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足音がひとつ
作:睦月☆



2 流歌


翌日。
キーンコーンカーンコーン・・・。

「きりぃ〜つ、れぇ〜い!」
日直の気の抜けた号令がかかった。
『さようならぁ〜』
「ふぅ・・・」
みくるはため息をひとつついた。
(長かったな、今日一日。)

どんなに振り払おうとしても、絶対に耳にしがみついて放さない、あの声。
『・・・・み・・くる、ちゃ・・・・』
みくるは、ぷるぷると頭を振って、忘れようと頑張った。

と、そこに一人の少女が親しげに近寄ってきた。
「みくぅ〜♪」
なかなかかわいい少女である。
「いっしょかぁえろっ?」
歌うように尋ね、みくるの顔を覗き込む。

彼女の名前は、伊十院いじゅういん
伊十院いじゅういん 流歌るか
みくるの親友と呼べるの一人だ。

「あ、でもでも・・・」
体を起こしながら、心配そうな顔になる。
「昨日、絵ぇ描けたぁ?」
彼女も美術部の部員である。
もっとも、彼女の絵はもう既に、綺麗に色を塗られて美術室に展示してあるが。
「うぅ〜んと・・・。まだ、描き終わってない・・・」
「じゃあ、今日も残るんだ?」
「えぇ・・っと・・・今日は、帰る・・・かな・・・?」
「え? でもいいの? まだ仕上がってないんでしょ?」
「うん、大丈夫。あと、色塗っておしまいだし・・・」
みくるは嘘をついた。
流歌は、何にも出来なさそうな顔をしていて、男子にも人気だ。
が、実は真逆で、何でも出来る、優等生だ。
で、あるからして、提出期限等には、何気に厳しい。
早い話が、しっかりしているのだ。
「でも、早めに仕上げといた方が・・・」
と、心配するのも彼女ならうなずけると言う事だ。
「だ〜いじょぉぶだってば! ほら、帰ろ?」
「うん、わかった」


「でさ、その時の美奈の顔ったら・・・」
「きゃははは! あの冷静沈着な美奈がねぇ・・・」
下校中、他愛もない話で盛り上がる。
流歌と話をしている時は、あの事を忘れられる。
(このままずっと、こうやって話をしていられたらいいのになぁ・・・)
だが、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
十分程度で、流歌との分かれ道まで来た。
「じゃあ、また明日、学校でねぇ〜♪」
「うん、ばいばぁい」
別れた後すぐに、思った。
流歌は、いいなぁ。
(きっと、一人になっても、楓におびえる事なんかないんだろうな・・・)


(それにしても・・・・)
「・・・本当に、昨日のは、何だったんだろう?」
一人になると、孤独な時間が来ると、考えてしまう。
足音。声。姿。・・・楓だ。
まぎれもなく、あれは楓だった。
ひた・・・ひた・・・と、美術室に近づいてきた、あれは。
「・・・ふっ・・・」
ばかだな、うちは。
(楓のわけ、無いじゃん! 何考えてんだか)
きっと、昨日のは気のせいだったんだ。
そう、思い込もうとした。
(一人の学校って、怖かったから、カーテンかなんかが楓に見えたんだ)
そう思うと、なんだか足取りも軽くなった。
た た た・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひたっ・・・・・・・・・・・・・・・・





「え・・・・・・・?」

た・・・

ひた・・・

「ひっ・・・・・!」
みくるの顔はみるみると恐怖の表情に変わった。
今、確かに、聞こえた。
うちの足音の後に、もうひとつ足音が。
ウチが足を止めた後に。
もうひとつ。

こわい・・・こわいこわいこわい・・・。
振り向いちゃいけない
振り向きたくない
けど
振り向かなきゃいけない
事実を知らなくてはいけない。

一瞬の間をとって、みくるはゆっくりと振り向いた。
「・・・・・・誰も・・・いない・・・・?」


「きゃああああああああああああああああああ!!!!!!!」



だだだだだだだだだだだだだだっっっっ!!!!
みくるは、走った。
後ろに、何かいるから。
ひた・・・
ひたひたひたひたひたひたひたひた・・・・
そして、それはついてきているから。


「あ・・・足音なんか、聞こえない!! 聞こえない、聞こえない!!」
「聞こえない聞こえない聞こえない!! 聞こえてない!!」


全速力で家まで帰ると、ドアをバッと乱暴にあけ、
バタン! ガチャ、ガチャ! ガッ! 
鍵を二つ掛け、チェーンをした。

さすがに家の中までは追ってこない。
「は・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
みくるは息をととのえて。
ばくばくと鳴り響く鼓動を抑えて。
何事も無かったかのように、一言。

「ただいまぁ〜!」







みくるは、普通のただいまを言う事で

日常に戻ろうとしたのだろうか?

何事も無い、日常に。

それは、すでに

不可能に違いない。




















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