※※今回のお話には残酷な描写が含まれます※※
お待たせ致しました。フラン編の続きでございます。
……ええ、目処が付いたと言いながら気付けばまた一月ペースでございます。しかもいつもより微妙に短い。いえ、全ては作者が悪いのでございます。フランは悪くないのであります。主人公なのにあんまり出番が無いのもフランのせいじゃないのであります。どうかフランを責めないでやって下さいまし。
という訳で(?)、フラン編、ごゆっくりお楽しみ下さいませ。
私は逃げました。
ただ怖くて逃げました。
ただ必死で逃げました。
でも、
私を間違っていると言うのなら――、
女の子ならレミリア。どう? 良い名前でしょ――
聞いて! 今日ね、フランが初めて立ったの! ああ、もう! 見せたかったなぁ――
こらこら二人とも喧嘩しないの! もう、喧嘩ばっかりなんだから!――
どう? 私のカボチャスープは。すっごく美味しいでしょ――
ところでレミィ。今日は貴女にいいものがあるのよ――……
「……思い出したらキリが無いわね。貴方もそう思うでしょ?」
身動きの出来ぬ身体で、すぐ隣で番をしていた兵士に問うてみた。当然、怪訝な顔をされる。訳が分からないといった風だった。当たり前だ。それは私の、私たちだけの大切な思い出なのだから。
その部屋は狭かった。相当使い込んだ部屋らしく、あちこちに綻びがある。捕らえた極悪な吸血鬼を閉じこめておくには、やや心許ない。ついでにこんな不平も言ってみる。
「というかね、何なのよこの縄。天下の吸血鬼様を相手にこれはちょっと貧相すぎない? 伝説通りなら、こんな縄すぐに千切って逃げるわよ?」
私はあくまで平静を装い、おどけてみせた。ただの強がりだった。不満を垂れてはいるが、そんな縄でも今の私には十分過ぎる。手足は縛られただけで、私は一切身動きが出来なかった。それでも私は、道化を演じるのだ。
……分かってる。これは逃げだった。現実からの逃避だ。
だが私は、口を休めることをしない。構わず言葉を紡いだ。
「あーあ。もう一度だけ、カボチャのスープ飲みたかったなぁ。ねぇ、ちょっと作ってきてくれない? 大丈夫だって、逃げないから」
別に期待もしていないのに、そんな要望も入れてみた。しかし、彼の心境に変化は無かった様で、相変わらず無愛想に番を続けた。……思わず溜息が出る。もう味わうことは無いと思うと勘らなくなった。私はきっと、あのスープの味を忘れることは無い。例え生まれ変わったって、決して忘れ無いのだろう。
しばらく私は、何も言わぬ兵士相手に話をして過ごした。何の意味も無い、他愛のない話だ。ただ言葉を繋げているだけ。言葉を重ねているだけ。言葉を切ってしまう事が怖かったのだ。
そして、不意に扉を叩く音が聞こえた。
「初めまして、ですね。……成程。噂通りに美しい人だ」
入って来たのは男だった。私はその男をまじまじと見つめた。そうか。これが英雄と呼ばれた男か。私は生の彼を始めてみた。実物を見ると思っていたより随分若い。だがそのくせ、漂う雰囲気はまるで年老いた翁のようだった。顔は痩け、血色も悪い。とても英雄などと呼べるような、大層なものじゃない。
私は彼の言葉に、やはりおどけて返した。
「英雄さんは人妻を口説こうっていうのかしら?」
「……失礼しました。あまりにも美しかったので、つい」
「一応、褒め言葉としてとっておくわ」
そして英雄は力なく笑った。私は彼の笑みからある事に気付いた。その笑い方は、今の私にそっくりだった。ならばきっと、彼も私と同じように、現実から逃げようとしているのだろう。
「出来れば、出来ればもっと違う形でお会いしたかった……」
そう続ける英雄に、私は少しだけ頷いて肯定する。そのまま二、三言葉を交わした。だが所詮、会話は今までの繰り返しに過ぎない。迫りくるその瞬間を、ただ先延ばしする為のものでしかない。まるで中身の無い会話。嫌なことから目を背けようとする逃避だ。しかし、時間はどこまでも容赦をしないのだ。
「“あの力”は、一体何なのですか?」
だから、ついに英雄は言った。一番聞きたかったであろう問いを。または、一番聞きたくなかったであろうその問いを。事実、彼の目は私を捉えていない。薄ぼんやりと、何処か遠くを眺めている。そこにあるのは、間違いなく恐怖の感情だった。
……堪らず、私は目を伏せて視線を外す。格好悪い。悪戯がばれた子供のようだった。
「何故、今まであの力を使わなかったのですか? 何故もっと早くに使わなかったんです? そうすれば、あんな力があれば――、」
「でも、貴方にはあれが、“使ってもいい力”に見えたのかしら?」
語気を強めて言葉を遮った。英雄の言葉を途中で切ったのは、私が、それ以上聞きたくなかったから。
今でも偶に夢に出る。血と闇と目と。思い出したくもない、でも、消えてくれない記憶。自分の肩が震えているのが分かった。
英雄は言う。
「私は、怖かった。何人も死にました。私の戦友も、右の肩から先を持っていかれました。私はそれを全部見ていた。背筋が凍るかと思った。怖かった。だって、あれではまるで、まるで本当に……」
「まるで悪魔に見えた、でしょう? あれはそういう力よ。使ってはいけない力。存在することさえ許されない力」
そう。あの力こそ、私が最も忌み嫌ったもの。絶対に使うまいと決めていたもの。それなのに私は、再び力を使ってしまったのだ。
「あれは破壊の為だけの力よ。一度あの状態になれば、敵も味方も関係無い。ただ破壊し尽くすだけの化け物になる。自我は消え、まるで“力”そのものが意志を持っているかの様に、私の体は“力”に乗っ取られる。そして最後は……、」
そこまで続けて、私は言葉を止めた。もう無理だった。吐き気がする。これ以上続けることなど出来なかった。
「……その力は、他の吸血鬼にも?」
「いいえ、私だけよ。あんな力、二つとあって堪るものものですか」
こんなものは私だけで十分だ。他に二つと無い。当たり前だ。これ以上他にあって堪るか。存在そのものが禁忌だ。
「もういいでしょう、こんな話。私はその力と共に果てるのだから。忘られていく力よ」
私はもう、自分の運命を理解していた。どのみち、感情に任せて力を使ってしまった私は、罰を受けなくてはならない。ここで死ぬのなら丁度良いだろう。
でも、最後にどうしても聞きたい事があった。
「ねぇ、英雄さん。……マリアベル、何で死んだの?」
私は死ぬだろう。でも、これだけは確認しておかねばならない。マリアベルの処刑はおかしかった。今までは、吸血鬼を捕らえても、いきなり殺すなんて事は無かった。フランは変な噂を信じて、悪い方に捉えていたけど、ちゃんと裁判をして、吸血鬼である事が認められなければ、処刑が実施される事など無かった。私だって、ついさっき形だけとはいえ裁判を受けてきた。だから、マリアベルの死はどこか作為的な、まるで予め仕組まれていたような違和感を覚えたのだ。
「マリアベル。あの子供の吸血鬼ですね。すみません。私がそれを聞いた時には、既に全部終わっていました。その子を捕えた者が、独断で処刑を実施したのです。国民の不満と怒りは、制御できない程の“うねり”となっているのです。もう誰に止められない。結局私は……」
「英雄でさえ既に無力だった、と。そう言うことね。とんだお笑い草だわ」
それなら、それならまだ、仕組まれていた方がマシだったのに。騙されていただけの方が、まだ希望があったのに。この国は、世界は、どこまで堕ちているというのか。
「分かったわ。それについては貴方を責めない。最近は貴方のお陰で、狩りの被害が最小限に留められていたし。でもね、これだけは言っておく」
私は一度言葉を切る。姿勢を正し、その目を真っ直ぐに見据える。
「この、腐れ外道っ……」
吐き捨てた。全ての発端に。その元凶となったこの男に。情けない。こんな事でしか抵抗が出来ない自分が情けない。その言葉は、まるで私自身に向けられているような気がした。それでも英雄は黙ったままだった。自分の無力を一層煽って歯がゆかった。
「……さぁ、行きましょうか。観客が待っているわ」
私は、ようやく言った。これ以上長引けば辛くなる。逃げの時間は終わりだ。もう、幕を下ろそうと思った。
「怖くはないのですか……?」
「少しはね。でも、ようやく私に弁解の場が与えられたんですもの。行かないとね。――そのくらいの時間はくれるんでしょう」
私は英雄を見る。分かっている。彼なら、もう答えは分かっている。
「出来うる限り、処刑を長引かせます」
「ふふ、ありがとう。……さぁ、吸血鬼オヴェリア・スカーレット、一世一代の大舞台よ。娘たちの為にも、格好悪い姿は晒せない。最後まで吠えてやるわ」
思えば、随分と時間をかけた。あの日、あなたに生かされた日から。その時から、私は一人では無くなったのだ。それは、とても優しかったし、とても温かかった。こんな私には勿体無いくらい。そうして私は、怖くなったのだ。
さあ、行こう。贖罪の時だ。死が償いになるかは分からないけど、それが求められているなら従おう。……そうだ。いいことを思いついた。こういうのはどうだ? 誇り高く生きられないのなら、せめて、
「せめて、誇り高く死んでやる――」
私はついに一歩を踏み出した。
○ ○ ○
「はぁっ、はぁっ」
夕刻迫る首都。私は息を切らせながら、大通りの道を走っていた。通りを行き交う人々の群れを掻き分け、ただ一人を探す。何処に居るのかは見当もつかない。だが、諦めたくは無かった。
――ふいに頭が揺れた。私はそのまま立ち止まる。脳裏を嫌なイメージが過った。これで何度目だ? 私は、しつこく襲ってくる最悪のイメージを振り払い、再び走る。走れば何とかなる、そう思いたかったのかもしれない。
十字路の向かいに、姉がいるのが見えた。
「お姉ちゃん。どう? 居た?」
息も絶え絶えに、目の前の姉に尋ねた。見ると姉も、まだ寒い季節だというのに、額には汗が浮かんでいた。
「ううん、駄目。人が多すぎる。それに皆様子がおかしいよ。何だか浮かれているような、変な感じがする」
「……うん。それは私も思った。まるでお祭りでも始まるみたいな……」
姉の言う通りだった。確かに、どこか様子がおかしい。その違和感に、より一層の焦りを感じる。嫌な予感がする。何か悪いことが起きようとしている。
……私たちが町に着いた時には、すでに戦闘は終わった後だった。郊外には、よほど激しい戦闘が繰り広げられたのだろう、戦闘の爪痕だけが残っている。未だに立ちこめる硝煙。吐き気がするような死の臭い。確かに殺し合いが行われていたのだと、私は改めて実感する。
私は、沢山の吸血鬼の死体が、山積みにされているのも見た。まるで無造作に。ゴミの山でも作る様に。私は、それを見て笑う人間たちの姿も見た。でも、それだけじゃない。これまた夥しい数の人間の死体も、私は見た。一体どうやれば、双方にこれ程までの死者を出せるのか。そこにあったのは、地獄絵図に他ならなかった。
そして、その場所で、私は母の事も聞いた。吸血鬼のリーダーは、今、町の方で捕まっているという。女の吸血鬼で、青い髪をしているという。……間違いなく、私の母であることが分かった。
……悔しかった。悔しくて仕方がなかった。私の爪で引き裂いてやりたかった。でも、前に出ようとする私は、姉の制止で抑えられた。そんな事をしている場合ではない。そう姉に説得され、私たちはその場から退散したのだ……。
「でも、何処にいるんだろう……」
誰にでもなく呟いた。こんなに探しているのに、いまだ、母ついて有力な情報は得られない。そもそも、首都には初めて来たということもあって、地理が掴めずにいた。しかし、早くしないと大変なことになる。急がないと手遅れになってしまう。それだけは、何となく分かっていた。
――ふいに、私たちの上から覆う影があった。
「何やってンだ? チビ共」
影はいきなり話しかた。私は慌てて振り返る。そこに居たのは、ボロボロの衣服を纏った一人の男だった。武器の類を持っていない。どうやら兵士ではなさそうだ。だが、これで三度目。私たちの間に緊張が走る。
「見ない顔だな。余所から来たのか? だったら急げよ、早くしねぇと終わっちまうぜ」
「……え」
言っていることが分からなかった。だが、敵意では無いことは分かった。戸惑う私とは裏腹に、何かを感じた姉はすかさず男に聞いた。
「どういう事ですか? 今から何が始まるんですか?」
「……何だ知らンのか。それがな、なんと吸血鬼の親玉が捕まったンだよ。今から広場で処刑をすンのさ。いや〜、めでたいめでたい。これでやっと枕を高くして眠られる。チビ共もそう思うだろ?」
男は能天気に、実にめでたそうに、とんでもないことを言った。
……処刑? それを聞いた私は、たちまち絶望に包まれた。お母さんは死んじゃうの?
何度となく繰り返されたあのイメージ。死のイメージが私を襲う。私は思わずしゃがみ込んでしまった。……怖い。怖かった。
「あの、広場はどっちですか?」
私の背中を擦りながら、姉がその男に聞いた。焦る気持ちを抑え、何とか冷静さを保つ姉は、私に目に大きく見えた。
「ン? ああ、この通りをまっすぐ抜けてだな……、」
「お姉ちゃんっ」
「聞いた。行こう」
その瞬間、私は立ちあがった。そして走る。止めなければ、それだけは絶対に止めなくては。隣を走る姉も、同じ思いに違いない。私たちは今までで一番早く走った。
……気付けば、私は自然と呟いていた。
「お願い。間に合って……」
笑いたければ笑えばいい……。
私はその時、“神”に祈ったのだ。
○ ○ ○
「――神など糞くらえだ。お前たちは騙されているんだ!」
何度目かの叫びだった。私を磔にした処刑台は、その度にぎしぎしと悲鳴を上げた。十字架を見つめるのは大勢の人間たち。何百人はいるだろう。そんな大勢に向かって私は叫んでいた。しかし――、
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!!
……それはやはり、群衆の声に掻き消されていった。まるで狂ったように、何度も何度も続けられた『殺せ』の大合唱。どれだけ叫ぼうとも、どれだけ声を枯らそうとも。その声は届かない。『殺せ』の声は、全てを飲み込み押し流していく。
――狂気。そこにあるのは正しく狂気。今、広場は狂気で溢れていた。憎しみで溢れていた。歪んでしまった世界の姿がそこにはあった。
(こんなに、こんなにも大勢の人間が私の死を願っているのか……)
そう思うと、私は改めて恐ろしくなった。私は世界に否定された。私の声は、もう誰にも届かない。
「オヴェリアさん。民を抑えるのも既に限界です。……よろしいですか?」
隣で声がした。私の叫びを間近で聞いていた英雄が、私に時間切れを告げた。今まで何とか抑えてもらっていたが、どうやら抵抗はここまでらしい。
「よろしくは、ないんだけどね」
自嘲気味に笑った。何だったと言うのか。結局、私の訴えは、誰の耳にも届かなかった。何も変えることなど出来なかった。私は自分の無力を恥じた。そして、同時に今の世界の在り方に恐怖した。
だから、せめて私は言ったのだ。
「英雄さん、よく見て。これが貴方達の作った世界よ」
眼下に広がるは狂人の群。この光景こそが、長き戦いの果てに得たもの。幾重もの屍の先にあったもの。
「……」
「何度でも繰り返すわ。同じ事を何度でも。何度でもよ!」
鳴りやまない、殺せのコール。この声が、この狂気が、今の世界そのものだった。憎しみで溢れた、歪でねじ曲がった世界。こんなものの為に、私たちはどれ程の犠牲を払ってきたのか。こんな世界の先に、一体どんな未来を描けと言うのか。
「変われます。必ず、変わって見せます……!」
「そう、願うわ……」
本当に、心からそう願った。
「さあ、殺しなさい。言いたいことは沢山あるけど、時間は無いのでしょう? 覚悟ならもう出来ているわ。これ以上未練も無い。この人生に幕を降ろしましょう」
英雄は頷くと、近くの兵に合図を送った。するとヴォルスングがやって来る。今や隻腕となった彼は、槍と自慢の大剣を部下に持たせ、悠々と歩いてきた。……どうやら、あれが私を殺す道具らしい。生きたまま火あぶりは勘弁してくれるようだ。少しだけ安心した。
「片手でちゃんと斬れるの。手元狂わさないでね」
私の夫を殺したこの男が、今度は私の首も斬る。皮肉としか言いようがない。そう思った。
ヴォルスングは私を一瞥した後、『問題無い』と小さく答えた。
「ならよかったわ」
英雄が民衆の前に出た。彼が音頭を取って処刑が始まる。民衆が、どっと歓声を上げた。
「これより、人の世を乱した悪魔、吸血鬼オヴェリア・スカーレットの処刑を始める!!」
両脇の兵士が槍を構えた。目の前には大剣を持ったヴォルスングがいる。今まで羽目を外して騒いでいた観衆も、一斉に静かになった。
――これで、私は死ぬ。
思う事は色々あった。楽しかった日々。騒がしかった日々。涙にくれた日々。立ち上がる勇気を知ったあの日。……一度だけ、やり直す事が出来るとしたら、一体どこからが一番いいのだろうか。そんな事も考えた。
目の前の影が動いた。私が終わった。そう思った時だった。
「……嘘、でしょう?」
閉じようとしていた目を、思わず見開いた。その光景に釘付けになる。嘘だと思った。でも、見間違える筈が無い。私が、この私が見間違う筈が無い。“自分の娘”を、見間違える筈が無い。――そう、あの雑踏の中に、確かに私の子供たちがいたのだ。
「……あ」
そして、私は気付く。私の正直な気持ちに。そうだ、私は。私は……、
「嫌だ。嫌だ。私は、私は……!」
「オヴェリアさん……?」
その言葉は聞こえない。何度も呟く。もう、一点しか見えない。
……ああ、何で。何で私はこんなに馬鹿だったんだ。何でこんな単純な事に気付かなかったんだ。
私は、大きく息を吸った――
「死にたくないッ!!」
「――!!!?」
一瞬にして、観客が響めいた。皆、私の言葉に耳を疑った。槍を持つ兵士たちは、驚いて離れてしまった。だが、そんな事すら、私にはもう見えない。私はただ一点だけしか、あの子たちしか見えていなかった。
「嫌だ! 死にたくない! 死にたくない!」
叫んだ。無様に叫んだ。誰に言ってる訳でもない。誰に頼んでいる訳でもない。ただ自分の気持ちを叫ばずには居られなかった。
「嫌だ! 嫌だ!」
十字架に張りつけられた身体をよじる。こんな物が何だ。邪魔だ! 私は、私は!!
「くっ……。吸血鬼が暴れ出したぞ! 押さえろ!」
誰かの一言で、周りの兵士たちが、一斉に抑えにかかる。知るか。叫ぶ。
「ちくしょう! 触るな! 離せ! 近付くな!」
無様に暴れた。滑稽に暴れた。手足は動かない。力も出ない。それでも、牙をむいて精一杯の抵抗をする。
「嫌だ!! 死にたくない!! 死にたくない!!」
……私は、馬鹿だった。愚かだった。何故気付かなかった? 何故考えなかった? 答えは初めから分かっていたのに。私は死にたくなかったのに。もっと生きていたかったのに。
私は、戦うべきじゃなかった。何もかも投げ捨てて、家族とだけでも逃げればよかった。
――ヴラム。貴方は正しかった。私が間違っていた。素直に言う事を聞いていれば良かった。だって、だって私には、まだこんなにも未練がある! まだあの子たちの側にいてやりたい。まだあの子たちの母でありたい。そうだ、フランはお人形を欲しがっていた。レミィには、カボチャスープの作り方を教えてやると、約束していた。他にも、教えてやらないといけない事が沢山ある。まだまだ、やってあげたい事が沢山ある。ああ、そうだ。私は、私は――、
「私は。私はまだ――、」
……次の瞬間、私たちの母は、槍で串刺しにされ、首を落とされて死んでいった。
歓喜に沸く群衆の中、私は姉と一緒にそれを見ていた。少し背が低くなってしまった母を、私はずっと見ていた。涙が流れたかどうかも定かじゃない。ただ、母の言葉だけがいつまでも頭の中を離れなかった。
『死にたくない』
……それが、誰よりも強かった母の、最期の言葉だった。
お疲れさまでした。貴重な時間を使って頂き有難うございます。
……うーん。死なせたく無かったなー。というか、フラン編が長引くのは全部この人の処遇が決まらなかったせいなんですよ。更新が遅れるのもこの人のせいです。作者は悪くないのです(何?) ……一応、死なせないパターンも何通りか用意したんですけどね。結局、当初の予定通りこうなりました。
そしてついに次回、お話が大きく動きます。ようやく核心に入るのです。もちろん宣伝です。アオリです。姑息な手段です。
と言う訳なので、また次回お会いしましょう。ばいちゃ!
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。