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木枯らしに抱かれて…
作:Kacco



第11話 先輩


―すっかり遅くなっちゃった―


今週、私は部活の後片付け当番だった。

校舎から少し離れた部室から、体育館へと戻って来た。

薄暗い空も、体育館の床を滑る肌寒い空気も、淋しさを増してくる季節になった。

ガランとした体育館。

ただ、バスケットボールのドリブル音が、床に響いているだけだった。

部活後のコートに残って、バスケ部の一年生が個々で練習をしている。

その中には、長谷川クンもいた。

伸びやかにジャンプをした長谷川クンは、軽々とシュートを決めていた。



「亜澄ちゃん。今帰り?」

肩をポンッと叩かれた。

振り返ると、そこには帰り支度を終え、スポーツバッグを肩に掛けた塚本先輩が立っていた。

「あ、はい。今帰りです」

「最近、ダンス部も遅くまでやってるよね」

「発表会前の追い込みなので…」

「そうなんだ。大変だね」

ニコッと笑った塚本先輩は、私と一緒に体育館出口へと歩き出した。

何だか気恥ずかしくて、うつむいたまま歩いた。



お昼休みに、真由美から聞いた塚本先輩の話。

それ以来、必要以上に意識してしまって、塚本先輩の顔を見る事が出来なくなっていた。


静かな渡り廊下を歩く足音だけが響いて、この無言の時間が堪らなく落ち着かなかった。


「ところで、真由美ちゃんから話聞いた?」

「え?」

「亜澄ちゃん、好きな人いないんでしょ?」

「でも…」

―どうしよう―


早鐘が鳴る様に、鼓動が激しくなった。



―ガラリ―

遠く前方から、戸の開く音がした。

ハッと、うつむいた顔を上げると、国数準備室から野崎先生が出て来るのが見えた。

野崎先生は、こちらに向かって歩いて来た。

全く興味無さそうに、チラリともこちらを見ない。



「付き合っている人、いないんでしょ?」

―そんな話しないで!野崎先生に聞かれちゃう―

馬鹿みたいに焦っているのは、私だけかもしれない。


「オレと付き合わない?」


野崎先生のスーツと、私の髪が触れた気がした。

先生が通り過ぎた後の煙草の残り香に、髪が揺らいだ。



―お願い!先生!!―


私に気付いて…


私に振り向いて…


私を助けて…



私は、肩越しに先生を見送った。

距離が離れていく。

もちろん、こちらを振り返る事もない。


先生は私のナイトではない。

気持ちは言葉にしなければ、伝わる術もない。

分かっている。

先生は、私の気持ちを知るはずがない。



なんだか、心が泣けてきた。



「亜澄ちゃん、どうかした?」

フッと、気持ちが戻された。

塚本先輩が、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「いえ、大丈夫…です」


想いを寄せる人には振り向かれず、別の人に見つめられる。


切ないよ…


苦しいよ…


先生…



顔を上げると、視線の先にある生徒玄関に、真由美の姿が見えた。

そして、並んだ下駄箱の合間の陰に、その姿が消えた。


「私、真由美と帰ります!」

ペコッと会釈をして、身をひるがえした。

「あ…ちょっと待って」

塚本先輩の引き止める言葉から、私は逃げ出した。

足元がもつれそうになりながら、下駄箱へと駆け出した。

「真由美っ!一緒に帰ろっ!」

真由美の姿が消えた方向へと、足を急がせた。


「亜澄…」

薄闇に浮かぶ、二つのシルエット。

真由美は、照れ臭そうに微笑んでいた。


―どうして?―


そこには、バスケ部の先輩と手を繋いだ真由美がいた。

「内緒にしててごめんね」

真由美と一緒にいるのは、以前、塚本先輩と一緒に生徒玄関にいた先輩だった。

「じゃあね、バイバイ」

振り返り際に、真由美は私にウインクした。

そして、二つの陰が薄闇に消えて行った。


―長谷川クンを好きだって言ってたのに…どうして?―

全然気付かなかった。

真由美に彼氏が出来ていたなんて…

「あいつら、付き合ってたの知らなかった?」

呆然と立ち尽くした私は、塚本先輩の言葉にうなずくしかなかった。

「オレらも付き合えばさ、Wデート出来るじゃん。四人で遊びに行こうよ」


―それ、どういう意味?―


「私、真由美のおまけじゃありません!さよなら」

「え?あ、ちょっと…」


バタバタと靴を履き変えて、わざとらしく大きな足音をたてて生徒玄関を飛び出した。


―私、馬鹿みたい―


結局、塚本先輩は『友人の彼女の友達』だったら、誰でも良かったんじゃない?

楽しくWデートがしたかっただけ?


少しでも心が揺らいだ私、馬鹿みたい…












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