お待たせいたしました。総集編、大蛇足編でございます。長らく重ーい展開が続いていましたので、肩の力抜いて読めるものを目指しました。ある意味、「東方な日々。」の基本スタイルに戻った感じです。
それでは、どうぞごゆっくりとお楽しみくださいませ。
『ベンジョイ』
トイレを満喫するの意。便所とエンジョイを組み合わせて出来た語。少しずつだが社会に浸透中。そのうち大辞林にも登録される予定。
使用例:「わりぃー、ちょっとベンジョイしてくるわ」など。
……。
……。
……。
やぁ、紅魔館の赤い彗星、フランドール・スカーレットだ。まずは前置きを聞いて頂きたい。
例えば。例えばである。
例えば世知辛いこの世の中。何もかもが上手くいくと限らないというのは周知の事実だ。困難の壁は絶えず目の前にあり続け、絶えず行く手を阻害し続けている。それは誰もが知っている常識だし、この私とて揺るがない事実として認識している。いくら私でも、それを知らない程世間知らずなつもりは無い。生きることは困難である。当然だ。バファリンの半分は優しさかもしれないが、人生の90パーセントは七味唐辛子で出来ているのだ。
確かにそれは、住んでいる場所やその状況、己の性格等によっても多少は変わってくるだろう。運の要素が一つもないと言っても嘘になる。理不尽に思う事だってあるだろう。だが、大抵の場合は誰しも似たような苦労を積んでいくものだ。そして、それは時代背景やなんかとも関係がない。不況の時代でも好況の時代でも、そこには必ず困難が存在する。他人には他人の。自分には自分の。どんな時代でもどんな場所でも苦労はある。結局逃れられはしないのだろう。
しかし、だからこそ人生とも言えるのだ。生きるとは、理不尽な苦労の責め苦に揉みしだかれながら、在るとも知れない幸福の影を探す旅のことだ。それは砂漠にオアシスを探すに似た大変な旅路。そう言えば、昔、偉いオッサンも言っていた。『生きるとは、重き荷を背負いて遠き道を行くが如し』と。だから私だってそれは重々承知している。今、私の前にある困難は、決して私だけの不幸では無い。生きていくうちに必ず出会う、そんなありふれた日常の一コマに過ぎないのだ。
…………。
うん。つまり何が言いたいのかと言うと、私は現在、大変な危機に直面しているという事なのだ。いや、先にも言ったが、この困難は誰にも共通する困難なのであろう。皆が必ず一度は通る、いわば通過儀礼とも呼べる、そんな困難なのだろう。
だがしかし、だからと言ってそれが困難であることには変わりない訳で。そしてその困難度が非常に高いのにも変化無い訳で。誰もがぶち当たる困難とて、それが容易い訳ではない。
困難とは困り果ててしまうほど難儀な出来事の意だ。断じて容易いものではない。
……そう。それは行く手を阻む巨大な壁の様であった。いや、まさしく壁であったのだ。狡猾にして巧妙な壁。高き高き高き壁。広き広きひろゆき壁。暗く疲弊しきった電脳世界に打ち出された、今を時めくニコニコ何とかの前にそびえ立つ、高く険しい困難の壁であった。「アカウント? 何それおいしいの?」そう思ったのは一人二人では無いはずなのだ。
そして、そんなことはどうでも良くて、とにかく私の前にある困難は、数ある困難の中でも、取り分け危機的なものであった。例えるならばそれは、迫りくるターミネーターやゾンビなんかの恐怖にも似ている。……だめ、もうそこまで来ているわ! 何でこんな時に限ってエンジンがかからないの? 奴がもうすぐそこまで来ているのに。ああ、やっとかかってくれたわ。これで逃げられ……って、嫌ァァァァァァ!
……と、そんな感じで絶対絶命であった。大変な危機である。では、この危機の正体とは何なのか。誇り高き吸血鬼たるこの私を追い詰め、思い悩ませるほどの超バイオレンス級の危機とは何なのか。ホラー映画の代名詞として長らく語り継がれる伝説級の危機とは。危機とは。キキとは!
「……ふふふ。迂闊。抜かったわ」
そう。その時私は絶望していた。
「ふっふっふ。何で、何で紙がないの……」
そう。私は失望もしていたのだ。
一度、分かりやすく現状を説いてみようか。
私はその時、優雅に風雅に知的に恥的にトイレの中にてベンジョイ(前述の説明文を参照。トイレを満喫するの意。発音は滑らかに。扇情的に)中であった。周りには誰も居らず、自身が醸し出すカリスマ的な存在感に酔いしれていた。
いや、もしかしたら下々の者には分かり辛い感覚かもしれないが、私クラスのカリスマ生命体となると、自身のカリスマは我が身をも襲う一種の凶器となり得るのだ。故に普段はなるべく遠慮して、自分のカリスマを極力抑えてきているのだが、しかし、一人の時ならば問題無いだろう。思う存分自分自身にカリスマ攻撃して、その圧倒的かつ芸術な、己が深層意識の内に存在する魅惑と蟲惑のバンブーダンスに酔いしれるのは、貴族の間では当たり前の事だ。もちろん読者の中の多くは、無情にも貴族の出身では無いが為、この神秘なる感覚が理解し難いかもしれないが、ならばせめて、この世にはこれ程までに甘美で濃厚なる世界も存在するのだと言う事を、しっかりと記憶しておくがいいだろう。まあ、恐らくは経験する事など皆無であろうと思うが。なっはっはっは。
というわけで、私は個室に籠もってカリスマベンジョイ(ベンジョイについては前述説明文を参照。トイレを満喫するの意。カリスマベンジョイについてはこれから述べる)中であった。いや、ここでただ“ベンジョイ”と記さなかったのには理由がある。ただのベンジョイでは生ぬるいからだ。そう。私がそこに居ると言う事で、ただのベンジョイは“カリスマベンジョイ”となる。私だからだ。目の前のお前では駄目だ。私だからこそ、“カリスマベンジョイ”となり得るのだ。まさしく、これが貴族といえよう。いや、むしろ革命戦士と呼んだ方がより正確かもしれない。トイレ革命。ベンジョイ革命。私という存在が、そのまま革命を起こすのだ。存在そのものが革命。何もトランプで同じ数字を4枚揃える必要など無いのだ。私が居る瞬間革命が起こる。そら、さっさと3を出したまえ。まさにジョーカーよりもジョーカー的であった。
そして、そんな革命戦士ジョーカーたる私は、やはりベンジョイ(前述説明文を参照。トイレを満喫するの意)中で、既にやることも終わって音姫も止まって、紙で流してサヨナラグッバイまた会おうぜベイビーと思っていた。淑女たるもの礼儀を忘れることなど有りえない。どんな存在も同等かまたは同等以下に扱うのが貴族である。しかし、そんな貴族、革命戦士ジョーカーはとんでもない発見をしてしまった。
……足音が。足音が聞こえるんです。ぺたぺた言ってるんです。
おお、何ということか。今ここに来てオヤシロ様の影が。招かれざる悪魔の足音が。不吉を予言する何者かの悪意が、この私の鼓膜を震わせたのだ。
……そう。それはめくるめく愛と憎しみの二重螺旋の陰に隠れる甘美なる殺意の様に。雑木林の隙間から何故かこちらをじっと見てくるお婆ちゃんの後ろ手の鎌の鈍光り様に。この連綿と連なる大宇宙の歴史に刻まれし暗点の一つとして、私の行く手を遮る非日常の狭間の中から現れる現代魔術の総決算のように。愉快痛快ムエタイ沈痛、私を嘲笑う困難の影が!
「オーマイガッ! ノットペーパー! ノットゴッド! ノットオーマイソウルッ!!」
私は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。もしもこの世に神の慈悲があるならば、迷わず私に救いの手を差し伸べただろう。しかし、この世に神は居なかった。あるのは紙の自費ばかりである。間抜けと言えば間抜けな話だ。神など信じた私が馬鹿であったのだ。
神は天におわし、さてはこのトイレが見えなかったのだろうか。神に見捨てられ、迷える子羊となった私を襲った悲劇。これはもはや困難などという陳腐な言葉で片付けられるものではない。いや、元々そんな程度のものでは無かったのである。私の前にあるは非情に悲劇的な困難。略して非困であったのだ。
……おお。私はその時、足が竦んでいた。目の前にそびえ立つ非困の圧倒的スケールに。絶望的な存在感に。まるで私を圧倒し踏みつぶさんばかりの非困。それを嘲笑い、愉快に見下ろす非困。あまりにも悲劇的過ぎるではないか。
それは言うならば、いつのまにか太陽系のお仲間に認定され、これまたいつの間にかお仲間リストから除外されてしまった冥王星の気持ちだ。お前なんか仲間じゃないやい。そう言われた冥王星はどんな気持ちだっただろうか。今の私と共感出来るものがあるのではないだろうか。ああ衛星カロンは私を慰めてくれるのかい?
しかし、悲劇である。一周して喜劇にもなり得るくらいの危機的悲劇だ。むしろ非困だ。七転八倒だ。無きっ面に蜂だ。しかもただの蜂ではない。緋蜂だ。極殺兵器だ。正確に言うと私は見たことがないのだが「死ぬがよい」だ。この超加虐二層式洗濯機。どうすれと?
いやはや、ともかく非困であった。私の意思など一切認めない不幸な非困であった。自然偶発的な不慮の事故であった。敬虔なクリスチャンたる私に対する、明白な神の裏切り行為であった。故に私は悪くない。私は悪くないのである。全然全く完全完璧フルスイングの彼方まで私せいでは無いのである。では何故こんな事になったのか。誰がこんな悲劇を創造したというのだ。
私は考える。神(紙)の無くなてしまった芯をコロコロ回してみる。これ、使えるんじゃない? 痛そうだけど。すぐさま安易な考えは却下して、再び思考の海へとスキューバダイブする。何か有る筈だ。何かこの海の底に。このサルベージ果てに。私の望む希望の光が。唯一無二の魅惑の答えが。
――ふと。突然、何の前触れもなく、私はある事に気付いた。私の脳裏に天才的な発想と超人的な無双が舞い降りてきた。
……そう。これは私のせいでは無い。間違いなく誰かの“陰謀”である。では誰の陰謀か。
何を言っている。決まっているではないか。これはユダヤ人の陰謀だ! おお、そうか。何と言う事だ。全てフリーメーソンの画策だったのか! CIAの策謀だったのか! 共産党の独裁だったのか! そうか、学会の侵略だったのか!
何と言う事だ。恐らく私は、このトイレに入る前から狙われていたに違いない。そうして私がベンジョイン(ベンジョイの為にトイレに入る行為。類義語としてトイレインがある)する前にこのトイレにおわします博愛の天使(紙)を奪い去っていったに違いない。生粋のベンジョイ(前述説明文を参照。トイ(以下略))革命家と呼ばれる私を危険視した奴らが、何やかんやと私をトイレの中にに閉じ込めておこうしたに違いない。
……私は、その時驚愕していた。いくら革命戦士を自負している私といえども、そんな超組織が相手では、自分の革命思想もただ卑しいものに感じてくる。あまりにも小っぽけだ。私の革命の日々は、一体何のための日々だったのであろうか。
しかし、半ばヤケになりながら悲観にくれるも、私は少しだけ安心していた。だって陰謀ならば仕方が無いんだもん。特殊工作員の力がこんなところにまで及んでいるとは想像もせなんだが、しかし、それなら全てが納得できる。私のせいでは無い。そうであれば全て丸く収まるのだ。大団円である。アーメン、ハレルヤ、ピーナッツバターである。
だがしかし、ならばどうすればいいのだろうか。私は今一度冷静になって考える。今更嘆いても仕方がない。無いものは無い。無から有を産み出せるとするならば、それはまさに神の仕事で。それが無いから困っている訳で。ならば私は、現在あるものでこの非困を抜けだす方法を考えなくてはならないのである。即ち、悲愴に暮れて東尋坊の岬からダイブを企てるのではなく、極めて論理的かつ建設的な思考にシフトしなくてはならない。私は馬鹿かもしれないが、愚かではない。一流の革命戦士は情けなく慌てふためいたりはしないのだ。だからベートーベンさん、バックのピアノもういいよ。
……それに、別に手が無い訳でもないのだ。単純に考えて出来ることは二つある。一つは素早く助けを呼ぶこと。咲夜ならすぐに来てくれるはずだ。なるべくなら人に知られたくないのだが、この方法が一番手っとり早い。さて、もう一つの方法だが、これは隣の個室から神(紙)を招き入れるということ。これなら誰にも知られる恐れはない。しかしこれは賭けでもある。もし行って無かったら、それこそベートーベンさんの出番となる。悲愴に打ちひしがれしは我が醜態ばかりなり。しかし、これが一番恥ずかしくないので、私としては是非にこの策を推したい。
さて、実行すべき策は思いついたのだが、私は未だこの個室でピエロを演じている。何故実行に踏み切れていないか。そう疑問に思う読者も多いだろう。それも当然。こんな幼稚園児でもすぐに思いつくようなことを、何故さっさと行動に移さないのか。もちろん理由がある。なんと間の悪いことに、隣の部屋には先客がいるのだ。先ほどからごそごそと何者かが動いている。私と張り合うくらいだから、向こうさんも長期戦だ。そんな訳だから取りにいけない。貸してくれとも言い出しにくい。私にだって意地がある。向こうさんが先に出ていくのを、今か今かとじっと待っている次第だ。
時は刻々と過ぎていく。時間の流れは果てしなく無情で、三分の一の純情な感情さえ持ち合わせていない。それに、いくら居心地のいい便器と言っても便器は便器だ。ここで何時間も過ごす気など毛頭ない。早く出ていけ。何やってんだ。心の中で呪詛の念を呟きながら、隣の様子を観察してみる。どうやらあちらさんも事は終わったと見える。ならば至急、慎ましくお出になって頂きたいのだが、しかしどうにも動く気配は無い。何ともまどろっこしい。奥歯の間に刺さった魚の小骨よりも歯がゆい状況だ。
そうして大時計の鐘が鳴った。現在時刻は午後三時となった。互いにそろそろ限界のはずだ。咲夜の作るおやつを無為にしてまで、私と張り合う根性など持ち合わせていないはずだ。というか何? やっぱり張り合ってたの? 何の為に? 誰の為に? 君が為にィィッ!!
……いや、駄目だ。もういい。やっぱり疲れた。テンション上がんない。結局、先に折れたのは私の方だった。
「もしもし、お隣さん? 起きていますか」
トイレの隣人は答えない。私は問いかけを続ける。
「あのう、すっごく言いにくいんですが、紙を分けてもらえますか。この部屋には紙が無かったんです」
少しだけ、隣人に動きがあった。だが、中々渡してはくれない。まだ渋るのか。若干イライラしながらも、私は少し待ってみる事にした。そろそろ足が痺れてくる。
「クックック……。お困りの様ね」
「……! まさかお姉ちゃん?」
「そうよ。よく見抜いたわねフラン。褒めてあげるわ。クックック……」
こんな馬鹿みたいな台詞を使う者を、私は姉以外に知らない。面倒な相手がトイレの隣人だったものだ。姉はここぞとばかりに言い立てる。
「クックック……。そうなのフラン。紙が無いの。まさか紙の有無を確認せずにトイレに入ろうだなんて。何それ? あり得ない。ああ、可笑しい!」
そして腹立つなこいつ。緋蜂を送ってやろうか。姉が阿呆で間抜けで愚かで木偶の坊なのは知っていたが、しかし腹立つなこいつ。だが、状況が状況だけにぐうの音も出ない。言われたい放題で言い返す事も出来ない。私はただ黙って聞き流す事に専念する。
「いい? フラン。一流の淑女たるもの、ベンジョイ(前述説明文を(以下略))では一瞬の油断も許されないわ。私はそんな失態を演じた事は一度も無い。当然ね。でも、妹のあなたがそんなだと、姉である私の品位にも関わってくる。トイレは洗浄もとい戦場よ。決してミスは許されない。今、隣にいるのが私だった事を幸運に思いなさい」
私はそこで欠伸を一つ。早く終わらないかなとつくづく思う。
「今、私があなたに手を貸すのは簡単よ。でも、それだとあなたは今回のミスを過小に考えかねない。私は、このミスがいかに重大なミスだったのかを知らしめる為に、あなたに手を貸す事は出来ないわ」
「でも、じゃあどうすればいいの?」
「助けを呼びなさい。今すぐ。迅速に。しなやかに。そうして私が隣に居る事は黙っていなさい。それであなたは己の過ちに深く気付き、二度と同じミスを犯す事はないでしょう。そしてその後、余ったロールの処理は私がやってあげるから、あなたは早く部屋に戻りなさい。淑女がいつまでもトイレに籠って居るものではないわ」
「……うーん。やっぱりそれしか無いのかぁ」
唸る。そうか。やはりそれしか無いのだろう。ならば仕方無い。私は咲夜を……って、ん? 何か言ってる事おかしくないか?
「お姉ちゃん。まさか……」
「クックックッ。お馬鹿ねフラン。あなた、まさかこの私が紙を持っていないとでも思っているの? ククク。有りえない。考えられない。全て妄想よ。思い過ごしよ。いいから早く紙を持って来なさいって言ってるでしょっ!」
「…………(・。・)」
決まった。決定だ。これで全てが決まった。この馬鹿は紙を持っていない。なんだイーヴンじゃないか。しかも奴は決定的なミスを犯している。今も犯し続けている。棺桶の中で墓穴を掘り続けている。十字架をシャベル代りにして、ああここの土は堅いわぁなどと呆けた事を言っている。私は何だか憐れに思えてきた。
「お姉ちゃん。何か言いたい事はある?」
「……ブルータス、お前もか」
「うるさいよ」
こうして私たちは、革命戦士同盟を結ぶしかなかったのだった。
「……。でも困ったなぁ。お姉ちゃんが紙を持っていたら全部解決だったのに」
溜息一つ。そんな嘆きの声が出ても仕方ないというものだ。しかし姉は元気だった。
「違うわフラン。私は紙をもっていないのではない。あなたに貸す事が出来ないだけよ」
「はいはい。分かってますって」
そうして事態はますます混迷を極めている。というか何なんだ。何故こんな近くに馬鹿が二人集まってしまったのだ。もっとマシなの居るだろうに。
「しかもよりによってトイレなんて。本当に神様なんて居ないのかなぁ」
「それも違うわフラン。……トイレには、それはそれは綺麗な女神様が居るんやで」
「お姉ちゃん。ネタが狭いよ」
これ以上読者層を狭めてはいけない。誰にも付いて来て貰えなくなる。しかし、それにしても困った。これでは八方塞がりだ。助けを呼ぶにしても、こんな有様では恥ずかしくて出来っこない。一人ならまだしも二人一緒に非困に見舞われたなんて、そんな事がバレたら一生の恥だ。それに姉の主張する生贄作戦も、立場が対等なら私は是非に姉にやってもらいたい。互いに同盟を結んだが、主張は平行線のままだった。
姉は言う。
「プランA」
「……どうぞ」
「まず神(紙)が無かったという発想から変えていく必要があるわ。神(紙)は無かったのではなく使い切ってしまった。それならあまり恥ずかしくないでしょう?」
「それは魅力的な考えだね。まさにコペルニクス的発想の転換。それで名乗り出るのがお姉ちゃんなら万々歳だね」
「……次を考えましょう」
「そうだね」
革命戦士の苦悩は続く。しかし、共同戦線の果てにあるのが、この下らない言葉の応酬だけとは。私は何だかアホらしくなっていた。しかし、姉はまだ戦士の職務を全うする気らしい。
「プランB」
「一応、どうぞ」
「まずは私たちが神(紙)を求めているという認識から疑うべきよ。私たちが求めているのではなく、神(紙)の方が私たちとの邂逅を求めている。それなら大丈夫よ」
「それはダイナミックな考え方だね。まさに奇想天外、摩訶不思議。お姉ちゃん、本気で解決する気ある?」
「……まだピースが足りなかったようね」
「そうだね。でも、恐らくそのピースは一生見つからないと思うよ」
革命戦士の煩悶は続く。しかし、そろそろタイムリミットが近いのも確かなのだ。
そう、なんと現在私のケツには、厳戒態勢乾燥警報が発令中なのである。このままではシックで瀟洒でスマートな私のケツが、ラクダ行き交う砂漠地帯の荒れ地が如く、ひび割れガサガサああ恐ろしやなドライゾーンに突入してしまう。憐れである。無残である。世界的な損失である。大恐慌の始まりである。フランショックである。政治不信は深まるばかりである。
「というか、そもそも何で紙がないのさ。おかしいじゃん。これって咲夜の怠慢じゃないの?」
「それもそうね。大体、前の一件があってから紙の補充には最大限気を付けるように言ってあったのに……」
「そうだよそうだよ。これってちゃんと神(紙)を補充していなかった咲夜が悪いんだよ」
「そうね、そうだわフラン。私たちは悪くない。全部咲夜が悪いのよ。間違っていたのは咲夜の方である!」
……おお、何と。ここに来て初めて私たちの意見は一致した。二人の革命戦士は、ついに互いの敵を発見することに成功したのだ。憎き怨敵はすぐ近くに居た。咲夜根源説により私たちは団結した。我々は新たなる革命の意思を固めつつあったのだ。
「ところでお姉ちゃん。前の一件って何?」
「ば、馬鹿! 何でもないの、何でも無いわ! 忘れなさい。忘れるのよ!」
「……? まあいいけどさ。そうだよね。二度も三度もこんな過ちを犯す馬鹿なんているわけ無いもんね」
「そ、そうね。その通りよ。全くその通りだわ、フラン」
「……」
少々疑惑の香りがする物言いだったが、せっかく纏りつつあった同志の絆に、再び亀裂を走らせる訳にはいかない。私たちは同じ理想を描く革命戦士なのだ。革命の火をこんなところで絶やす訳にはいかないのである。
「でも、二部屋同時に神(紙)が留守ってのも変だよね」
「うーん。いや、そういえばさっきパチェが、包帯男の心理を知る為とか言って、小悪魔をトイレットペーパーでぐるぐる巻きにしてたわね」
「何それ。何の研究だよ。というか包帯じゃないじゃん。ペーパー男じゃん」
「まあ包帯よりは安上がりだからね。小悪魔も『guren kaina! syhaaa!』とか言って喜んでたわ」
「懐かしいね。……って、それって元凶パチュリーじゃん」
「え? そうか成程。おのれ腐れ魔女め。ずっと引き籠っているから害は無いだろうと油断させておいて。謀ったな!」
そうして姉は、まるで昼ドラの急展開が如く大仰に驚く。若干鬱陶しいが、しかし、私たちは今ここで本当の陰謀の正体を知ったのだった。おのれ、何と言う事だ。咲夜はフェイクだったのか。確かにパチュリーはベンジョイ(前述説め(以下略))に対して消極的な意見の持ち主であった。ならば、パチュリーは初めから、私たちの革命を潰すためにやって来た工作員だったとも考えられる。なんと、陰謀の影はこの館の内にあったのだ。全ては初めから仕組まれていた事だったのだ。
「まさか、パチュリーがユダヤ人やら何やらの陰謀に加担していたなんて。私がっかりだよ」
「そうね。……いや、それは違うわフラン。確かにあの根暗クソ魔女はほとんど黒に近い。レベル5の末期も末期といったところね。でもね、これはそんな小さな陰謀ではないの」
そして姉は、そこで一度間を置いた。何故かノリのいい姉に困惑しつつ、しかし、その間の意味を読みとった私は、もう一度便器の水を流してみた。「じゃぁぁぁ」という音が響き、互いの緊張感を高めていった。
「なら、この陰謀の影にいるのは一体誰なの? 私たちをここまで追いつめた敵とはどこにいるの?」
「ふふふ。急かさないの。驚かないでよフラン。今から明かすのは世界的にも知られていない極秘情報なんだから。――そう。この陰謀の影に居るのはね、……KGBよ!」
「……! まさか、そんな。KGBはソ連崩壊と共に消滅したはず……」
「いいえ。ソ連の意思は生きているわ。そう。奴らは終焉の鐘は鳴り響く頃、CIAと手を組む事にして生き残ったのよ」
なん……だと……!?(BLEACH風) 何という事だ。KGBとCIAが手を組んでいたなんて。一体そんなことが有り得るのだろうか。奴らは犬猿の仲のはずだ。未だに愉快なスパイ大作戦を実施して、メディアを沸かせて話題を提供し合うくらいの敵対国同士の筈だ。
「そんな、有り得ない。イワンとアンクルサムが手を取り合うなんて……」
「全て事実よ。今や彼らは蜜月の仲。マイムマイムやらコサックダンスやらで愉快に踊り狂う間柄なのよ」
「……そんな。そんなことって……!」
私はその時、絶望していた。失望もしていた。確かにそうだった。それだけの筈だった。しかし今、私は類希なる姉の想像力にも脱帽していた。鼻がムズムズする。ついでにこの会話にも飽きてもいた。
そっと、さりげなく隅の棚に置かれていた雑誌、『学研ムー』を手に取った。
「駄目だ。勝てっこない。そんな超々組織の陰謀なんて(棒読み)」
「それだけではないわ。私の所の情報によると、最近彼らの元に、宇宙人からの密使が来ていたそうよ。世界征服はもう目の前。私たちの運命はその彼らの掌の上にあるのよ(棒読み)」
「くっ、何てことなの。しかし奴らは一体何の目的で(棒読み)」
間抜けな二人の声はよく響く。よくよく聞けば、姉の方でもページをめくる音がする。何だ。そっちにもあったのか。とりあえず私は、収穫したハニー(ハナ●ソなんて汚い言葉、レディは使いません)をどう処理するか迷っていた。
「何を言ってるの。そんなのは明白でしょう? 御覧なさい。私たちの目の前にあるこの非困を。奴らはこうして各トイレから神(紙)を奪い、トイレ神(紙)を我がものとしようとしているの。つまり、神(紙)を配給制にすることで、共産思想を全国に浸透させようとしているのよ!(棒読み&誇大妄想)」
姉の演説はまだ続く。私はひとまず、ハナクソ(ハ●ー)を水で流し、ついでにこの一件も水で流せればいいなぁなどと思いながら、ムーの方に注視していた。……いけるか? いや、駄目だ。早まってはいけない。こんなの使ったら血が出ちゃう。
「卑劣。卑劣よ。これが奴らのやり方だと言うの?(まだ棒読み)」
「顔を上げなさい。革命戦士、同志ジョーカーよ。まだ終わりではないわ。希望はまだ終えていない。たった一つ、でも確かな手段が残っているわ(いよっ、棒読み大将)」
姉は大いに力説する。そろそろ終演の時が近いらしい。確かに『ムー』の方もパラ読みが終わってしまった。それに何より、そろそろ読者諸氏も残りの行数を気にしている頃合いだ。
「そ、その手段って……」
「ふふふ。そうよ。たった一つの冴えたやり方。それは……、ノーペーパーライフ(紙を使わず事を終わらせること)!」
――私は、そのとき耳を疑った。
「本気、なの……?」
驚いた。何とか使えないかとかき集ていた、ロール芯の僅かな残紙を、思わず手元から落としてしまう程に驚いた。まさか、姉がそこまで思い詰めていたとは、思わなかったからだ。本気かどうかは分からない。ただ姉は、越えてはいけない一線のことを口にしたのだ。
「お姉ちゃん。それはさすがに……」
「よく聞きなさいフラン。これは革命よ。ベンジョイ(前jy(以下略))革命。巨大な陰謀に打ち勝つ為の正義の剣。私は卑劣な共産主義者に屈しない。戦士としての正義を貫くのよ」
姉は、いよいよ勢い付いてきた。立ち上がって拳を握りしめていても良さそうだ。……どうしよう。もう止め方が分かんない。私は、言おうか言うまいか未だ迷っていた。
「さあ、今こそ私たちはの革命を――」
「ねえ、本当ごめん。いい加減もう面倒くさい」
「……そっちが始めたくせに。まあ、そろそろ本当の決着の時ね」
そうして私たちは、静かにムーをガラス扉の中に閉まった。パタンと扉が閉まり、私たちは冷静さを取り戻した。もう、彼らの手助けは無用だ。何故なら私たちは、本当の決着を意識したのだから。
……そう。私たちは分かっている。初めから分かっていたさ。いい加減、懺悔の時だろう。そうさ。こんなのが誰かの陰謀な筈は無い。単純に自分のうっかりミスだ。そうさ。大半の陰謀なんてものは被害妄想が産み出した娯楽の一つさ。気に入らない現実からの逃避でしかないのさ。
だから私達のするべき事は、初めから決まっている。素直に現実を受け入れ、自分の非を認める事。そうして、勇ましくいじらしく潔く十六夜咲夜に助けを求める事。ちゃんと分かっているんだ。
「駄目だよ。お姉ちゃんも言わなきゃ。抜け駆けしたら、紙、あげないんだからね」
「そっちこそ。言わなかったら咲夜に言いつけてやるんだから」
そうして二人は同時に息を吸う。しかし、そのまま声を上げるのかと思ったら、また吐きだして仕切り直した。同時に躊躇うのはやはり私達が姉妹だからか。隣の壁の向こうで、姉がゆっくり頷いた気がした。
私は再び大きく息を吸った。でもまだ躊躇う。いいえ駄目よ。勇気を出して。頑張って。引けば老いるぞ。臆せば死ぬぞ。叫べ。そら叫べ。
「「……さ、咲夜ーっ! 紙ーーっ!!」」
そうして二人の声は、まったく同時に響いていったのだ。
「……ったく、あの馬鹿姉妹は」
呆れるような溜息が零れた。仕方ない。やはり姉妹といったところか。しかし、新たに加わった元気な声の元に、銀のメイド長はどこか楽しそうに、……とても楽しそうに、駆けていくのであった。
お疲れさまでした。いやー、ネタだらけでしたね。分からない人は置いていくぜっていう…(笑)
しょーもない物にお時間を使って頂き、大変有難うございました。
次回より紅魔郷組から妖々夢組へバトンタッチ致します。描きたくて仕方無かった橙編に突入です。なにかフラン編が終わってみると、肩の荷がすぅーと下りたみたいに創作意欲が上昇しているんですよね。近いうちにまた会いましょう。
おまけ。

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