1 か・・えで?
放課後の、中学校。
もう夕方とはいいがたい時刻の、校舎の中で。
薄暗い電灯の、美術室で。
一人絵を描いている少女がいた。
綾瀬未来。 13歳。
ただでさえ気味悪い夜の校舎なのに、独りぼっちでいるとさらに心細い。
だが、彼女はこの絵を仕上げなければならない理由がある。
二週間後の美術館に出展する絵の、提出期限がもう迫っている。
真っ白なキャンパスに、せめて下書きだけでも仕上げなければならない。
(・・・それにしても・・・。)
絵を描きながら、みくるは思った。
(まじで、外暗すぎでしょ・・・。うち、どーやってかえんの??)
「・・・ま、帰れない暗さじゃないけどね・・・」
ボソッと呟いたつもりの一言だったが、誰もいない校舎に響くには十分だった。
自分の声にびっくりし、その余韻が消える頃。
・・・ひた・・・
「・・・!?」
ひた・・・ひた・・・ひた・・・。
(・・・当直の先生かな・・・?)
「・・・せっ・・・先生?」
ひた・・・ひた・・・ひた・・・。
「もう閉めるんですか?」
足音の持ち主は答えない。
「先生? 先生?」
ひた・・・ひた、ひた、ひた。
足音が教室に入ってきた。
足音だけが。
「え・・・」
思わず声が出た。次の瞬間。
「何? 何? な・・・何のいたずらなの?!」
みくるはほとんどパニック状態で叫んでいた。
ひた、ひた、ひた、ひた。
と、足音は依然答えず、みくるに迫ってくるばかりだ。
足がすくみ、腰が抜けて、イスから立ち上がることも出来ずに。
みくるはただ体をこわばらせ、恐怖に満ちた瞳で何かを見つめていた。
そこに在る、何かを。
ひた・・・・・!
足音は止まったが、何かの気配もみくるの目の前で止まった。
「・・・・な・・に・・・?」
口が乾き、のどが引きつり、やっと声になったのは、その一言だけだった。
何? あんたは、誰?
「・・・・み・・くる、ちゃ・・・・」
か細い声とともに、一瞬だけ、蒼白く、おびえた表情の少女が現れた。
透き通った身体は、それがもう生き物ではない事を証明していた。
その子を見ると、蒼白かったみくるの顔が、一段と蒼くなった。
白い、という表現を使いたくなるような色だった。
みくるはカチンと固まり、身体は石に棒が刺さっているかのごとく強張っていた。
「・・・・か・・かえ・・で・・??」
ワケがわからないという顔でそう呟いた、その直後。
(怖い!)
その感情が身体を支配し、一瞬にしてまた動けるようになった。
それと共に、何かの気配も消えた。
「帰らなきゃ・・・・また、楓が来る・・・!」
まだ蒼い顔で、目はどこか遠くを見ながらつぶやいた。
その一分の後には、みくるはもう、荷物を持って生徒玄関で靴を履いていた。
(今の事は、忘れたい。忘れなくちゃならない。)
思いながら、家路についた。
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