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胡桃の中の蜃気楼 作者:萩尾滋

序章

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  ハーフターム3

『同じよ』
 と、サラに言われたとき、自分が責められているような気になった。インドの特殊な慣習と、雇用関係を同じ土俵で語れるわけがない。だけど……。
 ヘンリーは、今まで自分の立場も、先祖から受け継がれてきた土地も、爵位も、財産も、自分が受け継ぐものと、当たり前に受け入れてきた。何の疑いも持たずに……。
 『それがわたしのカルマなの。』
 と、自分の不遇な生まれを淡々と受け入れ、自分を教育することが生きる為の武器だというサラと、自分は、なんと違うんだろう。
 僕は今まで、何をしてきたんだろう? のんべんだらりと日々を過ごしていただけだ!
 ヘンリーは、ベッドにうつぶせに横たわったまま、枕に顔を埋めて声を押し殺して泣いた。

 悔しい! 悔しい!
 こんな愚かな自分では、サラもこの家も守れない。強くなりたい。サラみたいに、強くなりたい。賢くなりたい。
 サラが賢い子じゃなくても、大切にする……。て、言ったけれど、サラがもっと普通の子だったら、僕はきっと、サラに興味を持たなかった。礼儀を欠かない程度の好意しか持たないに違いなかった。せいぜい、たまにお人形遊びに付き合ってやるぐらいだ。
 あの日、僕の全く手が出せなかった問題を、サラがひと目で解いたから、僕はサラに興味を持った。もし、何もなかったら、きっと、サラのインドの親族のように、サラを無視して、一緒に食事することもなかったに違いない。『同じ』だ。因習的な理由で無視することと、無関心から無視することに違いはあるのだろうか?

 サラは、正しい。武器がなければ、自分を守ることすらできない。
 ヘンリーは、サラの置かれてきた境遇を想い、初めて、父を恨んだ。
 父さんは、知っていたのだろうか?どうして今まで、サラを放っておいたんだろう?
 だいたい何だって、さっさと離婚して、サラのお母さんと結婚しなかったんだ?
 母さんなんて、年に何回か会うだけなのに……。
 ヘンリーは、両親の結婚は、相続税を払う為の、爵位と金の便宜的な結婚だと知っていた。
 珍しい話じゃない。ヘンリーの友達にだって、似たような家がある。
 父さんも、僕みたいに、何も考えずに生きていたのだろうか?そんな結婚に頼らなければいけないような?

 今まで、何の抵抗もなく受け入れてきた世界が、急激に景色を変えた。
 僕は、そんなふうにならない!
 僕がこれから受け継ぐものは、天からの贈り物なんかじゃない。
 ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)を全うする者だけが、引き継ぐことができるんだ。
 父の財産を引き継ぐように、父の犯した罪も、僕が引き継ぐ。
 サラに、一生かけて償いたい。父の替わりに……
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