7 過去の善行
「楓!!」
怒りを含んだ叫びが教室に響いた。
「・・・・ぇ・・・・?」
楓は怯えたように、長い前髪の向こうから、チラリと声の主を見た。
「ぇ? じゃねぇよ!! あたしのカバンに触んないでよ!!」
「・・・え・・・ぁ、・・・ゴメン・・・・」
楓は自分の側にあったカバンから一歩遠のいた。
「ゴメンじゃねぇよ!!!」
沙絵はものすごい剣幕で駆け寄ってきて、自分のカバンを掴み、また戻っていった。
「あぁ〜あ、やだやだ! カバンが穢れる!!」
ため息と共に愚痴を吐き出しながら、沙絵はパンパンとワザとらしくカバンを叩いた。
「きゃはははは、あんなに言ったらかぁいそうじゃん!!」
沙絵の友達、魅華はそう言いながらも、本当にそう思っているわけではなかった。
「はぁ?! だってムカつくじゃん!!」
「まぁ、分かるケド」
「なんかねぇ〜、あいつの態度見てるとイライラしてくるんだよねぇ〜」
「うんうん」
魅華は、同感! とうなずいた。
「でもね? あいつにもひとつだけいいトコあるんだよ?」
「うっそだぁ!」
「ホントだってばぁ!」
「じゃあ、言ってみ?」
楓は遠くで、聞き耳を立てていた。
いつも自分をいじめている沙絵が、今日は自分をほめている?
あたしのいい所ってどこだろう??
静かに、期待していた。
「うちの、ストレス解消になってるってことぉ〜!」
体が凍った。あたしが?
あたしが、沙絵ちゃんの、ストレス解消になっている?
たった一つのいい所が・・・ストレスがなくなる事・・・・。
「うっわぁ〜! いっじわるぅ〜!」
おおげさな笑い声を立てて、二人は教室から出て行った。
ポロッ・・・
楓の目から涙がこぼれた。
教室内は、しぃ〜んと静まり返っている。
みんな、見てみぬふりだ。自分が次の標的になるのが怖いから。
「グスッ・・・・ゥ・・・・ヒック・・・」
ポタポタポタと、涙は頬をつたう。
「・・・・だい・・じょぶ・・・?」
一人で楓に声をかけてきた少女がいた。
(・・・た・・・しか・・・みくるちゃ・・・ん・・・だっけ・・・)
「グスッ・・・うん。大丈夫・・・だよっ・・・」
無理矢理に涙を止め、笑顔を作った。
「あ・・・のね・・・? うちに出来る事あったら、何でも言って?」
「え・・・・う・・ん。ありがとう・・・」
今まで誰も自分に声をかけてきてくれる人はいなかった。
沙絵の、あの暴言をのぞいては。
それなのに、いきなり声をかけてきてくれる人がいた。
さらに、協力したいと言い出した。
楓は・・・幸せだ。
キーンコーンカーンコーン・・・・
「あ・・・じゃあね?」
「うん。ばいばい・・・ありがとぉ」
涙は止まっていた。
目ははれぼったいし、鼻もつまっているけれど。
味方が、出来た。
楓は・・・・幸せなんだ。
-------------翌日------------------
ガラララ・・・
教室のドアを開けて、楓が中に入ると・・・。
「あ、楓ぇ〜、おはよぉ〜」
甘ったるい声を出して、わざとらしく沙絵が近寄ってきた。
「ぇ? お・・・おは・・よう・・・」
「今日も、学校頑張ろうねぇ?」
「え・・・? う・・ん」
「じゃねっ」
「・・・・ばいばい・・・???」
何がなんだか分からなかったが、自分の机に近寄った。
あぁ。分かった。ナルホドね。
落書きだった。マジックかなぁ?
『キモイ』
『ガッコ来んな!』
『クライんだよ! お前が来ると!』
『穢れる。マジ消えて?』
『クサイ』
『帰れ!』
こう言った言葉の羅列だった。
筆跡をごまかす為か、ワザと汚く書いてある。
あるいは、書き殴ってあるといったほうが正しい。
どうしよっか・・・。
涙は、出なかった。
持ち前のマイペースで考えて、とりあえず、荷物を降ろすことにした。
カバンの中の教科書類を出して、机の中に入れる。
ガサッ・・・バサッ!
「ん〜・・・?」
机の中に入っていたのは、大量のごみだった。
というか、紙くずだった。
くしゃくしゃにされたそれを開いてみると、学校に置いてあったノートが、破られたものだった。
楓の、スケッチノート。
楓が描いた絵の上に、『へたくそなんだよ、このブス!』
書き殴ってあった。
いくつかを開いていくと、今まで自分が描いてきた絵がくしゃくしゃに丸められていた。
白紙だったページも破られて、メッセージが書いてあった。
『ブス』
『絵ばっか描いてんじゃねぇよ!』
『この下手くそ』
『顔だけじゃなくて絵もキモイ!』
『消えろ!』
『冗談は顔だけにして』
『なにこの絵』
というような、暴言。
すべてを机から出して、ゴミ箱にガサッと捨てた。
開いたスペースに教科書を入れて、戻ってくる。
カバンをロッカーに入れ、さてどうしようか?
マジックを消すのは一苦労だろう。
いっそ、職員室に行って、落書き消しを借りてこようか・・・?
職員室に行って、薬品を借りて戻ってくると、教室内から怒鳴り声が聞こえた。
なんだろうと思って扉を開けた。
ガラッ・・・
「あんた、卑怯なんだよ!! 言いたい事あったら、はっきり言えば?!」
「はぁ?! だからうちらじゃないって何度言えばわかるんだよ、バカ!!」
「あんたたちしかいないでしょ?! 他に誰がいるって言うの!!」
「うちらばっか、疑うんじゃねぇよ!! 他にも誰かいんだろ!!」
開けた瞬間に、耳が痛くなるような、金切り声。
言い争っているのは、みくると沙絵達だった。
しばらく聞いていると・・・
(楓の事かなぁ・・・)
みくるが楓をかばっているらしかった。
「・・・みくるちゃ・・ん?」
「・・・楓・・・・・」
「もういいよ? だって、沙絵ちゃんもやってないって言ってるし・・・」
「だって! どう考えたっておかしいでしょ?!」
「・・・もういいって・・・・いってるんだ・・・よ??」
「っ!?」
今まで、この子と一緒のクラスにいて、感じた事のなかった威圧感。
あどけない、やさしい口調の下に、ものすごい哀しみを持っている。
「ぅ・・・わかった・・・・」
そう言うしかなかった。どれだけ、独りで耐えてきたか、今、分かった気がする。
「うん! じゃぁ、ほら! 先生にコレ借りてきたから、一緒に消すの手伝ってくれないかなぁ??」
「・・・わかった。・・・いぃよ?」
「ありがと!」
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「ふぅ。・・・おわったぁ・・・」
「うん。きれいになってよかったぁ」
「手伝ってくれて、ありがとね?」
「お礼なんていらないってば! 友達だったら当然でしょ?」
「楓と・・・・・友達になってくれるの・・・?」
「え? もう友達だよ? イヤ?」
「ぇ? 全然! ありがとう! あたしたち友達だよね!」
「そう。親友だよぉ?」
「・・・・うん。ありがとぉ」
「じゃ、ほら? もう授業始まるよ??」
「そうだね。ありがと」
その日は、それ以上のいじめはなかった。
・・・・・・・『楓』に対しては・・・・・・・
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