操れる”と言いだし、大変やかましい。お前はぜひ雛見沢の運命をかえて来い、と言いたいところだ。
 言い忘れていたがこいつは吸血鬼だ。
 “吸血”と聞くと一般的にはまずダイニホンアカマダラキュウケツツノムシが連想されるが、こいつとの接点は意外に少ない。背中に生えた羽がバタバタと鬱陶しい点は似ているといえるかもしれないが、それぐらいしか外見上の接点は無い。なんとも惜しいところだ。
 そういえば吸血鬼というと、強大な力を持つ不死身の化け物だの、でも十字架や銀が苦手だのと訳の分からない設定があることで有名だが、私がこいつを見る限りそういったことは無さそうに見える。確かに血を吸うようだが人間の血を吸うわけでは無さそうだし、この間飴の瓶の蓋が開かないといって癇癪起こしていたので、それほど強力な力を持っているとういう訳でもなさそうだ。
 歴史とは常に勝者の視点で語られる。こいつもまた、時代の激流の呑まれていった敗者の一人なのかもしれない。まあ、それはいいか。
 そうそう、こいつについて一番に語らなければいけないことがあった。見た目についてだ。
 こいつは、――そう。小っこいのだ。何も知らないと子供にしか見えない。私が見てきた限り、最初に会った時から全く身長は伸びていない。妖怪だから何年経っても見た目が変わらない、という事もあるだろうが、小っこいまま変わらないのはおかしい。妖怪だって老いが無いだけで成長はするはずなのである。
 いや、もしかしてそれはレミィの子供っぽいその性格にも関係があるのかもしれない。大体の場合、見た目と中身はリンクしている事が多い。つまり頭の中がいつまでも子供のまま成長していないから体も成長しない、といったことも考えられる。
 これは大変興味深い。妖怪の精神と肉体の成長にまつわる因果関係について、か。中々いい研究対象だ。そうだな、研究タイトルは『見た目は子供。中身も子供。迷探偵れみりあ・う~☆の正体』でいこう。
「……(怒)」
 いや、止めよう。睨んできた。何か凄い睨んできた。読めるのか。貴様心が読めるのか。ちょっと距離をとることにする。
 そうだな。あとレミィの身体的な特徴について述べるとすれば、その病的なまでの肌の白さについてだろう。いかにも吸血鬼っぽい血色の悪そうな、不健康そうな肌の色をしている。そもそも吸血鬼なんてのは自分の血が足りていないから他者への吸血行為を行うのであって、血色が悪そうなのは当たり前なのだが、レミィの場合はそれとは少し異なる。レミィは日の下に出たがらないので日焼けしないのだ。
 先程述べたようにレミィを見る限り、一般に言われる吸血鬼の弱点とレミィはあまり関係が無いようにみえる。つまり日光だってレミィの弱点には成り得ないのだが、レミィは日の下に出ることを極端に嫌う。それは日光が怖いというより申し訳ないといった感じだ。
 これは私の推論に過ぎないのだが、それはきっとレミィの妹が……っと、失礼。これは私が語るべきでは無かった。これは部外者がどうこういう話では無い。
 そう。私が語るべきは他にある。私が語るべきなのは……、
『なぜベストを尽くさないのか!』
 これだ。
 これが私に与えられし使命。私があの素敵本に出会ったことの意味。私は他者にもベストを尽くすことの素晴らしさを伝えねばならないのだ。偉大なる叡智の神は私にそれを望んだのだ。私にしか出来ないと。私ならば出来ると。私は選ばれたのだ。
 ならば私はそれに答えよう。悩めるベストの迷い子たちに愛の救済を与えよう。そう。私こそがベストの伝道師、パチュリー・ノーレッジ。間抜けな我が友人にもベストの素晴らしさを教えてしんぜよう。
「……? いきなりどうしたのよ、パチェ」
「レミィ。貴女はなぜベストをつくさないの? なぜ毎朝出ている牛乳を残すの? そんなんだからいつまだ経ってもちっこいままなのではないの?!」
「ぅるせぇーーよっ!!!」
 ……怒らせてしまったようだ。何か失礼にあたる事を言っただろうか? 私は私の発言を振り返ってみたが、とくに思い当たる節はない。もしかして言い方が少しきつかったのか、とも思ったが私とレミィの会話はいつもあんな感じだ。いや、おそらくカルシウムが足りてないせいだろう。だから背も伸びないし、怒りっぽくもなるのだ。
 まったく、せっかく私がベストを尽くす素晴らしさを教えてあげようと思ったのに。どうやら無駄だったらしい。私は憤慨しながらその場を去ることにした。
「な、なんだったのよ。一体……」


図書館から出てくるなんて。今日は太陽でも降ってくるの?」
 ……。それはもはや降るとは言わない。失礼な奴だ。
 館の中を歩いていた私は、博麗神社の巫女、博麗霊夢に話しかけられた。
 霊夢は紅霧異変以来、ちょくちょく館に顔を出している。タッパーを脇に抱えているところを見ると、また咲夜から夕飯のおかずを強奪しに来たのだろう。おかげでおかずが一品足りなくなったと言って咲夜が嘆いている姿をよく見かける。ちなみにそのしわ寄せは全て門番の美鈴に向かう。
 霊夢はそれほど大食漢という訳ではないが、しょっちゅうこうしておかずの強奪に来る。霊夢は貧乏だから常に慢性的な食料難に陥っているのだ。なぜ霊夢が貧乏なのかといえば、それはまともに働く気がないからだろう。いや、一応博麗神社の巫女さんとう肩書きを持っているので無職という訳ではないが、肩書きだけでは食べていけない。精力的に信仰活動をして信者を増やすなり、お祓いを行ってお布施を貰うなどしなければ食いぶちに困ることは分かりきっていることなのだ。特にマナの影響力が強い幻想郷では霊となる死者も多いし、その為悪霊の被害に遭う者たちも多いはずである。お祓いなんか絶好の収入源になり得る。
 だというのに霊夢は、日がな一日家の中でごろごろしているか、町に出てぶらぶらしている。俗にいうNEET予備軍というやつだ。幻想郷も悪い風習を取り込んでしまったものだ。また、そのせいか霊夢は社会全般の常識に欠け、いわゆる世間知らずのお馬鹿さんとなっている。こうした食糧強奪という暴挙に出るのも一般常識の欠如から来るのだろう。おそらく政権交代のことも知らないに違いない。
 ちなみにこいつは神社で一人暮らしをしている。まだ若いのにそれは立派な事だと思うが、前述の事を加味すればその一人暮らしこそが奴のぐーたらに拍車を駆けている気がしなくもない。最近の若者は誰かが見張っていなければ働けないのだ。
 そういえば。最近居候が出来たとか出来ていないとか聞いようなた気もする。なんでも子鬼の妖怪が住み着いているらしい。妖怪が神社に住み着いたということより、何故よりにもよって霊夢の元に居候する気になったのかが私にとっての最大の謎だ。まあ、NEET予備軍に居候するなど、そいつも親泣かせであることには違いない。ぐーたらは伝染するのだ。私のような勤勉な者は、絶対に博麗神社には近づいてはならない。
 このように居候付きだが一人暮らしである霊夢に親はいない。いや、こんなんでもこうして出来ちゃってる以上はその元凶となった者がいるはずなのだが見たことはない。何でも数年前に、霊夢を一人残してどこかに旅立ったという話だ。本人は別に嘆いていないというかエンジョイしているところを見ると、別に死んだということでは無さそうだ。というか霊夢があまりにぐーたらなので別の後継者を求めて旅立ったのではないか、というのが私の見解である。当たらずとも遠からずといったところだろう。とにかくこいつはぐーたらなのだ。
 それでもこんな奴に幻想郷の結界は任されている。結界の管理は代々博麗の人間の仕事なのだ。そしてそれが幻想郷の大前提ルールでもあった。
 そもそも中の人間に言わせれば、幻想郷の結界なんて妖怪の作った餌場に人間を閉じ込めておく為の”檻”でしかない。一応妖怪が人間を襲う事は禁止されているのだが、内心いつ妖怪たちの襲撃があるか冷や冷やしている。それに引き替え外の世界には人間にとって非常に住みやすい環境が整っているという。少なくともそこでは妖怪の脅威に怯えなくてもいいのだ。なので幻想郷から外に出たい思う人間は山ほどいるだろう。その為の障害となる結界など認められるはずがなかった。
 だが、妖怪にとって幻想郷の結界は絶対に必要なものだ。現在外界では人間が力を持ちすぎており、妖怪と人間のバランスが崩れてしまっている。もうそこは妖怪の住める環境ではなくなってきているのだ。人間は自身の生活にとって不必要な妖怪なんか、簡単に滅ぼすだろう。妖怪が生き残る為には外界から手を引かなけらばならなかったのだ。だが、それでも妖怪にとって人間の存在はどうしても必要な存在だ。人間ありきの妖怪なのだから。人間がいなければ存在しえない。人間にとっては妖怪は不必要でも妖怪にとって人間はは必要な存在なのだった。
 そこで、妖怪と人間とのバランスを改めて作り直したのが幻想郷だ。外界で崩れてしまったバランスを一から組みなおして、もう一度妖怪が住める環境を生み出したのだ。そして、そのバランスの保持する為の結界はどうしても必要なものだった。
 そうして両者の意見は対立する。もともと力の強い妖怪がいくら襲わないと言ったところで人間は信用できない。そもそもの条件が対等では無いのだ。
 故に結界の管理をするのは、博麗の人間でなくてはならないのだ。妖怪に対して理解のある博麗という人間が、妖怪と人間との間を取り持つことで、初めて両者は対等になれる。妖怪は自身の命綱である結界を管理する博麗には逆らえないし、人間も同じ人間である博麗が妖怪の弱みを握ることで、ようやく妖怪との対等な交渉カードを得られる。そうでなければ結界の存在なんか認められない。そしてそれが結界設立の条件でもあったのだ。
 そうやって双方が対等な条件になって初めて話し合いないし相互理解という発想も生まれる。互いにフェアでなければ信頼関係なんか絶対に築けないのだ。
 まあ、実際はもっと複雑なのだが、現在幻想郷というシステムは、このように博麗が両者の間を持つことによって成り立っている。
 しかし、このアホ巫女は自分の立場の重要性が分かっていないのかぶらぶらしてばかりいる。そのぐーたっぷりは前述の通りだ。
 確かに霊夢は若いし、遊びたい年ごろだろう。大体このくらいの年頃というのは、世を知り、人を知り、見聞を深めて自我を模索し始める時期だ。だから他の者達も少々のことは多めに見ているし、私だってうるさく言いたくはないが、霊夢は少し酷過ぎる。結界うんぬんの話では無い。それは一人で背負うには重すぎる。私が言いたいのは霊夢の生活態度の事だ。
 前述のように博麗の存在は重要だ。あまりにふぬけていると妖怪に対する抑止力にならないし、人間達も不安になるだろう。別に、何もかもキチンとしろと言っているのではない。せめて最低限人間として恥ずかくない生活をしなさいと言っているのだ。だというのに霊夢のぐーたらっぷりときたら、まるで鏡に映った自分を、……何でもない。何でもないぞ。忘れなさい。
 そりゃあ私だって人の事はあまり言えないが、あんなに酷くは無いはずだ。……うん、そうだ。ずっと図書館で本ばかり読んでいるけどそれが私の仕事であって、別にぐーたらな訳ではない。間違いない。断じて。絶対。
 という訳で要するに霊夢はぐーたらなのだ。最近は少し更生したのか、少しずつ生活態度を改めているらしいが、私に言わせればまだ生ぬるい。ここはベストの伝道師こと、このパチュリー・ノーレッジが、説教を交えつつベストを尽くす素晴らしさを説いてやらねばなるまい。
 私は、霊夢に向かって言い放った……!
「霊夢!なぜベストを尽くさ……」
 霊夢は既にいなかった。私との会話よりタッパーに食材を詰めることを最優先としたらしい。少し脳内思考の旅に出すぎていたかもしれない。さあ今から説教するぞ思った時なのに、こういう時はやたらと勘のいいやつだ。
 どうやらまた失敗のようだった。


 そして再び館内の散策をはじめた私は、私が最も会いたくない奴に遭遇してしまった。
 金髪に大きなとんがり帽子をかぶり、さらに白黒の服を着た、いかにも魔法を使えますよという感じのあのアイツ。まるであいつが魔法使いなのか、魔法使いがあいつなのか、という感じのあのアイツ。むしろハロウィンにでも参加するのですか? と問いかけたくなるようなあのアイツ。
 奴はキョロキョロと挙動不審な動きで辺りを見回しながら、しっしっしうまくいったぜ。などとほざいている。また何かよからぬことを仕出かそうとしているに違いない。ここは私が、図書館の平和とついでに紅魔館の平和を守る為、奴の暴挙を止めねばならない。
 私は、まだ私の存在に気付いていないあいつの後ろに忍び寄り、こう言ってやった。
「なぜ、ベストを尽くさないのか!」
「ぅうおぉぉぅ? びっくりした! なんだパチュリーか。図書館からでるなんて珍しいな。今日はビッグバンでも起こるのか?」
 ……。もういい。もう何も言うまい。泣きたくなってきた。
 この不法侵入者は霧雨魔理沙。自称普通の魔法使いだ。まあ、この姿を見れば誰でも分かるはずだ。ちなみに私の持論でいけば、きのこの山の方だ。
 霊夢同様、紅霧異変の時以来、ちょくちょく紅魔館を訪ねてくるようになった。魔法使いだけあってヴアルの魔法図書館に興味がある様で、よく私から本を借りていく。私の方も魔女と魔法使いという事で似た者同士、友好を深めていたのだが、この女は本当がさつで乱暴で本を返さなくて本を返さなくて本を返さなくて!! いい加減、温厚で心やさしい女神のようなパチュリー様もキレるっつーの! この野郎!!
 ……失礼。取り乱してしまった。
 確かに魔理沙は魔法使いとしては優秀だ。努力家だし研究熱心だし、私も一目置いている。だが、マナーを守れないのはでは人として失格だ。つまり人間失格だ。太宰が生きていても同じ事を言うだろう。そして借りた本を返さないというのは、当然マナー違反なのだ。いやもう、それは犯罪と言ってもいい。しかもそれは、この世に存在するありとあらゆる罪の中でも最大級の罪だ。七つの大罪のさらに上をいく。
 そもそも借りるという行為は返すことを前提とした行為であり、返す気がないのならそれは窃盗というのだ。窃盗は言うまでもなく犯罪だ。私が提訴していないだけで、間違いなくそれは犯罪なのだ。しかし、同じく魔法を扱うものとして、同志を犯罪者にはしたくはない。奴に悔い改め全うな人生を送ってもらう為には、人生の先輩として私がビシッとバシッと言ってやる必要がある。
 そう。私こそがベストの伝道師、パチュリー・ノーレッジ。この救いようのないアホンダラにもベストを尽くす素晴らしさを説いてしんぜよう。
「なぜ、本を返さないのか!」
「……。ベストがどうのこうの言ってなかったっけ」
「なぜ、本を返さないのか!!」
「あー。私が死んだら返してやるぜ」
「なぜ、なぜ本を、返さないのかあああああああぁぁぁっっ!!!!」
「……。いや本当、スイマセンでした!」
 案外うまくいったらしい。いやいや、分かればいいのだよ。分かれば。はっはっは。
 ようやくベストに目覚めた魔理沙から、とりあえず手持ちの本だけでも返してもらうことになった。魔理沙は「ちょっと待っててくれ」などとほざき、先程から何やら帽子の中を探っている。どうやったら帽子の中に物を入れようという発想が出てくるのか分からないが、もしかしたらこれが最近のトレンドなのかもしれない。しかし、帽子の中なら探すまでもなく一目見れば分かるではないかという疑問が沸いたが、それは魔理沙がまだ返すことを渋っているからだろう。彼女なりの時間稼ぎといったところか。まったくこの期に及んでまだ未練があるとは。
 しかし私は、そんなことより私の仕事っぷりの方に感動を覚えていた。まだ渋っているとはいえ、あの魔理沙を素直にさせることが出来たのだから実際大したものではあるまいか。このまま本職にさえしてしまえそうな勢いである。まさか私の中にベストの素晴らしさを皆に伝える才能があったとは。まったく上田次郎先生様々である。
 そんな事を考えてるうちに魔理沙の方も本が見つかったようだ。
「ほらよ。ちゃんと返すぜ」
 魔理沙は帽子の中から引っ張り出した本を私に向って放り投げてきた。
 ちゃららーん♪
「パチュリーは魔理沙の帽子から”貸していた本”を手に入れた!」
「パチュリーは魔理沙の帽子から”貸していた本”を手に入れた!」
「パチュリーは魔理沙の帽子から”貸していた本”を手に入れた!」
「パチュリーは魔理沙の帽子から”貸していた本”を手に入れた!」
「パチュリーは魔理沙の帽子から”貸していた本”を手に入れた!」
「パチュリーは魔理沙の帽子から”貸していた本”を……」
「……って、どんだけあるんだよっ!!!」
 結局私は、辺り一面を本だらけにしてしまうくらいの本を取り返すことに成功した。こんなに貸していたという事実にまず驚きだ。つーか貸してない。勝手に盗んでいったに違いない。しかし、これはまだ氷山の一角だろう。奴の家には、さらに大量の貸した本が眠っているはずだ。今度会った時もう一度請求することを固く誓う。
 しかし、……うん。後でこあにでも片づけさせよう。こんな時の為の便利なこあちゃんなのだ。私は忙しいのだ。こんなところで本の片づけをしている暇はないのだ。
 私は次なるベストの迷い子の為に、再び歩きだすのであった……!


 そして紅魔館の門前にやって来たこの私。ここまで来るのは本当に久しぶり。ああ、いい風が吹いているわ。たまにはこの辺りの木陰で本を読んだら気持良いかもしれない。本を持ってくるのが面倒だからしないけど。いやしかし、本当に久しぶりだ。もう十年ぶりくらいかもしれない。ああ、そうそう。紅魔館の門ってこんな感じだったっけ、懐かしいわぁ。などと感慨に浸っていた私は門の横に人影を確認した。
「むにゃむにゃ……ZZZ」
 ……紅美鈴である。門番である。仕事中である。
 イビキを、かいておる。涎も垂らしておる。幸せそうな顔をしておる。実に、気持良さそうである。だが、仕事中である。
 彼女は紅魔館の門前で門番をしている一応妖怪の紅美鈴。私が住み着くより以前からここの門番をしている。もっとも、彼女は門番というより、紅魔館の受付の代わりといった面の方が強い。紅魔館はレミィの仕事の関係上来客が多いので、どうしてもこういった役職が必要になってくるのだ。そしてそれは、紅魔館の顔とも呼べる重要なポジションでもある。
 また紅魔館の中には、数々の貴重品、美術品など売れば目玉が飛び出るような額になるものが多くある。なのでそれを狙った泥棒もよく現れる。そんなものを狙ってくるのはほとんど人間なので、妖怪を表に置いておけばそれだけでも抑止効果は十分にある。なので防犯対策としても彼女が門の前にいる意味は大きい。つまりこんなに気持ち良さそうに眠っている場合ではないのである。
 しかし、その件については彼女曰く「睡眠も業務内容に含まれているんですよ」と、いう事らしい。真偽の程はは定かでないが、彼女がそう主張するのなら、それはそういうことにしておこう。何かもう、ツッコむのも面倒くさいし。
 しかし、それにしても紅美鈴である。名前の読みはホン・メイリン。中国系の妖怪であるらしく、名前は中国っぽい。あと服装もチャイナドレスっていうのかな。なんか中国っぽい。しかも、その中国服のスカートには色っぽいスリットが入っている。
 なので彼女の別名は、スリットみすず。……惜しいな。あと二文字だ。どうにかならないものか。
 しかし、そのあだ名や見た目とは裏腹に、彼女に瞬間空間移動能力はない。それは別の妖怪の専売特許だ。それこそスリットを自由自在に操る妖怪を私は知っている。
 美鈴の能力は“気“を操る力だ。スリットは一切関係ない。そしてそれは他人に気を遣い席を譲ってあげるとかいう意味ではない。確かにやりそうではあるがそ今はそれは置いておく。
 気を操る力とは全て生物の命の源である”気”(魔法使い風に言えばマナ。両者に大して違いは無い)を練りあげて別な用途で使用するという地味な技のことだ。彼女はその力を使えば、気弾をつくって攻撃したり、空を飛んだり、傷を癒したり、さらに気配の察知といったことが出来る。FFでいうところのモンクのチャクラに近いかもしれない。やっぱりあんまり近くないかもしれない。
 でも、実際気を自在に操るという事は凄いことだ。何故ならそれは、サイヤ人がもし地球に攻めてきた時の唯一の反撃手段だからだ。サイヤ人には現代兵器は通用しないという原則が存在する。つまり科学は役に立たないのだ。
 サイヤ人の強靭な肉体から繰り出される技の数々。全く効かない現代科学の結晶。このままでは日本は、世界は、サイヤ人に屈してしまう。気を使って戦わなければ地球は滅亡してしまう。そんな時にさっそうと現れるのが気の達人なのである。
 つまり美鈴は、サイヤ人の襲来にも対抗しうる人類の最終兵器であり、ドラ●ンボール的な展開にも対応可能な、大変優れたキャラと言える。なんとも恨めしい。
 ちなみに、何故かあのスカーレット姉妹も美鈴に依存している節がある。確かに館の者の中で一番背が高いし見た目は大人ぽいから絵になるけど、年齢的にはそんなにいってないはずだ。多分私と同じくらいではなかろうか。でも、何だかんだで結構頼りになるし、母性的な面も持っているからあのちびっこ姉妹は依存してしまうのだろう。なので美鈴は二人の母親役といった役割も担っているのかもしれない。
 そう。母親。“おっかぁ~さっまぁ~”だ。
 おお、なんということだ! まさかこんな所でビッグマザーに会えるとは!
「……。何をしているんですか。パチュリー様」
「……」
 ちっ。起きていたのか。ついうっかり拝んでしまったではないか。少し恥ずかしい思いをさせられた私は、いったん冷静になるべく素数を数えていたところ重要なことに気が付いた。――そう。私にとって彼女はビッグマザーではなく、スリットみすずなのだ。全然拝むべき対象ではなかったのだ。何てことだ。嵌められた。おのれ策士め。
 しかし私は例えそれがスリット美香子(あ・間違えた)であってもベストを尽くすことの素晴らしさを説く義務がある。可哀そうな美香子(あ・完全に間違えた)にも、私からの有難い言葉をくれて進ぜよう。――そう。私はマルッとこう言ってやったのだ。
「なぜベストを尽くさないのか!」
「え? あ、はい。すいません。天気が良かったものでついウトウトと……」
「なぜベストを尽くさないのか!」
「え? あっ・あの事ですか!すいません……」
「なぜ、ベストを尽くさないのかっ!!」
「どこまで知ってるんですか!? パチュリー様!」
 ……なにやら心当たりが沢山あるようだ。何をしたのかは知らないが、こうしてベストを尽くすことの素晴らしさを解ってもらえれば何よりだ。失敗をきちんと反省すれば必ず次の成功に繋がる。それは全ての事柄においてそうなのだ。美鈴は反省し、次に生かすだろう。そしてそれは彼女自身の成長に繋がるのだ。
 ふふふ。私の言葉が人の成長を促すとは。いいことをした後は実に気分がいいものだ。満足した私はその場を立ち去ることにした。
「すっごいなー、さすがパチュリー様。私がパチュリー様のおやつ勝手に食べちゃったの、もうバレてるなんて……」


 そして、再び紅魔館内に戻ってきた私は、メイドの咲夜に遭遇した。この銀髪のメイドさん、十六夜咲夜(何度やっても“咲くや”で変換されるのが非常に鬱陶しい。何かこう普通に変換出来そうなのに)はこの紅魔館で唯一の人間だ。妖精メイドをまとめるメイド長をしている。
 この広い紅魔館は、数多くの妖精メイドを雇うことにより成り立っている。その広さ故、羽を持ち、空を飛べる妖精はいろいろと便利だ。人件費が安く上がるというのも、大きなメリットといえる。妖精は基本的にお金は使わないので、衣食住を与えれば喜んで働いてくれる。大体妖精たちには、お金という概念は理解出来ないのだ。
 また、基本的にはアホな妖精連中だが割と働き者でもある。仕事内容とそれをすることのメリットをきちんと伝えてやれば、そこらに人間なんかよりはよっぽどいい働きをする。知恵が無い分素直なのだ。たまには奴らを見て、忘れかけていた純粋な気持ちを思い出すこともあるだろう。
 しかしやっぱり妖精はアホなので、それらをまとめ上げる咲夜は中々大変なことであろう。本当よくやるものだ。私には考えられない。
 というか大体、妖精っていう連中は私を馬鹿にしているとしか思えない。この前も私がうっかりバナナの皮で滑って転んだ時、奴らはにやにや笑いながら「うっわー。ドリフかよ。超ウケる~」とか言いながら逃げ去っていったのだ。……素直ということは時に自分の黒い気持ちにも素直ということだ。ひどく自尊心を傷つけられた私は、もうバナナなんて食べないと誓う羽目になってしまった。
 まったくひどい話もあったものである。そんなロクでもない妖精連中を束ねる咲夜は、相当やり手なメイドといえよう。
 さらにこの咲夜(この辺りで“ショウヤ”で”咲夜”に変換する術を覚えた。同じ悩みを抱えていた人は使っていいよ)は、時間を操るという特殊能力を持っている。なんと時間を止めている間に移動したり移動したりといった事ができるのだ。傍から見ていると一瞬で空間を移動した様に見える。スリット美香子成分なら美鈴より上だ。メイド服なのが非常に惜しまれる。
 しかし、そう。咲夜は時間を操るだけあって、時間の使い方が非常に上手い。毎日の食事作りも、合間にサンデーを読んだりしながら時間を有効に活用している。限りある時間は上手に使っていかなくてはならない。時は金なり。タイムイズマネー。諭吉一枚と一時間を替えてくれという者もこの世にはいる。時間は大切なのだ。
 そして咲夜は今もクロスワードパズルをしながらジャンプを読みつつ焼きそばを食べている。ああして同時にいくつもの事をこなす事で時間の短縮を図っているのだ。まさに時間の魔術師。私も見習うべき点があるといえよう。
 さらに、時間を操るということは時間と密接な関係にある「空間」も操るということでもある。(理由が分からない人は距離と時間と速さの公式をもう一度学習したまえ)
 だから咲夜はそれはもう自由自在に空間を弄れる空間の魔術師でもあるのだ。つまり咲夜は収納上手なのである。例えば、いつの間にかすぐ一杯になってしまう冷蔵庫。片付かないキッチン棚。もう嫌になってしまうクローゼットの中。そんな悩み、ちょっとした工夫で解決します咲夜さん。それはまず整理整頓からはじまる。ものに優先順位をつけ、すぐに使うものとほとんど使わないものとを区別し、不必要なものはバッサリ処分する。そして、どこにでもあるちょっとした空間の無駄を上手に利用し、まるで元々物を置くためのスペースだったかのように収納していくその様は、まさに空間を支配する匠の技。咲夜に片付けられない空間などこの世に存在しないのだ。
 今もほら、先程私が魔理沙からの本であれほど散らかした部屋もご覧のとおり。まるで本なんて初めから存在しなかったようではありませんか……。
 つーか、マジで何も無ぇ。全部捨てやがったなこの野郎。
 ……ゴホン。しかしまあ、咲夜は十分ベストを尽くしているのではあるまいか。時間と空間の魔術師である咲夜は、同じく魔法を扱う者としても十分評価に値するだろう。そう思い私が去ろうとしたその時、
 ……うん? 何だ? ほほう。野菜のみじん切りをミキサーでやるのか。面倒くさいみじん切りも機械にやらせることで、更なる時間の短縮を図っているのか。なるほどなるほど。その発想は無かった。さすがは魔術師。私の想像の遥か上をいく。まるで格が違う。常人には出来ない事を平然とやってのける。そこに痺れる。憧れるゥ~!
 ……って待て! それは違う! それはみじん切りでは無い! それはベストを尽くしていない!
 私は咲夜に向かって言い放った……!
「何をしているの、咲夜! なぜベストを尽くさないのか!」
「何って。野菜ジュース作ってるんですけど……」
「……そんなの、知ってたわっ!」
 咲夜は十分ベストを尽くしていた。時間と空間の魔術師は伊達では無かった。もう私から言う事も何もあるまい。私はそのまま立ち去ることにした。
「……なんだったんだろ。パチュリー様……」


 そうして何だかんだでやれることはやり尽くした私は、再び図書館に帰ってきていた。なんだかどっと疲れが押し寄せてくる。やはり慣れないことをするとやはり疲れるものだ。
 しかし、悪い気分では無い。私はやり遂げたという達成感を感じていた。自分で言うのも何だが本日の私は中々の働きっぷりだっただろう。これで皆の心にもベストを尽くす素晴らしさが伝わったはずだ。それはなんという素晴らしいことであろうか。ベストの伝道師冥利に尽きるというものだ。
 もしかしてこれは自伝として出版すべきなのかもしれない。そしてより多くのベストの迷い子たちにベストを尽くす素晴らしさを教えてやるのだ。
 ふふ。なんということだろうか。私はまだ満足してはいなかったのだ。さらに多くの善行を積もうというのだ。まさに閻魔にさえ説教できるレベルではあるまいか。何にしても、これからは忙しくなりそうだな、と考えていると、
「この本貸して欲しいのだー」
 うん? 何だ? もうすでに意識は半分夢の中にトリップしつつあった私に話しかけてきたのは宵闇の妖怪ルーミアだった。
「貴女がここにいるなんて珍しいわね。何の本?」
「妖怪の本なのだー。これで妖怪の事調べるのだー。霊夢がここに行けばいいって言ってたのだー」
 なんと。妖怪が妖怪の事を調べるとは。珍妙なこともあるものだ。
 確かにこの図書館には妖怪関係の本も多くある。さらにどこかのアホンダラのように黙って持っていくのではなく、こうして許可を貰いにきたというのなら私としても断る理由は無いから構わないんだが。……ふむ。これは一体どういうことだろうか。というかそもそも、この妖怪は字が読めるのだろうか。気になった私は一応聞くことにした。
「別に借りていくのは構わないけど。貴女、字が読めるの?それにその本は結構難しいから理解出来るかも分からないわよ?」
「大丈夫なのだー。寺小屋通ってるから字は読めるのだー。それに、分からないとこは慧音に聞くのだー」
 成程。それなら大丈夫か。しかし、なんでまた妖怪の本なのか。自分自身が妖怪なのだから調べる必要もないのではないだろうか。
 ……いや。もしかしてこいつはこうして自分探しの旅をしているのかもしれない。何かに悩み、立ち止まってしまっていて、自分が分からなくなることは誰にでもある。そうでなくても生き物は皆、産まれた瞬間から自分に向けて問い続けるのだ。
 己は何者なのか、何の為に生きるのか、と。そしてそれは、自身が死ぬまで続いていくのだ。死んだ後でさえ、それが分かることは永遠に無いのに。
 だが、そうして己に問いかけ続けていくことが、生きるということなのだ。自分を探し歩き、迷い、悩み、それでも歩き続けていくことが生きるということなのだ。
 この宵闇の妖怪も迷い悩んでいるのだろう。自分が分からなくなっているのだろう。それで書物という他人の知恵を借りようと思ったのか。
 なんということだ。私が説くまでもなく、この小妖怪はベストを尽くす道を歩み始めているいうのか。私はその時、感動していた……!
「いいわ。借りていきなさい。……このままベストを尽くし続けるのよ?」
「? 何か分かんないけど有り難うなのだー」
 ああ、また一人ベストの迷い子を救ってしまった。これはもう閻魔に説教などとは生ぬるい。閻魔に腕立て腹筋スクワットを30回3セットで要求できるくらいの善行っぷりだ。もう私ってば最高すぎ。
 いやしかし、ここまでいくと罪深さすら感じる仕事っぷりだ。私の一言が人を変え、世を変え、世界全体を良い方向に導きつつある。
 まさにベストの伝道師、パチュリー・ノーレッジ。私の名は、まもなく全世界の教科書に載ることだろう。私こそが世界の救世主なのだ。本当、今日はいい夢が見れそうだ。いや、おそらく私は夢の中でもベストを尽くすことを人々に伝えるのだろう。なんと夢の中の住人にさえ深い慈愛とベストの心を持つとは。
 私が自身のあまりの素晴らしさに、ニヤニヤしながら悦に浸りつつ、深い眠りにつこうとしていた時、今度は見慣れた赤い髪の羽パタがやって来た。
「どこに言ってたんですか、パチュリー様。探したんですよ?」
 私に話しかけてきたこいつは、小悪魔といって使い魔として私に仕えている、一応悪魔の仲間だ。紅いロングのストレートヘアーと、頭と背中にある蝙蝠っぽい羽が特徴だ。小悪魔では呼びにくいので私は「こあ」と呼んでいる。たまに間違えて「ここあ」とも呼んでいる。彼女には、私が研究と読書で忙しい時に、私の代わりに図書館の管理をやってもらっている。だが決して全部押しつけている訳ではない。
 こあとの出会いは、私が魔法実験に失敗したのがきっかけだ。
 その時私は、ジャイアントゴリラを召喚しようと魔方陣を作動させたのだが、何をどう間違ったのかこれが召喚されてしまった。私的には一刻も早くジャイアントゴリラを召喚したかった為、無視して魔法陣の描き直しに取り掛かっていたのだが、なんかその間に勝手に契約が完了しており、帰って頂くことが困難になっていた。
 以来、仕方無いから私の使い魔として活用させてもらっている。まあ、ジャイアントゴリラには出来ない細かいことをいろいろやってくれるので、中々重宝している。ちなみにこあは、その事実を知らない。世の中、知らない方がいいこともある。とにかく話しかけられた私は、本日の私の善行を披露することにした。
「よく聞いてくれたわ、こあ。私は今日!迷える子羊共を救済しに!紅魔館の中で伝道師的な任務についていたのである!!」
「……! そ、そんな馬鹿な! 遊びの為とはいえ、パチュリー様が図書館から出るなんて!今日が世界滅亡の日だったんですか!?」
 ……ちょっとだけ、涙が頬を伝ってしまったかもしれない。
 いいさ。いいもん。いいんだもん。皆が私を普段どういう風に認識しているかを知ることが出来たから。そうなんだな。お前らいつも私をそんな風に私を思ってたんだな。畜生。前が霞んで見えないぜ。これからは、一日一回くらいは館内の散歩をすることを固く決意した。
「しかし、道理で見つからない訳ですね。てっきり図書館の中にいるとばかり……」
「たまには私だって外に出ることもあるわ。というか何の用だったの?」
「ええ。実は魔理沙に貸していた本が大量に見つかったんですよ。しかもこの紅魔館の中で。だからこれはぜひパチュリー様に知らせようと」
 どうやらあの大量の本は、こあが片付けてくれていたらしい。……本気で捨てられたのかと思ってた。
 しかし、これも今日の私の行いが叡智の神に高く評価されたという事だろう。こんな形で返してくれたとは。ふふふ。ニクイ奴め。だがそれも、それほどまでに今日の私は輝き、かつ皆の為になっていたという事であろう。まさにキングオブベスト。ベストの王様パチュリー・ノーレッジ。
 さあ皆の者、我を崇めよ。恐れよ。奉れ!我こそは真のベスト!キングの中のキング。キングオブ・パチュリー・ザ・ベストであるぞ!
 私は私のキングっぷりにいたく感動し、かつやっぱりもう眠いので眠りにつくことにした。すると、
「あ・パチュリー様! ちょっと手伝って下さいよ。魔理沙から返してもらった本、多すぎて一人ではとても戻しきれませんよ。というかこの図書館に持ってくるこだって重労働だったんですよ!?」
 ……何か言っているな。
 しかし、それは私の知ったことでは無い。私は今日普段滅多に出ない図書館から出て、さらに普段なら絶対に不可能な数の人々との会話をこなし疲れきっているのだ。しかも、私はベストの伝道師として十分な活躍をしてきたのである。そのことは先程、神のお返しという形で証明されている。Q・E・Dである。
 つまり私は、もうすでに十分すぎる程にベストを尽くしているのであり、キングオブベストであり、眠いのであり、つまりうるさい。
「こあ。私はもう眠いの。そして私はすでにベストを尽くしている。これ以上はデッドゾーンなの。体力的に」
「えーっ。そんなあ。私一人じゃ無理ですよぅ」
 こあは、がっかりしたようにうな垂れた。何やら不服の様だが、しかしこれは当然のことである。
 私は既にベストを尽くしていたのであり、私にこれ以上のベストは危険であり、鬱病患者に頑張れという禁句をぶちまけるようなものであり、つまり眠いのである。私は、こあとのこれ以上の会話は無駄と判断し、かつ眠いのでその場から立ち去ることにする。
 そして、私がそそくさと自室に向かおうとしたとき、こあは何かを思いついたように一冊の本を手にニヤニヤしながら私の前に現れた。
「パチュリー様。なぜベストを尽くさないのですかぁ?」
「……」
 こあは例の素敵本「なぜベス」を両手に持ち、私の眼前に押しつけた。私の前に上田次郎大先生の顔が広がる。……大先生のその知的な眼が私を見据えている。
 その巨大な存在感と、圧倒的なプレッシャーを与える瞳から目を背けつつ、私は本日の行動を冷静に振り返ってみた。
 レミィを怒らせた私。
 霊夢と会話し損ねた私。
 魔理沙に本を返してもらったものの部屋は散らかした私。
 美鈴におやつを食べられた私。
 咲夜に勘違いでいちゃもんつけた私。
 ルーミアに本を貸した私。
 そして現在、こあに詰め寄られている私。
 ……私は思う。

 はい。まったく、ごもっともでございます。


東方な日々では初心者の方に間違った東方知識を与える日々の提供を目指しております。
故に当作品は原作から随分とかけ離れていますが、原作を重視したい方は是非原作をお楽しみ下さい。

また、現在作者は皆様の感想、評価、批評、酷評、マジあり得へん死ね!等のコメントをお待ちしております。
もし気が向かれた方はお気軽にコメントをお願いします。

あ・でもやっぱり死ねは勘弁して下さい。作者は泣いてしまいますので(笑)




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