挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
胡桃の中の蜃気楼 作者:萩尾滋

序章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

18/539

  冬の応接間2

「わからないわ。ヘンリーには、お母さんも、弟や妹もいるのに」
 サラは、いつも率直に思ったことを口にする。
「生物学的に、血が繋がっているだけでは、家族とは、言わないんだよ」
 ヘンリーは、ソファーには戻らず、暖炉の横に佇んで言った。
「家族として生まれてくるんじゃない。愛されて、育まれて家族の一員になるんだ。 親鳥がひなを羽で包んで大切に育てるようにね、餌といっしょに愛情をあげないと、ひなは死んでしまうよ」
 ヘンリーは、サラの背後に回り、ソファー越しに、サラをぎゅっと抱きしめた。
「こんなふうにね」
 腕を緩めると、いきなりその手で、サラの頬っぺたをぐいっと引っ張る。
「ちゃんと食べなさい!って、言わなきゃサラはすぐに食事を忘れるしね。親鳥は大変だ!」
 ぱっと、両手を上げると、声をたてて笑った。
「ヘンリー!」
 思いっきりつねられた頬をさすりながら、サラは顔をしかめた。
「ちゃんと食べているわ! たぶん……」
「休暇で帰ってくる度に、サラが小さくなっている。親鳥の愛情が足りないのかな?」
「ヘンリーが大きくなりすぎなの!」
 また背が伸びたみたいだ。声も、ぐっと低くなっている。ヘンリーは、どんどん大人に近づいて、サラは自分だけが取り残されたような気になった。
 ヘンリーは、ソファーに座り直して、自分のカップにお茶を注いだ。
「ひなが立派に育つように、親鳥は特別なクリスマスディナーを用意したんだよ」
 そして、時計に目をやると慌ててお茶を飲み下した。

「もう、こんな時間か! 着替えてくる」
 初めてのパブリックスクールの制服を着たままの帰宅だった。
 黒の燕尾服にガウンを翻してタクシーから降りて来たヘンリーに、サラは驚いて言葉を失ってしまった。
「特別なディナーなら、そのままでいいんじゃない?」
「そう? じゃ、サラが正装してくれなきゃ」
「…………。着替えてきて」
「お願いしますは?」
「お願いします」
 サラは、渋々呟いた。
「すぐもどるよ」
 ヘンリーは、クスクス笑いながら部屋を後にした。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ