※※今回のお話には残酷な描写が含まれます※※
はい。ようやく更新でございます。でもまだ、まだフラン編は終わらないのです。ですが怒らないで下さいませ。もうすぐ終わりますゆえに。後しばしお付き合いをお願い致し奉り候ごにょごにょ(笑)
では、今回いつもに比べて少し短めですが、ごゆるりとお楽しみ下さいませ。
暗い暗い暗い暗い。
紅い紅い紅い紅い。
「何……この部屋……?」
ひどくカビ臭い。それが最初の感想だった。
ヴアルの地下図書館から更に地下へと下っていった場所。下へ下へと、まるで地獄まで続いていそうな階段を降りていったところに、その部屋はあった。
辺りは、暗い異様な空気が漂う。私はこの部屋の存在を知らない。ただ、その重い扉を開けた一瞬だけ、何故か懐かしいような香りがした。
「今日からここが貴女の部屋よ。貴女にはしばらくこの中で生活してもらうわ」
姉は何ともないように言う。怒りも悲しみも、何もない声。姉は先程から一度も目を合わせてくれない。
「嫌だよ、そんなの」
当然、私は拒絶を示す。何故私がこんなところで暮らさなくてはいけないのか。まるで意味が分からない。
確かにヴアルはひどい有様になっていた。私は気絶していたらしく、よく覚えてないけど、建物はほぼ全壊と言っていい程だ。でも部屋が無い訳じゃない。
「フラン、よく聞きなさい。貴女の持つ“力”は危険なのよ。その力が人間に知れたら、また争いの原因になりかねない。事が収まるまでは隠れてもらうわ」
「“力”? 私が悪戯の時使うアレ? あんなのが危険な訳ないじゃない」
「……可能性はあるわ。慎重に行動すべきよ」
淡々と姉は言う。表情に変化はない。ただ姉の後ろに控えるメイリーだけが、難しい顔をして俯いた。
「どういう事なの? お姉ちゃんは私を嫌いになったの?」
「馬鹿なこと言わないで。少しの間だけよ。すぐに出られるわ」
「嫌だ。私は絶対に嫌だ」
それでも私は強く拒む。中々うんと言わないと私を見た姉は、微かに困ったような顔をする。それから少し考え込む。
でも、それは嘘くさい格好だった。もう何もかも全部決まっていて。姉はそれを伝えているだけで。そんな気がしてならない。
そして姉は、そんな私の予想を裏付けるように、言った。
「フラン。これはスカーレット家当主としての命令よ。……行け」
どこからか、すき間風が吹いた。
「お姉、ちゃん……?」
「メイリー。連れて行きなさい」
「承知しました」
そう言うや否や、メイリーが素早く私の腕を掴み、私の身体から自由を奪う。そしてそのまま強引に部屋に連れていく。
「嫌だ! そんなの嫌だ! メイリー! 止めて、止めてよ!」
「すみません、フランドール様。当主様の命です。どうかご容赦を」
「嫌だ! 嫌だよ!」
メイリーの腕の中で必死にもがいた。懇願するように激しく喚いた。でも、メイリ―は眉をひそめるだけで、止めてはくれない。
私は部屋の中に放り込まれる。見るとメイリーは既に踵を返し、そのまま外に向かって歩いていく。
そして気付く。私の身体は、メイリ―に何か術を掛けられたのか動かない。ゆっくり扉が閉まっていくのを見ながら、私はただ叫ぶことしか出来ない。
「嫌だよ! 止めてよ! メイリー! お姉ちゃん、止めて! 助けて!」
でも姉は、私の訴えをもう聞いてなどいなかった。背を向けて歩きはじめている。一歩一歩、私から遠ざかっていく。
「さよなら。フラン……」
そして扉は閉まった。重い、重い音を立てて扉が閉まった。その瞬間に術が解け、しかし私は気付いてしまった。
姉は最後の最後まで私を見ていなかった。私は切り捨てられたのだ。
姉と私との距離は、ここにきて絶対的なものになった。
「出せ! ここから出せ!」
もう何度目になるか。繰り返し扉を叩く。どれだけ叫んだだろう。どれだけ拳を打ちつけただろう。
でも、どれだけ叫んでも声は届かず、鉄の扉には血の痕が残るだけだった。
「痛い、痛いよぅ」
私の手は扉を叩きすぎて、既に傷だらけだ。でもそれを見て憐れんでくれる者は、ここには居ない。
「お願い。ここから出して……」
それでも扉は答えない。無慈悲に己の存在感を主張し続ける。ここから先は、お前の住む世界ではないとでも言うかのように。
私の牢獄となったこの部屋は、何もない殺風景な部屋だった。簡素な椅子と机と、あとはベッドがあるだけ。どれも何処からか持ってきた物だろう、一応手入れはされてある様だが、何の気休めにもならない。この空間自体が異常だった。
この部屋はおかしい。何もかもが異質だ。初めて来たときに感じた不安は、ここに来て数日で現実になった。
その部屋にあったのは“目玉”だった。人間か或いは動物の目玉。部屋中の目が私を見ている。壁にも天井にも床の上にも。至る所にある目。ギョロギョロと動きながら私を見ている。
それが誰の目なのかは分からない。何の意味があるのかも分からない。でも、ただ怖い。ただ単純に怖い。ただ純粋に怖い。ただ圧倒的に怖い。怖い。怖かった。
「嫌だ。嫌だよ、ここ……」
吐き気がする程の光景。生ぬるい淀んだ空気。空間を歪めて捻って引き延ばした様な、訳の分からない不安感。じわりじわりを私を押しつぶさんとする圧迫感。とても正気の沙汰じゃない。気が狂いそうだった。
「お姉ちゃん、私が我儘言ったのは謝るから。だからここから出して。ここは怖い。とっても怖いの。こんなところに居たら、私、おかしくなる。だからお願い。ここから出して……」
もう恨みの言葉も出てこない。すがるように私は言う。
でも、どれだけ声を枯らそうとも、どれだけ両手を紅く染めようとも、相変わらず、扉はそこに在り続けた。
しばらく経った。もう、どれだけの時間が流れたかは分からない。私は叫ぶ力も、扉を叩く力も無くなり、部屋の隅で丸くなって座っていた。
疲れきった心は、もう反抗しようという思考も奪っている。すでに脱出も諦めた。別に不便もしていなかったのだ。
食事など必要な物はメイリーが毎日持って来た。いつも決まった時間に、決まった通りの言葉で現れる。完全な予定調和。何の面白味もない行動。ほら、こんな風に。
「フランドール様。起きていらっしゃいますか」
メイリーはいつも必ず私に声をかけた。まるで私の生死を確認しているかのように。でもメイリーは、私と顔を会わすことはせず、扉の横にある小さな小窓から差し出して帰る。メイリーもまた、私を恐れていた。
運ばれてきたそれを拒んだこともあった。でも、もう拒絶してもどうしようもない事を私は知っているから。出されたものは取りあえず食べる。他にも必要な物があれば、言えばすぐに持ってくる。便利な奴だと思う。
「ねぇ、メイリー。お姉ちゃん、どうしてる?」
メイリーの持ってきた食事を済ませたあと、暇つぶしに聞いてみた。大して興味もない。
「今は、また暫く出かけています」
「そう」
素っ気なく、答えた。
結局、姉は一体何を恐れているか。私の力を危険だと言っていたけど、私の力は既に発動しなくなった。もう意味を失っている。でも私は、その理由がただの方便だったことにも気付いている。
「お姉ちゃんは、私の相手が面倒くさくなったんだよ」
「そんなっ、違います! レミリア様はフランドール様が心配で……」
「じゃあ、何でここに来ないの? あれから一度も、声も聞いていない。少しの間って言っていたのに、私はまだ檻の中。あいつはね、私なんか嫌いなんだよ」
吐き捨てるように言った。
姉は、この場所に近づこうともしない。もう忘れようとしている。きっと姉の中では、私は既に死んでいるんだろう。初めは、どういうつもりで私を閉じ込めたのかは分からなかった。姉を恨んだ。憎んだ。殺してやろうとも思った。でも、もう知ってしまった。理由を知って私は、恨みの言葉さえ面倒くさくなった。
私は姉がどこかに行ってしまうのが怖かった。居なくなってしまわない様に、手を引いて振り向かせようとした。でも、姉に私は必要なかったのだ。
「もういい、帰ってメイリー」
「でも……」
「ダメだよ。あんまり長居したらメイリーも壊れちゃうよ? 私みたいにね」
「フランドール様……」
消え入るようなメイリーの声。そして観念したのか気配は次第に遠ざかっていく。
最近、暗かった部屋が紅く見える様になった。目玉の他に、蛇のように動く手が何本も見える。その手が私の首を絞め落としてくれたらいいのに。そんな事をぼんやり思う。
今のところ死んではいない。それは確かに正しい。でも、それだけだった。
また月日は流れた。もう数なんて分からない。もしかしたら、外は何年もの時間が経っているのかもしれない。時間の止まったこの部屋では、そんな事も分からない。
ある日の事だった。
「ねぇ、メイリー。私、メイリーの顔が見たい。しばらく会ってないでしょう? 会ってお話しない?」
いつものように食事を持ってきたメイリーに、私はそんな事を言ってみた。無機質な扉との睨めっこはもう飽きた。
「……」
メイリーは何も言わない。まだ私を警戒している。
「今日は大丈夫。いつもの目玉も出てこないしさ。入って来てよ。ちょっとだけ。顔だけ見たらすぐに閉めていいからさ」
それでも私はメイリーを誘ってみる。自分でも不思議だった。もう時分から何かを求める事は無いと思っていたのに。今日は何故か、メイリ―の顔がどうしても見たかった。
少し間が空く。扉の外側で考えている様だ。そうしてメイリーは意外にも、はい、と小さく返事を返した。
私が驚いている間に、ゆっくりと扉が動く。ぎいぎいと音を出しながら少しずつ開いていく。ふわっと、久しぶりに外の空気が入って来た。扉の隙間からは、暗いが確かに外の世界もある。これがもう少し早くに見れたら、私はすぐさまその隙間に飛び込んでいったのに。
「フランドール様……」
扉の影からメイリ―が顔を出す。久しぶりにあったメイリーは全然変わっていなかった。相変わらずの紅髪。サイドの三つ編みも健在だ。少しだけ嬉しくなる。
「わぁ、久しぶり。随分長い事会って無かったよね」
「はい、フランドール様。御無沙汰しておりました」
その声を聞いて、今まで部屋の外から聞こえてきた声は、確かにメイリーのものだったのだと、改めて実感する。
「お姉ちゃんは相変わらず?」
「はい。いつも忙しそうにしています」
「そう。さっさと死んじゃえばいいのにねー」
「そんな、そんな事を言っては……」
目を伏せながら、申し訳なさそうにメイリーは言う。姉の話になるとメイリーは必ず声を落とす。いつもその態度が気に入らないのだけど、今日は声だけではなくその姿が見れた。背の高いメイリーが小さく見える。扉の裏では、いつもこんな風に俯いていたのだろうか。
何か、ぞくっとするものが芽生えた。メイリーのその姿に、私の加虐心はくすぐられていた。
「ねぇ、メイリー。メイリーってさぁ……」
「……?」
来る。何かが来る。私の内側から、それはやって来る。長い間心の奥に溜っていたそれは、今、解放されようとしている。
「馬鹿だよねぇ!」
メイリ―が対応するより早く、私の両手はメイリーの首にかかった。
「あははははははははは! ねぇ、このまま首をねじ切ってみようか! そしたらどうなるんだろ? ねぇ、メイリー。どうなるのかなぁ!」
「くっ、フランド……−ルさ……」
身体は勝手に動いた。メイリーは苦痛の表情を浮かべる。ああ、何故だ? 愉快だ。ああ、愉快だ!
もう全てがどうでもいい。私の死も、メイリーの死も。何もかもどうでもいい。このまま首を絞め落とせば、私も楽になれる。そんな気さえした。
「あははははははは! メイリーはあと何分持つのかな!」
「う、……わ」
メイリーの呻きが漏れる。それを聞き一層力を込める。死ね。死ね。死ね。みんな死んでしまえ。
でも、
「申し訳……ござい、ません。……フラン、ドール様……」
メイリ―は私を突き放そうとしなかった。それどころか、両手を私の背に回していく。
「申し訳、ございません。申し訳、ございません……!」
メイリーは、そのまま私を引き寄せようとする。私はこの感じを知っている。これは、この感じは。なんとメイリーは、私を抱きしめようとしていた。
「……ちっ」
首を絞めていた手を放した。熱が一気に引いていく。
「げほっ、げほっ」
メイリーの両手から力が抜けて咳込む。でも、決して私から離れようとはしなかった。
「ごめん、メイリー」
呟くように言った。そのままメイリーから背を背ける。酷く虚しい気持ちになった。
「もう帰って。私、このままだとメイリ―を殺しちゃう」
開け放たれた扉の奥で、地下道に響く大時計の音が微かに聞こえてきた。時が止まってしまったこの部屋とは違う。生きた世界の音。私はそんな世界が妬ましかったのか。
「すみません。すみません……!」
でもメイリーは、そんな私を後ろから抱きしめてくれた。温かい。メイリーの体温はとても温かかった。でも同時に、逆に私の体は死んだように冷たくなっていた事に気付く。
「……ごめん。帰って」
違う。もう違うんだ。メイリーは生きている。私とは違う。
壊れてしまった私は、もうメイリーの居る世界にはいけないのだ。
そうして、また時は流れた。依然として姉はここには現れない。私は、もうこの場所から出ようとも思わなくなっていた。
どうでもいい。全てがどうでもいい。
私はもう何も見えなくなった。もちろん目が使えなくなったという訳じゃない。自分の手だって見えているし、メイリ―の顔だって見える。でも、あの狂気染みた闇はもう見えない。薄気味悪い目玉も、不気味にうごめく無数の手も、全てを覆う紅い闇も。それらはもう見えなくなっていた。
それにどんな意味があるのかは分からない。でも私は、それらにすら愛想を尽かされた様で、無性に寂しかった。
もう終わらせたい。全部壊して楽になりたい。そう思っていた時もあった。私を疎ましく思う姉は、しかし私を殺してはくれない。僅かに残った家族の情がそうさせたのかもしれない。でも、だから私は、自分で自分を殺すしかなかった。
手首を切った。喉を裂いた。ナイフで胸を貫いたこともあった。でも私は死にきれない。妖怪の力なのか、或いは姉が恐れるあの“力”のお陰なのか、私はその度に生かされた。
それを恨んだこともあった。死に切れない身体を呪ったこともあった。でも、もう慣れた。もうどうでもいい。何がどうなってもどうでもいい。生も死も、檻の内側も外側も、全てどうでもいい。いつも無反応。いつも無感情。いつもと変わらぬ扉を前に、私はそう思い始めていた。
「フランドール様。すみません。私はそろそろこれで」
「うん。また来てね」
その字面とは裏腹に、私は素っ気なく言う。メイリ―は私に一度だけお辞儀すると、扉を閉めて部屋から出ていく。扉に錠が掛かる音が鬱陶しく響いた。
メイリーは、あの事件からも時々顔を見せてくれるようになった。私の話し相手になってくれる。今日も少しの間私と話をしてくれた。でも、それも最早どうでもよかった。
そうして私は、また一人で丸くなって眠る。
私は最近、同じ夢ばかりを見る。マリアの夢だ。隣には優しかった姉もいる。三人で遊んで、日が暮れたら母が迎えに来て、そして父と一緒に晩御飯を食べた。そんな夢。
私にとっては、もう戻ってはくれない日々の夢だけが、最後の砦だった。私が私で居られる唯一の場所。それが夢の中。夢から醒めればまた虚しい現実に帰らされる。いっそのこと永遠に眠り続けられないかと思っていた。
しばらくして、私は目を覚ました。眠りが浅かったのか、まだ頭がぼうっとする。今日の夢は嫌な夢だった。内容は覚えていないが、背中を流れる大量の汗がそれを物語っている。
何か嫌な予感がする。汗を拭いて着替えよう、そう思って立ちあがった時のことだった。
「……おはよう、フランちゃん。よく眠れた?」
ある筈のない声が部屋の中に響く。いつの間にか、私の目の前に人が立っていた。背は私と同じくらい。しかしその顔を見て、私は目を見開いた。それは私のよく知るものだった。
「嘘。どうして……?」
そこにいたのは、……首を振る。ある筈がない。でもそこにいる。一度目を瞑り、ゆっくりと開いてみた。
私の前に立っていたのは、なんとあのマリアだった。最後に見た時とちっとも変わっていない。人のよさそうな柔和な顔をしている。
「マリア、生きてたんだ……」
思わず手を伸ばす。分からない。どういう事なのか分からない。でも良かった、良かった。
しかし私の手はマリアのは届かない。届こうとする前にマリアに止められる。
「駄目だよフランちゃん。違うの。私は幻。もう死んでいる。でもね、フランちゃんにどうしても言いたい事があったから。こっちに戻って来たの」
「私に言いたい事?」
「そう。ずっとずっと昔の事。でも私にとっては昨日の様な事」
マリアはそっと微笑んだ。優しい笑み。それは夢の中の、帰らないあの日々の様な。マリアは私に向かって微笑んでいた。それは残酷な程に、とても綺麗な笑みだった。
マリアは言う。
「フランちゃん。何であの時、私を助けてくれなかったの?」
「……!」
自分の顔が引きつるのが分かった。
「私、言ったのに。助けてって。置いてかないでって。それなのに、どうしてフランちゃんは私を置いて逃げたの?」
マリアの表情は変わらない。微笑みながら、でも口調は強めながら。マリアは私を責めている。私を罵っている。
「そういうことなんだよ。フランちゃん。これはそういうこと。でもね、もういいや。もうばいばい。二度と会う事も無い」
マリアは私に背を向けた。私は何か口に出そうとして、でもやはり言葉が見つからない。
「私は貴女を許さない。絶対に、許さないからね」
そうしてマリアは消えていく。マリアの体が徐々に透けていく。焦って名前を叫ぼうとした時には、既にマリアは完全に消えていった。
「マ、リ……ア」
マリアは消えた。まるで初めから何もなかったように。
でも、言葉は繰り返される。頭の中で何度も繰り返される。マリアが、私を見ている。マリアが私を責めている。罵っている。
「そうか。そういうことだったんだ」
そして、私は全てを理解してしまった。私を監禁する意味も。何故この部屋でなくては駄目なのかも。
そうか。そういうことだったんだ。簡単な事だ。だからこれは、
「罰、なんだ」
そう、だった。これは私の罪に対する罰だったのだ。私がマリアを見捨てた罰。自分一人で逃げてしまった罰。もし私が逃げなかったら、マリアは死なずに済んだんだ。私には姉も恐れるという力があったのに。でも私は逃げたから。だからマリアは死んだ。
ううん。それだけじゃない。あの時、マリアが死ななかったら。戦いは起きなかった。私がちゃんとマリアを助けていれば、みんな死なずに済んだ。そうだ、私が逃げてさえいなければ。
私は、私は逃げました。ただ怖くて逃げました。ただ必死で逃げました。
でも、だったら……?
「そうか。全部、全部私が壊したんだ……」
マリアも、お父さんも、お母さんも。全部私が壊したんだ。被害者を装って誰かのせいにして。でも本当は全部自分が壊したんだ。みんな、みんな、みぃぃぃんな。私が壊したんだ。
「はは、あはははは……」
全身の力が抜けていく。両手で抱く足が震えていた。
「私が、私が……。あははは……」
そうだ。私は気付いていた。ずっとずっと前から。全部私のせいだって。私が悪いんだって。気付かない振りをしていた。忘れた振りをしていた。
「……あは、はっ、はぁっ」
上手く呼吸が出来ない。でも私はこの感覚を知っている。確かに覚えている。苦しい。吐き気がする。寒くて寒くて堪らない。この感覚全てを、私はかつて味わっている。
何故もっと早くに思い出さなかった? 私の間違いはあの時あの場所でマリアを見捨てた事。何故考えないようにしていたんだ?
「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」
謝罪も贖罪も意味が無い。もうみんな帰らない。私が壊してしまった人は、もう戻って来ない。
この終わらない地獄で、終わらない罪の重荷に押しつぶされる事。それが私に与えられた罰。
「ごめんなさい……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……っ!!」
全てを理解した。私はもうここから出られない。
私の罪は、償えない。
それから長い時が流れた。
長い、長い時が流れていった。
お疲れさまでした。お付き合い頂き有り難うございます。
今回、ようやく物語の『承』が終わった次第です。暗いのもここまです。次回からは『転』に入ります。急・展・開! ただ、ごめんなさい。二桁台にはいきそうです。いや、今回分はもっと進める予定だったんですが、ここで一度切るのが物語的にはいいのかなぁと。……反省します。もう余計な宣言はしないように気を付けます。
さぁ、いよいよあと少しでこのフランドール編もおしまいです。紅魔郷編の総まとめとも言えるフラン編。どうか、もうしばしの間お付き合いお願い致します。
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