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黄昏

作者: 常盤 兼成

この話は黄昏たそがれという言葉を見て思いつきました。

黄昏は夕暮れを意味する言葉ですが、その語源は夕暮れどきは薄暗くて人を見分け難いという意味での「誰そ彼(あれは誰だ)」という言葉から来ているそうです。語源って調べると結構面白いですよね。

「おうい」

夕暮れ時の河川敷を散歩していたら、突然声を掛けられた。声の方を見遣る。私が今しがたやって来た道を、男が一人、大手を振りながら歩いてくるところであった。

ふと辺りを見渡すも私の他に人影はない。やはり私が声を掛けられたようだ。

あれは誰であろうか。じいっと目を凝らすが夕方の薄暗さのせいか、顔をよく窺えない。

「おうい」

男は尚も左右に大きく腕を揺らしながら近付いてくる。

そこでようやく男の顔が見えた。はて、誰であったか。どこかで見たことのある顔だ。

「こんなところで逢うなんてなあ、散歩か?」

やけに親しげな男を訝しげに眺めると、なるほど、と私の中で納得がいった。どうしてこんなに近付くまで気付かなかったのか。

何ということはない、男は親しい知り合いであった。

「なんだお前か、薄暗くて見難いから誰かと思ったよ」

「ああ、だから声掛けても返事しなかったのか」

「知らない奴に声を掛けられたと思ったんだ」

「なるほどなぁ。ああそうだ、これからいつもの面子で集まるんだが、お前も一緒にどうだ?」

彼は笑みを浮かべたまま、いった。

誘いはありがたいのだが、私には散歩のついでにどうしても今日中に済ませておきたい用事があった。

私はしばし悩み、

「いや、今日はやめとくよ。散歩がてら用事も済ませようと思っていたんだ」

「そうかあ。どうしてもだめか?」

「悪いね、また今度」

彼は残念そうに肩を落とすと、「わかったよ、じゃあまたな」と言って来た道を戻っていった。

私も別れの言葉を述べて、再び歩を進めた。

「……」

数歩進んで、私の足が止まる。

「……あれ?」

私の脳裏に突如ある疑問が浮かんできた。

「今の、誰だ?」

私は思わず振り返る。視界にはこれまで進んできた河川敷が延々と続いている。

そこに男の姿は、ない。

一気に肌が粟立つのを感じた。

そうだ、私の知り合いにあんな男はいない。

何故あの男を知り合いなどと思ったのだろう。何故あの男と当然のように仲良く話していたのだろう。

私はあんな男を知らないじゃないか。しかしどういうわけか、ついさっきまで私の中ではあいつは知り合いだったのだ。

そこで私の脳裏に更なる疑問が過ぎる。

「あいつ……どんな顔だったっけ?」

顔を思い出そうとしても、煙のように輪郭がぼやけてしまってうまく思い出せない。

顔も、声も、思い出そうとすればするほどに朧げになっていく。段々と恐ろしくなってきた。

黄昏時に出会った男に恐怖した私は、藍色の空の下を駆け出した。

「あれは、誰だ」

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