第5話:慰め
「これから、戦いがはじめる。用意はいいか?星井、配置は把握できたか?」
一通りの状況説明を終え、綾瀬が一喝した。
現在、東京に配置されている俺らの仲間は5人。日本全国には性格面・運動面など
様々な条件で選び抜かれた奴らが60人ほどいるという。
ウイルス感染者は今もなお増え続け、俺がこうしている間にも放火や殺人が
相次いでいる。このままウイルスを放っておけば東京都内は炎に包まれるだろう。
「オッケーです。把握できました」
配布された地図上に蛍光ペンで丸く印を付けたところが味方の居る場所だ。
「ならば、早くもここを出てそれぞれの配置につけ!一刻を争うぞ!感染者はいまや
30分に一人の割合で増え続けている」
今までの流れでようやく実感が湧いてきた。
俺がこの場にいるのは夢じゃなく、現実なんだ。否定したいけれど、変えられない事実。
ずしりとプレッシャーがのしかかる。
俺達の一挙一動に国民の命が懸かってると言ってもおかしくないはずだ。
どんなに俺が図太い神経していたって身がもたない。
準は片手に握っているレーザー銃を一瞥すると、覚悟を決めたように顔をあげた。
「綾瀬さん、すぐにでも始めましょう。俺だってこんな戦争みたいなもん
早く終わらせたいっす」
準の言葉に綾瀬が頷き、勢い良く机を叩いた。
「外へ出ろ!皆に細かく指示してる間はない!常に味方の動きを見て
正確に今自分がすべきことを見極めろ!」
はいっ、と準たちが返事をし、一斉に席を立ち始めた。
これから、俺は東京都内の見回りに、絢乃と西田は各地の仲間の救助に、
綾瀬は単独でウイルス感染者を見つけ次第、しらみつぶしにしていくという。
ウエストポーチに入っていた最新型だという無線機を左肩にかける。
外へ出て、バイクにまたがりヘルメットをかぶろうとした俺に西田が近寄った。
「いいか、星井。ウイルス感染者は必ず首筋に青紫色の痣がある。
それを目印にレーザーを打て。気は抜くなよ」
「首筋に青紫の・・・。わかった」
ヘルメット越しに頷いて準はバイクを走らせた。
その背を絢乃と西田が見送る。
「絢乃、俺前から気になってたんだけど」
ポツリと西田が漏らす。
「なあに?」
「何でお前・・・こっち側にいるんだ?」
それを聞いてにこっと微笑んだ彼女の僅かに露出された首筋には青紫色の痣が浮き出ていた。
外は悲惨な光景だった。
周りに群れを成していた家々は焼け、見るも無残な状態になっている。
そしてかすかに漂う、血の香りと腐臭がここでも殺しがあったことを
雄弁に語っている。
おそらく死体は俺ら側の奴らがなんとかしてくれたのだろう。
(被害がでかいな・・・都心だからか?それにしても・・・)
旋回中に準は違和感を覚え、眉をひそめた。
(最新のコンピュータウイルスにしては攻め方が幼稚すぎる。暴走した・・・と
言っていたな。暴走すると見境がなくなるってやつか?でも攻撃されてるのはどれも
住宅やアパートばかりだ。高層ビルなんか一つも壊れてやしねえ)
バイクを降りてみた。住宅街の真ん中に仁王立ちしてみる。
人は居ないかとあたりを見回すと、かすかな嗚咽が聞こえてきた。
音の源をたどると燃え残った石垣の陰に少女がすすり泣きしている。
準は少女に近づき、ヒザをついた。首筋をさりげなく見てみるが痣がない。
感染者ではなさそうだ。
「おい、大丈夫か?」
少女が顔を上げる。まだおよそ小学2年くらいか。
「パっ、パパが・・・」
涙を流しながら必死に言葉を言おうとしている。
準は黙って続きを待った。
「パパが、ママを殺しちゃったの・・・。お家でご飯食べてたらね、パパが急に
おかしくなっちゃって・・・ママ、あたしをかばって死んじゃった」
言い終わってから再び大声で泣き出す。俺は女が泣いたときの対処法を知らず、
一瞬あわてたが、気を取り直し頭をゆっくり撫でてやった。
話を聞くかぎり、この子の親父も感染者だ。
「お前のパパはな、病気なんだ。きっと後でまた元に戻るぜ」
自分の口からでた一言に僅かに心が痛んだ。
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