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胡桃の中の蜃気楼 作者:萩尾滋

第二章

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廃墟の城跡

 どうして自分はこんなところにいるのか、さっぱりわからなかった。
 杜月飛鳥は、崩れた石塀に腰かけ、深くため息を付いていた。大聖堂まではちゃんとたどり着けた。学寮は、その裏にあるはずだ。それなのに、自分はわけのわからない遺跡らしき廃墟で途方にくれている。
 あちらこちらに、出入り口だけがぽっかりと空いた石造りの塀が並んでいる。緑の芝生のこの場所は、中庭か何かだろうか。人ひとりいない荒涼とした景色は、今の飛鳥の心そのものだ。
 ヒースロー空港から長距離バスコーチで1時間半。12時間以上のフライトを経て昼過ぎに英国に到着してから休む間もなくここまで来て、迷ってしまったなんて!

 入寮案内で指定された時間はもうとっくに過ぎている。早く行かなければ……。

 気持ちばかり焦っても、身体に力が入らない。

 さすがに、疲れた……。

 情けなさで落ち込みながら、自分と同じようにどんよりと曇った空を眺める。

 雨、降りだしそうだな……。

 ますます気持ちが塞いできた時、静まり返った廃墟に、微かに砂利を踏む音が聴こえた。飛鳥は勢いよく立ち上がった。

 やった! 道を訊ける!

 崩れかかった高い石壁のゲートの向こうから、ゆっくりと歩いて来る長身の人に、思わず見とれて声をかけることを忘れてしまった。

 絵になる人だなぁ。

 濃紺のブレザーに灰色のスラックスの、どこにでもいそうな服装をしているのに、着こなしがその辺の人とはまるで違う。

 ベストドレッサーっていうの? さすが英国人!

 その人は、飛鳥を見つけると微笑んで真っすぐに向かってきた。
「やぁ、やっぱり迷っていたんだね」
「は?」
「探しに来たんだ。そうじゃないかと思ってね」
 飛鳥は恥ずかしさの余り真っ赤になった。
「すみません。ごめんなさい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「気にするほどのことじゃない。それより、元気そうでなによりだ。アスカ・トヅキ」
 飛鳥は、伏せていた顔を上げまじまじと相手の顔を見た。
「ミスター・ソールスベリー?」
「ヘンリーでいいよ。久しぶりだね」
 と、ヘンリーは右手を差し出した。飛鳥は、おずおずと握手を返したがあっけに取られすぎて、言葉が続かなかった。
「こっちだ」
 ヘンリーは、飛鳥が傍に放り出してあったスポーツバッグを持ち上げると歩き出した。
「どうしてここに?」
 飛鳥は急いで後を追いかける。
「転校してきたんだ。きみと同じカレッジ・スカラーだよ」

 一年前、偶然出会った時よりも一段と大人っぽくなっている。本当に誰だか判らなかった。六月にもエリオット校の新しい動画がアップされていたけれど、画像が悪かったし……。
 でも、一瞬で目を奪われる存在感と華やかさ、上品な身のこなしは間違いなくあの人だ。

 飛鳥はヘンリーと肩を並べて歩きながら、初めて会った時に想いを馳せる。

「さぁ、着いたよ」

 ウイスタン校は、廃墟の目の前の建物だった。ただし、入り口まで延々と石壁が続く。

 どうやら、僕は入り口を見逃していたらしかった……。


挿絵(By みてみん)
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