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1・love《ワンラブ》
作:桜井 広海



 俺は…奈々子を愛している。奈々子と出会って、もう5年になる。お互い運命に導かれた様に俺達は一目惚れだった。
そんな俺達は、出会ってすぐに同棲を始めた。
奈々子の全てを知りたいと思っていたし実際、知っているつもりだった。
 他の奴なんかに負ける気がしないし俺からの愛は揺ぎ無いものとして奈々子に注ぎ続けた。奈々子も俺だけを見てくれていた。俺だけを愛してくれていた。
はずだった。
 奈々子は出会ってすぐに俺を両親や友達に紹介した。「奈々子の一目惚れだったの。かけるとこれから一緒に暮らせるなんて夢みたい!!」 
そう言って笑顔で微笑んだ。俺も言葉には出さないが、幸せだった。あの時の笑顔は俺だけのものだったろ?少なくともあの時は…
奈々子の異変に気がついたのは、ごく最近の事だ。
頻繁に電話が鳴るようになった。長電話もメールも毎日で、しかも決まって着信音はmr.childrenのloveだ。
「この曲、一番好きなの。」と言っていつも部屋で聞いている奈々子お気に入りの一曲なのだ。
家族は確かコブクロの絆。友達はゆずの友達の唄。会社は、着信音1だ。お店は着信音2。
 そんな中、何故ミスチルの「love」だけが特別だと気がついたのかと言うと単に奈々子の一番好きな曲だからではない。決定的に他とは違う。
明らかに特別だと判るのはミスチルの「love」だけ着うたなのだ。他は全て着メロ。
今まで聞き覚えがなかっただけに、ここ最近ダウンロードしたのだろう。
 ブーブーブー。ほら、今だって奈々子の携帯は体を震わせながら出てくれと訴えている。俺は携帯の画面を覗き込んだ。
頻繁に鳴り続ける携帯のディスプレーには”高梨雅寛”と記されている。最近よく見る名前だ。
この男と奈々子の関係は友達なのか、それ以上なのか、俺にはすぐに判った。
何故なら奈々子は俺とよく似ている。恋をした者の特有の行動なのだろうか?
好きな相手のメールや電話の着信音を携帯から離れて何かをしていたとしても、その音を聞き逃しまいとして常に耳をすまし着信音が鳴ると一も二もなく駆けて行く。そして笑顔で携帯を開いている。判りやすい行動だ。自分でも気が付かないうちに本能がそうさせる。
それは紛れもなく”高梨雅寛”と言う男を好きなのだと言う事だった。
 しかし何故急に…?俺への愛が冷めたからだろうか?単調な毎日に刺激を求めたあげく俺よりも”高梨雅寛”と言う男に嵌って《はま》しまったのだろうか?
いや、奈々子に限ってそんな女ではない。俺の愛した女は、可愛くて、優しくて、素直で…俺に愛情を注いでくれているのは、笑顔でわかる。「翔大好き!!」と言う言葉に嘘は見当たらない。(多分) 言い出したらきりがない程、そう奈々子はいい女なのだ。
 ん?待てよ?だとしたら俺が悪いのかもしれない。俺の方は相当たいした事ない男だ。考えて見れば今まで何もかも最後までやり遂げた事がない。面倒な事から逃げる事はしょっちゅうだし、考え方はセコイし…今だって、こうして奈々子の帰りを待ち続けている。
 今日は土曜日。今までならば休みの日には二人でドライブに出かけたり一緒にテレビを見ていたりしていた。
俺は見たくもない恋愛ドラマも奈々子が見たいならばといつも我慢してきた。それは奈々子が好きだからであって俺には努力しているつもりだった。最近は…滅多にない。ミスチルのloveが聞こえてくると嬉しそうに出かけて行く。そして嬉しそうに俺の元へ帰って来る。
「翔〜!!奈々子に会いたかった〜?翔といると癒されるよ」そう言って俺の頭をグシャグシャに撫でる。俺の事を子供扱いするが実際俺の方が年上だ。ご機嫌で帰って来る奈々子に頭の中では少し冷めた自分がつぶやく。”どうせ高梨 雅寛と会ってきたんだろ?”
俺には奈々子の気持ちが判らない。俺と一緒に暮らしておきながら他の男と会っている。
 けれど俺は何も言えない。女々しい男だと思うかもしれないが言い出せないのだ。
それは俺自身、確定的な言葉を向い合って聞くのが怖いからだ。奈々子の口から男の名前など、聞きたくないからだ。
 日曜日、一緒に公園へ行った。カフェでお茶をしたり、海まで行って砂浜を走ってはしゃいだり、子供みたいに笑う奈々子が大好きなのだ。奈々子の笑顔をこれからもずっと見ていられたら…。浜辺で楽しそうに笑う奈々子を見てそんな風に思っていた。 
 しかし、そんな奈々子には俺以外の男がいる…俺は会った事のない携帯のデスプレイに現れる高梨雅寛…。
どんな男かは全く解らない。だが、一つ言える事は、俺の方が勝っている。と言う事だ。
一緒に住んでいるわけで、毎日一緒に寝ている。俺が一番で奴が二番目だ。
 自分に言い聞かせる様にして心の中で何度か繰り返した。俺が一番。奴が二番…。
好きだと言う言葉を笑顔で言ってくれる以上、本心はともかく俺は無償に嬉しいのだ。同じ時間を奈々子と笑って過ごしていれたなら…俺は何も知らない振りで目を瞑っていようと思った。
 だが、そんな決心もミスチルのloveが鳴り出すたびに、迷いと不安に駆られる。
「俺に向けるその笑顔を高梨雅寛とやらにもむけているのか?いったいどういうつもりで俺と暮らしているんだ!!」
心の中の声が口からでそうになる。
けれど俺は絶対言わない。 言ってしまえば簡単に二人の関係が崩れてしまいそうで言えないのだ。
終わらせるのは簡単なのだ。だからこそ俺は続ける努力をする。
奈々子が作る食事には文句も言わず美味しそうに食べる。特売品だろうが皿に移し変えただけだろうが構わない。スポーツ番組やアクション映画が見たくても奈々子の好きな番組で我慢する。好きだと言う事を体いっぱい表現する。俺に出来る最大限の努力だ。
 しかし、その努力は報われる事なく奈々子は今も高梨雅寛にっまっしぐらだ。
もう諦めるか…少し冷めて来た。どんなに努力をしても叶わない事は確かにある。
頑張れば頑張る程、惨めで切なくなるのはきっと奈々子にとって高梨雅寛の存在の方が大きくなっていると、俺は気がついているからだ。
このままで、いいわけがない。顔には出さない様に努めているが、もう冷静でいるれる自信はなかった。
 他に男がいると判っていても、寂しい時だけ甘えて来ると判っていても何も言えないでいるのは奈々子を失いたくないという切ない気持ちがあるからだ。
「24日?大丈夫だよ!何処行く?」
 俺が寝ていると思って奈々子は堂々と電話をしている。俺は寝た振りをしながら聞き耳を立てていた。
「うん。今度、うちおいでよ!紹介するから」
 !?奈々子の言葉な驚きをかくしきれなかった。俺は体を震わせていたが欠伸あくびでごまかし寝返りを打った。
高梨雅寛を俺達の愛の巣へ招くというのか?何を考えているのだ?
俺の心臓の音を奈々子に聞かれているんじゃないかと思うくらいバクバクと鳴り響いている様に感じた。
きっと奈々子も耐えられなくなったのだろう。俺と住むこの部屋へ呼ぶという事は高梨雅寛に俺との生活を見せつけるのだ。よし!やってやる!!高梨雅寛に俺と奈々子の生活にお前の入る隙間などないと見せ付けてやる。
 24日、とうとう決戦の日がやって来た! 
修羅場となりかねない今日この日を俺は待ちわびていた。さあ、闘いの始まりだぜ!
 奈々子は部屋にいるのに念入りに化粧をしている。奴が来るからだ。
俺はまだ見ぬ高梨雅寛に闘志を燃やしてリビングを行ったり来たりした。俺の高梨雅寛の想像はヒョロヒョロの冴えない男で、目も合わせる事も出来ない内気な小僧。奈々子の後ろに隠れて俺達のラブラブ振りにしっぽを巻いて逃げ出す様な弱い奴。そんなイメージだ。
俺の考えたシナリオはこうだ。
 奴がこの部屋にやって来る。当然、奈々子がドアをあける。そのとき俺は奈々子の隣に居て奴の顔を睨み付けると奈々子に抱きつく、そしてキスをする。目の前でキスを見せ付けられて平然と部屋に上がれるわけがない。当然、何も言えずに帰って行く。完璧だ。
この作戦で大丈夫だ。俺は高梨雅寛を待った。
 奈々子との約束は1時だ。それなのに奴は1時5分を過ぎてもやって来ない。なんて男だ!約束も守れず平気で奈々子を待たせるとは…奴は1時10分過ぎにやって来た。
 ピンポーン。
チャイムが鳴り慌てて出て行こうとする。奈々子同様、俺もリビングから玄関までをダッシュした。
 扉が開いた。
「ごめん!10分遅れたぁ」
男は笑顔でちょっと照れ臭そうに笑った。ガッッチリした体格に細くて笑うと目がなくなってしまう様な顔、俺の想像とは正反対の男が現れた。
 しかし俺は怯むことなく奈々子に抱きついた。
「翔、ちょっと…」
奈々子はちょっと困った様な笑顔を高梨雅寛に向けた。
俺は奈々子にキスをした。
 だが、驚く事に高梨雅寛は怯むことなく再び奈々子に話掛けた。「銀座の三越にさ、超うまいって有名なビーフジャーキーがあるって言うんで買いに行ってたんだ。早めに家を出たつもりだったけど、予想以上に並んでた。初めてお邪魔するんだから手土産」
高梨雅寛はそう言ってビーフジャーキーの入った三越の袋を奈々子に差し出した。         
奈々子は袋を受け取ると中を見ながら俺に言った。
 「良かったね!翔!翔の好きなビーフジャーキー!!あっ!ドックフードもあるよ!!」
高梨雅寛は軽がる俺を抱き上げた。
「喜んでくれるか〜?ん〜?」
奈々子はそんな光景を見て笑っている。
ガルルルル!俺は食い物でつりやがって!と思い威嚇した。
「さあ、上がって!翔、お兄ちゃんにお礼は?」
だから、俺の方が年上なんだってば!!そう思いながらも奈々子に逆らえずお礼をいった。
「ワン!ワン!」


すぐに気がついた人も多いでしょう。タイトルからヒントを出していたので最後まで判らない人がいたら、うれしいです!!













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