黒い匣縦書き表示RDF


黒い匣
作:火虎


 ここに一つのはこがある。黒い立方体の箱。ポツンと一つ。
 黒い匣はがっちりと閉められており、開く様子は全くない。
 一体、この匣は何なのだろうか。存在意義、材質、所有者、質量、大きさ。何もかもが分からなかった。とにかく、言えることは「ただの黒い箱」であることだけ。その存在は邪魔かもしれないし、とても有難いものかもしれない。材質は鉄かもしれないし、段ボールかもしれない。所有者は老若男女考えられる。質量は鉄であれば重いし、段ボールであれば軽いだろう。ただし、中に何も入っていなかった場合である。
 ただ、目に見える範囲で大きさというのはわかる。大きさは人が一人うずくまって入れるほど。結構な大きさがある。しかし、この匣、中に何かが入っている様子はない。黒い匣はがっちりと閉められている。開けるような場所はない。少々、光を反射する黒い匣。
 材質、質量は持てばわかること。匣を持とうとした。――びくともしない。押してみた。――若干動く。気のせいかもしれないが、カチッという音がした。あまり気に触れなかった。黒い匣のほうが気になってしまっていたから。触ってみた感じだと、これは金属である。若干動くのは軽い金属なのであろうが、持とうとすると持てない。中身の質量が重く、重力と摩擦の関係で押したときのほうが微動したのだろう。
 さて、いよいよわからなくなってきた。問題は、匣の中身の部分だ。外見よりも重い金属か、はたまた、軽い材質のものがたくさん入っているのか、最悪の場合は動物が入っているという可能性もある。人間も動物だから、人間である可能性も否定はできない。全く以て「奇妙な匣」である。
 黒い匣。材質は軽量金属、質量は重い。中身は正体不明の何かで、固く閉ざされている。もう、訳がわからなくなってきた。わだかまりも生まれてきた。苛立ちも生まれた。いちいち黒い匣というのもなんだか面白くなくなってきたので、「蟠りの匣」ということにする。
 問題提起。なぜ、「人が一人うずくまって入れる大きさなのか」。金属や軽量材質のものをたくさん入れるにしても、はたして「人が一人うずくまって入れる大きさ」の匣が必要なのか。商品にしても屑にしても、重さがありすぎると、動かすことができなくなってしまうため、少々小さめの箱に入れるのが常識であろう。ということは、この「蟠りの匣」は動かすことが必要でない物ということになる。
 問題提起。なぜ、「材質が軽量金属」なのか。先ほど、触るついでに手で殴ってみたのだが、なかなか硬い。少々、硬い金属の棒が落ちていたので、それで殴ってみたのだが、やはり硬い。凹みもしなければ歪みもしないし、衝撃で動くこともなかった。どれだけ硬い材質なのだろう。見られたくない何かが中に入っているとしか考えられなかった。
 「蟠りの匣」。本当に、ただ蟠りだけを生むだけのものだとしたら、納得が行くのだが、それだけではないような気がして仕方がない。いった…………。
……。
……。

 急に目の前が真っ暗になった。何が起こったのかさっぱり分からない。何だか、体が軽い。自分の体が冷えていくのがわかる。ひょっとして、死んだのか? 僕は死んだのか?すでに頭の中は混乱している状態だ。パニックというのだろうか。とにかく気が動転している。動転しているのだが、体は全く以て動かない。
 どうやら、本当に死んでしまったらしい……。
 ふと、一つ思い出したことがあった。問題提起を一つ見逃していたことがある。
 問題提起。なぜ「持とうとすると持てない」のか。押すと微動する。ただし、持ち上げようとすると微動にしない。さて、これは一体どういう意味なのだろうか。押すと微動すると言っても、先ほどの「カチッ」という音の後、押しても動かなくなった。つまり、「蟠りの匣」は全く動かない。押しても引いても、持ち上げても動かない。動かされては困るからではないのか。すると、下に何かあるのかもしれない。
 そうか、そうだったのか。
 僕の結論はこうだ。結局のところ、死んでしまったのでもうどうする事も出来ないのだが、あえて結論を出す。
 あの「蟠りの匣」の下には人がいる。一切動かすことのできない物によって、蓋をするというのだろうか。決して見られることのないような、つまり、結論を生きているうちに出されないようにするための蓋。おそらく、この空間には初め一人の人がいたのだろう。そして、何もない空間で突然つぶされた。そして、次に僕がこの空間に放り込まれたのだ。しかし、僕にはこの空間に放り込まれた記憶がない。ある日突然、この空間にいた。そのつぶされた人もこの空間に放り込まれた時のことは覚えていないだろう。そして、僕は目の前にある「黒い匣」の正体を突き止めようとしていた。
 残念なことに、犯人が分からない。犯人が分からないまま僕は死んだ。
 もしかして、僕を殺した犯人は僕なのかもしれない。「蟠りの匣」は本当に蟠りによって生まれる匣なのだとしたら、蟠りが生まれることによって、その匣も生まれ、突如として降ってくる。もし、仮にそうだとしたら非現実的ではあるが、道理は通る。だが、僕には匣の下が見られても困るようなことはしていない。犯人は結局のところ分らなかった。
 先ほど、問題提起した「人が一人うずくまって入れる大きさ」と「材質が軽量金属」について、別に人がどんな事をしても動かせない状態になればいい。犯人の目的は匣の下を見られないようにすることだ。ただ単に、軽量金属の大きな匣しか手に入らなかったとすると、中身は同じ重さの金属で満たされているか、金属以外の重いものがぎっしりと詰まっているのであろう。軽量でも、たくさんあれば重く感じる。アルミニウムにしてもステンレスにしても、重く感じる。
 もう僕にはどうする事も出来ない。何も考えることができなくなってきた。悔しいが、ここで終わりだ……。




 ここに一つの匣がある。黒い立方体の箱。ポツンと一つ……。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう