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胡桃の中の蜃気楼 作者:萩尾滋

第二章

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ガイ・フォークス・ナイト 

 「英国のお祭って、怖ろしいね」
二週間後に迫ったガイ・フォークス・ナイトについてパソコンで調べていた杜月飛鳥は、会合から戻ってきたばかりのヘンリー・ソールスベリーに不満顔で話かけた。
「日本の祭とは大分違うよ」

『ガイ・フォークス・ナイト』
 ガイ・フォークスとその一味が、1605年にカトリックの反乱者を率いて時の国王と議員の殺害を謀り、直前で失敗に終わった。その計画の失敗を祝って催される祭り。かがり火をたき、花火を打ち上げる。

「絞首刑にされた人を何百年にも渡ってさらし者にし続けるなんて」
「ガイ・フォークスはテロリストだ」
「だから、世界中からテロがなくならないんだ。日本の歴史でも、反乱、謀反は幾らでもあったけれど、無念の死を遂げた人は、その魂が鎮まるように御霊として祀られる。無念な想いを汲んで、鎮めることで、同じ悲劇が繰り返されることを防ぐんだよ」
「反乱者を弔うのか? 英国じゃ考えられないな。それだから、日本は舐められるんじゃないのか?」
ヘンリーは、たかが祭りの由来に憤慨する飛鳥を、面白そうに眺めながら反論する。
「舐められたっていいんだ。少数派マイノリティが武力に訴え、暴力で主張することを止めることができるのなら」
「随分と、テロリストに同情的なんだな、きみは」
「僕は、きみみたいな支配階級じゃないからね。いつだって、爆弾を仕掛ける側の少数派だよ。それをしないのは、単に、自分がガイ・フォークスの二の舞になりたくないからだもの」
 いつになく辛辣な飛鳥の物言いに、ヘンリーは意外に思う。こんな飛鳥は知らない。いつも穏やかで、率直に意見するところすら、余り見たことがなかった。
「闘いたいのなら、知恵と知識で武装することだ。『知恵ある者の前に、愚者は怖れひれ伏す』。テロは、愚か者のすることだ」
 飛鳥はもう何も言い返さずに、押し黙った。

 暫くして、飛鳥は、ハッとしたように、ヘンリーに声を掛けた。
ヘンリーが、ガイ・フォークス・ナイトの催しものを決めるための、監督生セレクトと生徒会の会合に出ていたのを思い出したからだ。
「そういえば、学寮うちの出し物は、何に決まったの?」
「仮装行列は、アーサー王と円卓の騎士。それに、プロジェクション・マッピングでガイ・フォークスの3D映画を流す」
「たったの2週間で、映画製作するの?」
「まさか。映画は以前に作ったものがあるんだ。2Dを3Dに加工し直すだけらしい」
「ふーん。プロジェクション・マッピングって、場所は野外だよね。スクリーンはどうするの?石塀に映すのは無理があるんじゃないの?」
「それを技術クラスのきみに訊ねてこいって、言われている」
 監督生達の飛鳥への嫌がらせだ。判ってはいるが、飛鳥ならどうするのか知りたくて、ヘンリーは黙って引き受けてきた。
「大きさは?」
「80~120インチは欲しいんじゃないか」
 2~3メートルって、ところか……。ぎりぎりかなあ。
飛鳥は、頭の中で計算する。
「80インチなら、フォグ・スクリーンを作れるよ。それ以上だと難しくなるけれど」
「フォグ・スクリーン?」
 フォグ・スクリーンは、人工的に薄く、均一な霧を発生させ、そこにプロジェクターで鮮明な映像を映し出すことのできる技術だと、説明した。
「でも、先にその映画をみたいな。それに合わせて、考えるよ」
「2Dでいいのなら、動画サイトで見られるよ」

 期待通りの飛鳥の反応に、ヘンリーは内心ほくそ笑んだ。







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