10 うちが・・・?
「っく・・・」
左腕にチクチクと痛みを感じ、
みくるは目をゆっくりと開けた。
心は落ち着いていた。
何が・・・・・・あったっけ・・・?
視線を腕に向け、深い切り傷を見た時、みくるは思い出した。
「楓・・・!」
そう。流歌が楓にのっとられて・・・
えっと・・・楓が襲ってきて・・・
どうしたっけ?
ふと顔を上げた。
目の前は、血で溢れていた。
血だまりの真ん中には、うつぶせに倒れた、流歌。
「流・・・歌・・・?! 何? 何!」
慌てて立ち上がろうとしたその時、腕に抵抗を感じた。
右腕を見ると・・・
1脚の、イス。
血だらけの・・・イス。
血だらけ?
どうして?
何で、血だらけ?
ああ。え?
「うちが・・・・・・流歌をっ・・・??」
顔が、さっ、と蒼くなった。
みくるが? 流歌を?
え? なんで?
何のために?
誰のために・・・?
楓、だ。
楓にのっとられた、流、歌を・・・。
自分が、
殺した。
考えがそこにたどり着くまで、しばらくかかった。
「い・・やぁぁぁぁぁ!!!」
まるで、汚いもののようにイスを突き放し、
みくるは美術室を飛び出し、学校を飛び出し、
校庭を突っ切って、どこまでも、走っていった。
逃げなきゃ。
どこへ? どこへでもいい。
逃げなきゃ。
なんで? 来るから。
来るから。
誰が? 誰って・・・
あれ? 誰が?
楓は、いない。
もういない。
ていうことは・・・
「これで・・・よかったのかも・・・」
ふと足を止め、息を整えた。
「うちが流歌を殺した? でも、流歌の中の楓も一緒に逝ったはず・・・」
「ごめんね、流歌・・・」
自首、しよう。
流歌を殺した、殺したんだから。
警察署に向かってゆっくりと歩いた。
が。
・・・ひたっ・・・
「・・・え・・・?」
ぴた、と足を止めると、
・・・ひたっ・・・
ずれる。足音が、うちのじゃない物が。
ひとつずれて、聞こえる・・・。
「足音が・・・ひとつ・・・余計に・・・?」
「きゃあぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
走りながら、考えた。
じゃあ、何のために?
何のために、流歌を殺したっていうの?
ずっと走った。
息が切れても走った。
止まったら、殺される。
だめだ。
止まったらダメ。
ずっと走った。
楓は、ずっとついてくる。
「ごほっ、ごほっ!」
もう何キロ走っただろうか?
ヒュー・・・ ヒュー・・・
喉がなっている。
「がっ・・・ごほっ! げほげほっ・・・!」
もう・・・。苦し・・・い・・・
「げほっ!」
せきをした瞬間に、血が喉から飛び出た。
え・・・っ?
反射的に口に手をやると、赤い液体がべっとりとついた。
でも、
止まれない。止まったら、今度こそ殺される。
「げほっ・・・がっ・・・げほげほっ・・・」
血の感覚が喉を伝う。
体が・・・限界だっ・・・!
「あっ・・・!」
足がもつれた。そして、転んだ。
「くぁっ・・・!」
殺される・・・。
けど・・・・・・
もう、いいか・・・。
頑張った。十分頑張ったから・・・。
もう、大丈夫。後悔はない。
このまま、眠ろう。
ぱたぱたぱた、と足音がした。
だが、かまうものか。
いいよ? もう、十分だよ。
好きにしてください。
うち・・・はっ・・・もう・・・眠る・・・からっ・・・
ゆっくりと、眼を閉じた。
ヒュー・・・ヒュー・・・
という、苦しそうな音を聞きながら、眠りに落ちた。
『おやすみ』
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