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足音がひとつ
作:睦月☆



5 『朱色』と『赤』


ふたりで美術室にこもってもう三十分。
今の所、何の変哲もなかった。
(やっぱり、大丈夫だったんだ)
みくるは安心しきっていた。
最初の十分で、みくるは絵を書く事に集中し始めた。
(なんてったって、後三日だしね・・・急がなきゃ間に合わないし)
さっきから鼻歌を歌っている流歌を見ると、
なんだか適当にシャーペンで絵を描いているようだ。
みくるはまた、絵に視線を戻すと、色を塗っていった。
しばらくすると、
(・・・あ・・・。この色って・・・こっちの方がいいかなぁ・・・?)
「・・・・ねぇ、流歌」
「・・・ん〜? ・・・」
なんとも気のない返事だ。
さっきからずっとこんな様子で、いい加減みくるも飽きてきた。
「ここは・・・・どうしよぅ・・・・」
流歌はみくるの絵をチラッと流し見て、
「どぉ〜にでも。お好きなよぉ〜に」
ニヤニヤと笑いながら呟く。
「・・・もぉ〜! そんなんじゃアドバイスにならないじゃん!」
不満そうに顔をしかめてみくるが言うと、
「何カン違いしてんの? その絵を描くのはあんたであって、あたしではないの」
まるで小さい子に言うように、意地悪く笑いながら、流歌が言い聞かせた。
「そぉだけどぉ〜・・・」
「はい! 描く描く!」
「もぉ・・・」
みくるは不満そうに筆を取った。
やっぱりこの色でいいや。
ペタ・・・
キャンパスに筆を置いたとたん、
「え・・・?! その色って変じゃない!?」
「ぅえ・・・?」
「こっちの色の方がいいよ。このキレイな朱色・・・」
(なんなの? まったく・・・。さっきは自分で描けとか言ってたくせにぃ〜・・・)
少々不満だったが、やっぱり流歌が選んだ色の方が綺麗だと思った。
(うぅ〜ん・・・。口出しできない・・・)
「そうだよね、やっぱり流歌のほうがセンスあるじゃん!」
「そんな、まさかぁ〜! アタシより上手い人なんていっぱい居るしぃ〜」
とは言いながらも、流歌も嬉しそうな表情だった。
「あ、あと、この朱色も綺麗だけど・・・。 もうちょっと赤を足した方がいいかも・・・」
と言いつつ、みくるの絵の具入れから赤い絵の具と筆を取り出した。
筆に絵の具を少し出し、それをパレットの上でキレイに広げていく。
「ほら。さっきの朱色と混ぜてみれば〜・・・」
と、微妙な色合いで朱色と混ぜていく。
筆を細かく動かし、マーブル模様みたくして・・・。
「はい。このまま塗ってみて?」
「・・・う、うん・・・」
流歌の言う通り、紅葉に朱色と赤のマーブルを塗ると・・・
「・・・ぅわぁ〜・・・」
「ね? こうした方が、葉に動きが出るし、紅葉の微妙な色も表現できるでしょ??」
「うん、うん! 流歌すごぉ〜い!」
「えへへへ・・・」
と照れくさそうにほっぺをかく姿も、なんだか憧れる。
「じゃ、続きは自分で描いてね??」
「わかってるって〜」
しばらくは黙って絵を描いていたが、
それの沈黙は『音』によって破られた。





・・・・ひた・・・・





昨日までのみくるなら、分かっただろう。
これが何なのか。
これは誰なのか。
だが、平和な時間を一時間過ごしてしまったみくるには・・・・
不思議なくらい。
分からなかったのだ。思い出せなかった。



「ん・・・・? 誰か来たのかな・・・?」
最初に気づいたのは、流歌だった。
「ん?・・・流歌、見て来てよ」
「ん〜・・・」
流歌は席を立って、扉に近づいた。
そして、頭を出して辺りを見わたした。
ひた・・・ひた・・・ひた・・・ひた・・・
サー、と流歌は自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「嘘!! 誰も居ないよ!?」
「え? 嘘!」
『嘘!』とは言いながらも、みくるは分かった。
言った瞬間に思い出した。
そして、大変な恐怖に駆られた。
気が遠くなりそうだった。
「やだ! 気持ち悪い!」
流歌のその声で現実に引き戻されたが、
代わりに、とてつもない恐怖が襲った。
「やだやだやだやだ!! 怖い、怖いよ!!」
「誰?! 誰か居るんでしょ?!」
と、流歌も半ばパニック状態で、必死に見えない人を探す。
「居るわけないじゃん! その足音は!! その足音は!」
「やだ! やだよ! 怖いよ! 誰?! どこに居るの!?」
「その足音は! それはぁ!!」
「何!? 何なのみくる?!」


「それは! 楓の足音だから!!!!!」


「・・・・・」
一瞬の、沈黙。
依然、足音はひたひたひたと近づいてくる。
「・・・・・え? ・・・」
先に口を開いたのは流歌だった。
「その足音は・・・楓のだって、言ってんの!」
「楓?! 何馬鹿言ってんの?!」
「ずっと! この二週間! ずっとあの子がついてきたの!!」
「そんなのって! ないよ!」
「あの子の足音! あの子の姿! ずっとずっとついて来たの!!」

「あの子は! もう死んでるの!!」

今度は、流歌が大声を出す番だった。

ひた・・・・っ!!

足音は、止まった。
確かにとまった。

流歌の目の前で。

「逃げて! 目の前に居る!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



流歌は後ろを向いて走り出した。

ガクンッ!!

3歩も走らないうちに、流歌の体に衝撃が走った。

ドサッ!

と音がして、流歌の体は床に沈んだ。













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