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不正破壊者の我侭姫 作者:桜崎あかり

ステージ2

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エピソード36


 7月25日に大きな動きをしていたのは、山口飛龍やまぐち・ひりゅうだけではなかった。
数日後にマラソンを控えていた橿原隼鷹かしはら・じゅんようも本番を控えて荒川の堤防で簡単な走り込みを行う。
さすがに例のスーツや提督服で走る訳にはいかないので、駅伝で使用していた時のジャージを着ているのだが。
「ARゲームを巡る動向も気になるが、まずは――」
 橿原は秋葉原でのARゲームを巡る事件も調べていた為、草加市のアーケードリバースの方へ優先的に動く事が出来なかった事情もあった。
さすがにアキバガーディアンのリーダー格ともなると、ある程度は組織にマークされるので目立って行動は出来ないのだが。
 そんな事を考えても仕方がないので、まずは数日後のマラソンで一定の成績を――と言う事にする。
国際大会までは無理にしても、ある程度の評価が出れば――色々と言われている駅伝選手に対する風評被害も減るかもしれない。
 しばらく走り込んでいると、右腕に装着していたARガジェットから着信音が鳴る。着信メロディー的なものではなく、デフォルトの音なのだが。
そして、周囲を見回して適当なベンチを発見し、そこに座ってから画面に表示されているボタンを押す。
「橿原だ――」
『貴様が橿原隼鷹――あるいは、柏原と言うべきか?』
 声の主は女性だろうが、このような口調をする人物に心当たりはない。
それに、自分の名字が柏原なのはスポーツ新聞などで調べれば分かる情報だが――。
「こちらは君の冗談に付き合う様な時間はない。手短に願いたいが――」
『冷やかしであれば、ここではなく運営に直接殴り込みに行く』
 橿原は何となく誰なのかは察したが、その人物の名前を言う事はなかった。
おそらく、彼がいるであろう場所は――草加駅だろう。
『一連の不正ガジェットのパーツは知っているな? 最近になって秋葉原でも発見されているアレだ』
「!? どうして――それを知っている?」
 橿原も思わず反応をせざるを得なかった。
この人物が知っている不正ガジェットとは、アーケードリバースで問題視されているチートアプリやARガジェットとは比べ物にならない物である。
それが仮に逆輸入でもされたら――それこそチートプレイヤーが縦横無尽に暴れまわる世紀末環境になるだろう。
『向こうの運営も例のガジェットを探り始めた。芸能事務所が拡散しているという話は、ワイドショーでも流れ始めている』
「ワイドショー!? まさか、草加市以外でも――」
『詳細は不明だが、何者かが台規模のコンテンツ炎上を狙っているのは明白だろう』
「芸能事務所のプロデューサーが逮捕されたのは、誤報と言う話もあるのだが?」
『どの事務所によるだろう。事務所のプロデューサーが逮捕されたのは事実だ』
「何処の事務所か、誰なのか――そこを伏せているのか」
『そう言う事だ。それを踏まえて警告しておく――』
 忠告と聞いて橿原は表情を変えた。それに加えて、途中からボイスチェンジャーの不調かは不明だが――電話をかけた本人の声が変化していた。
『芸能事務所を本気で潰そうとしている別勢力がいる。それを止めなければ、間違いなくコンテンツ炎上は――』
 最後のメッセージだけ聞き取りにくい程のノイズが入っていて、内容が伝わってこない。
通話が切れていないだけ、まだマシと言う見方もできるかもしれないのだが――何が起こったのか?
「コンテンツ炎上が、どうなると言うのだ?」
 思わず橿原も冷静ではいられなくなる。それ程に大きな事件が起こる前触れを、この人物は警告している気配がしたからだ。
『夢小説勢――それも、自分達が――』
 その後、この人物の通話が切れた。襲撃されたような音は拾っていない為、おそらくは会話アプリ等の不調だろうか?
しかし、橿原は夢小説勢と聞いて過去にあったフジョシ勢等の暴走を思い出していた。
 橿原が秋葉原で戦っていた勢力、それはフジョシ勢や夢小説と言った勢力である。
この勢力は、ARゲームのプレイヤーや実況者等に関する二次創作を発表し、自分達の目的の為だけに――作品を発表していた。
本来であれば超有名アイドルグループを題材にしたいが、事務所からの通報等を恐れて、題材を変えているというのは過去にも起きたネット炎上でも言及されている。
「また繰り返すのか――」
 橿原は練習の方を切り上げ、北千住駅へと急ぐ。
まだ間に合えばいいのだが――。


 午後2時、ワイドショーで通話アプリのトラブルに関するニュースに触れていた。
どうやら、草加市限定ではなく――全国一斉と言う事らしい。これによって、500万人に影響が出たとも伝えられている。
『連中は――あそこまでハッキングを行っていると言うのか』
 先ほどまで橿原と連絡していた人物、それはジャック・ザ・リッパーだったのである。
ジャックがどのような経緯で橿原の通話アプリを特定したのかは――。
 ハッキングと言うか、ジャミングに関しては特定の通話アプリでのみ行われており、それ以外は問題がないらしい。
以前に起こったSNSの通信トラブル騒動の延長だろうか? それとも、そちらの方は今回の作戦の為の実験とか――。
『とにかく、犯人を見つけなければ――』
 ジャックが犯人を探す為に草加駅へ向かおうとした矢先、あるトラブルが発生した。
何と、ジャックのARバイザーを含めたガジェットがトラブルで昨日を呈したのである。
これによって、ジャックの素顔は周囲に晒される可能性もあった。
 しかし、これはARバイザーの予備システムを起動した事で回避する事には成功する。
その一方で、ARアーマーは発生出来ない状態になった為、ARバイザーとインナースーツ姿になってしまったが。
『ここまでピンポイントで狙われるとは――?』
 ジャックが背後を振り向いた先、そこに姿を見せていたのはデンドロビウムだった。
「ジャック・ザ・リッパーだな?」
『デンドロビウム――今はお前に関わっている暇はないのだ』
 ジャックはデンドロビウムに捕まる訳にはいかない。今回のジャミングを含めた犯人を見つけ出す必要があるからだ。
そして、一連の事件の真相を聞き出す――その必要性があったのである。
「こっちとしては、お前とバトルする必要性はない。それに、チートプレイヤーではない人間を足止めしても得がない」
 デンドロビウムは足止めをした理由はチートではないとも言う。
ならば、今の自分の邪魔はしないでほしいのがジャックの願いだが――言葉にでなかった。
「しかし、お前が追っている勢力――それには興味がある」
 デンドロビウムは、ジャックを足止めすれば別勢力をおびき出せると考えていたのである。
草加駅近辺はフィールドシステムが存在する為、アーケードリバースに対応していればバトルは可能だろう。
それに――電車が通過する近辺でのバトルは禁止されており、大事故に繋がるような展開にはならないだろう、と彼女は考える。
不正破壊者チートブレイカーとは、言い得て妙と思ったが――』
 ジャックの方は、アーマーなしで戦うのは無理がある。近場にレンタルアーマーが確保できれば、問題はない――。
しかし、周囲を見回してもアーケードリバース対応の端末は――と思った、その矢先である。
『新品の設置端末――? あれならば――』
 ジャックの視線に入ったのは、設置されたばかりの新品同様のアーケードリバースのガジェット端末だ。
この端末でデータを入力し、希望するガジェットのコンテナを指定すれば――この場に転送される仕組みである。
「言い忘れていたが、この近辺のエリアは洪水対策の工事が完了していないと言う事で、再整備中だ――ガジェットが必要ならば、場所を変えてもいい」
 まさかの発言にジャックは言葉も出なかった。今の状態ならば、デンドロビウムも圧倒的有利なはずである。
おそらく、彼女は色々な意味でも我侭なのかもしれないが――ゲームのルールを破ってまで、自分の我侭を貫きたくないと言う事かもしれない。
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