挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
胡桃の中の蜃気楼 作者:萩尾滋

序章

23/377

  冬の応接間7

 夜中に、夢うつつで、とんでもない事を口走った気がする。
ヘンリーは、遅い朝食を食べながら、思い返して、顔から火が出そうに恥ずかしかった。
目の前に座るサラは、いつもと何も変わらない様子でスコーンにジャムを塗っている。
サラが夕べのことに触れないでくれているのが、せめてもの救いだ。
すべてが夢だったような、平穏な朝だった。

「坊ちゃん、スミスさんがみえられました。」
ヘンリーは軽く頷いて承諾する。
スミスさんに、もっとちゃんとサラのことを聞かなくては。
今までは、サラのプライバシーを暴くようなマネをするのが嫌で、触れずにいた。
だが、インドでの過去が今でもサラを苦しめているのなら、話は別だ。
逃げる訳にはいかない。
「サラ、スミスさんと話があるんだ。しばらくかかるだろうから、その間……。」
「平気よ、ヘンリー。わたしもすることがあるの。」
「部屋にいる?」
サラが頷くと、
「じゃ、用事が終わったら、一緒に雪だるまを作ろう。呼びに行くから。」
ヘンリーは立ち上がり、サラの頭をさらりと撫でて席を後にした。

サラは自室に戻ると、自分のパソコンを立ち上げた。
今のままでは駄目だ。
いずれ、約束を守れなくなる……。
わたしに、必要なものは何?
サラは開発中のソフトを開く。
“サラスバッティ”
「ハロー、サラスバッティ。
これから、あなたの名前は、サラスバッティよ。
私は、サラ。あなたは、わたし。わたしは、あなたよ。」
サラは、キーボード―を叩きながら呟いた。
自らプログラムするプログラム、自ら考えるプログラムに、私自身の思考を、感情を、思い出を踏襲させる。そうすれば、わたしだけでは見つけ出せない答えを、サラスバッティは、世界中を駆け巡って見つけてきてくれるはずだ。
一般論ではない、わたしが選ぶであろう、答えを見つけて欲しいの。わたしよりも速く。
難しいことじゃない。優先順位は決まっている。
わたしの一番は、ヘンリー。
ヘンリーを守ること。ヘンリーの願いを叶えること。
その為には、どうしたらいい?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ