プロローグ
まるで長い夢を見ているような、そんな感覚だった。
時計が止まる。
そんな感覚にも取れるような。
寒気を覚えた。
海岸沿いの道を車で走っている時、ラジオから流れるニュースで僕はその事故を知った。
「またか…」
そう思った瞬間、車は長い長いトンネルに吸い込まれていった。
何をやっても続かない。
楽しいと感じられることも、興味を持てるものも何ひとつ見つけられずに居た。
周りの友達が
「隣のクラスに可愛い子居るぜ!」
なんて騒いでいても、僕には全く関係ない世界でのやり取りにしか聞こえなかった。
冷めたクソガキ。
まさしくそんな言葉がしっくりくる。
冷たい目、冷めた笑い、何もかもが面白くなかった。
「なぁ、リョウ、お前、どんな子がタイプなんだ?」
同じクラスで幼馴染のコウイチが、休み時間、ふと僕ににやけながら尋ねる。
「え?女なんてどれも同じじゃねぇのか?俺は別にどうでもいいよ…」
僕がそう答えると、彼は何だか真面目な顔をして、熱く語り始めた。
「いいかリョウ、よく聞けよ。女がみんな同じなわけ無いだろ?あいつを見ろよ、かわいいと思うか?」
そう言って、長い髪を二つに結んだ黒ブチ眼鏡の女の子を目で追う。
「…いや…思わないな…」
僕がそう答えると、いたずら好きな少年のような目をして、彼は続ける。
「だろ?んじゃあっちはどう思うよ?」
そう言う彼の見る方向へ視線を向けると、カナが笑っていた。
彼女は僕の隣の席のおとなしい感じの子だ。
かわいいとかかわいくないとか、そんな目で見た事がなかったから、突然そう聞かれると正直戸惑う。
クラスの女の子たちと笑い合う彼女の姿にいつの間にか見入っていると、ふと僕の視線に気付いたのか、目が合ってしまった。
「やばい!」
なぜかそう思い、思わず目をそらしてしまった。
コウイチは笑いながらカナと手を振り合う。
「バカだな、すぐに目をそらすと変に思われるだろ。こういう時はさりげなく手を振るくらいの余裕がないとやってられないぜ。」
そんな事言われなくたってわかってる。
お前が突然そんなわけのわからない質問をするから動揺したんだろ。
そう心の中でつぶやきながら
「ふぅん…」
と曖昧な返事を返していた。
気のない返事をする僕に、彼は軽く溜息をつきながら続ける。
「俺、チラッと耳にした噂なんだけどさ、カナってお前のこと気になってるらしいぞ。」
「はぁぁぁぁ!?」
予想もしていなかった言葉に驚いた僕のオーバーリアクションは教室中に響き渡り、ざわめいていた空間は一瞬静まり返る。
皆の視線をいっせいに浴び、どうしていいのかわからなくなった僕は、教室を飛び出していた。
「お騒がせしてごめんなさ〜い!」
コウイチがおちゃらけながら笑い、俺の後を追い、教室を飛び出してきた。
「リョウ!待てってば!」
僕は彼の言葉を無視するようにずんずん廊下を歩き続ける。
「おい!何怒ってるんだよ!」
彼が僕の肩に手をかける。
「別に怒ってなんかいないさ。怒ってはいないけど、わけがわからないよ。何だってそんな事俺に言うんだよ。」
立ち止まり、うつむいたまま、彼に問いかける。
「何でって…そりゃ…俺はお前が心配だから…」
僕は彼に、自分の何を心配されているのかわからなかった。
頭の中にクエスチョンマークだけが山のように並んでいた。
「何が心配なんだよ。何が言いたいんだ。」
僕の問いかけに、ちょっと困ったように彼が答えた。
「お前、もう高校生なんだからさ、多少なりとも女に興味を持ったほうがいいんじゃないかと思って…。
そんな素振り、見せたことも無いからさ…」
正直、驚いた。
いつものおちゃらけた感じで返事をしてくるもんだと思っていたから。
それと同時に、腹が立った。
確かに恋愛に対して興味を示したことはなかったけど、放っておいてくれよと言いたかった。
ただ「放っておいてくれ。」そう言いたかっただけなのに、僕のイライラに任せて口をついた言葉は、最低なものだった。
「お前のように誰にでもチャラチャラ話しかけるの、俺、嫌いだから。
お調子者のお前に心配されるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇよ。余計なお世話だ。」
やっちまった…いつもの悪い癖…
本当はそんな事思ってなんかいないのに…。
「あははは、そりゃ、そりゃそうだ!ごめんごめん!気にしないでくれよな!」
そう言って笑いながら立ち去る彼に、申し訳ない気持ちで一杯だったけど
「ごめん、言い過ぎた。」
と謝る勇気も無く、ただ彼の背中を見ていた。
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