ドSの悪役ライバルキャラに転生したんですが、私はノーマルなんで逃げたいです。
変態注意です。ルビが多いのでご注意を。
皆様こんにちは。
異世界トリップとか転生とかってお話だと良くありますよね。
トラック転生とか、猫を助けて変わりに死んじゃって転生とか。
私ですか?
正月に餅を喉に詰まらせて死にましたよ。
我ながらバカかと思います。
当時の自分に会えるなら指さして笑ってやりたいくらいです。
喉に詰まらせて死亡といえば、蒟蒻を利用したゼリーも一時期問題になりましたね。凍らせて子供に食べさせたら……ってお話です。
当時色々なところで話題になりましたが、ぶっとんだ意見も目にしましたね。
『危険な食べ物だと分かるように黒に銀ラメの見た目にすればいい(意訳)』
別に毒でもなんでもないんですから、食べるときに気をつければいいだけですよねぇ。
私が食べたお餅は真っ白でしたよ。お餅で死ぬ人の方が多いんですから、銀ラメの上で金ラメでしょうか。
話がずれましたね。
転生やトリップのお話でした。
皆様も想像がつくかと思いますが、私前世の記憶ありで転生しました。
チートなんてないですよ。
普通の現在日本っぽいので、あんまり知識も役に立ちません。
あ~役に立ったって言えば役に立ったのかな、一応。
つまりですね、乙女ゲーに転生しちゃったらしいんですよ。
しかも……ライバルキャラというか、悪役?
しかも、ドSな。
私の名前、芳桜院 柚璃香というんですが、攻略キャラ二人のライバルキャラになっています。
1人は婚約者。
緋桜槻 雅哉さん。苗字にライバルキャラと同じ漢字が入ります。私達は桜ですね。
厨二病満載のような名前だと自分でも思います。
キャラ設定考えた人に小1時間程問い詰めたい気分です。
もう1人の攻略対象は、腹違いの弟です。
芳桜院 伊久美。弟なので苗字は同じです。
ゲームでは、私こと柚璃香はお約束な高慢ちきで高飛車なお嬢様でした。
縦ロールの髪におほほほと高笑いするようなアレです、アレ。
芳桜院の方が緋桜槻より、家格は上です。
それを笠に着て我侭し放題だったのです。
弟は父親が他所に作った子なので、それで苛めまくったらしいです。
柚璃香の恐ろしいところは、高慢ちきなところでも、意地悪なところでもありません。
文字通り飴と鞭を駆使して、彼ら二人が柚璃香に虐げられるは当然と思い込ませたその手腕です。
ゲーム内では詳細は書かれてませんが、薄い本ではそれもう、微に入り細に入り文章でも漫画でも色々と書かれていました。主に年齢制限有り的なやつで。
ヒロインと出会って、柚璃香の調き……じゃなくて、呪縛から開放されるという筋書きです。
一部の本では、ヒロインが柚璃香を上回る手腕で二人を虜にしてましたね。女王様とかご主人様とか呼ばれてましたっけ。
別の本では、ヒロインより柚璃香を選ぶパターンもありましたね。
何故か桜の攻略対象を扱った本だと、ヒロインより柚璃香エンドが多かったようです。
ヒロインでは物足りなくて柚璃香を選んでしまう的な……
それでいいの? 本当に? って思いましたね。
あ、私にはそんな手腕ありません。
普通の、ノーマルな一般人ですから。
SでもMでもSでもMでもありませんよ。
そんな訳ですから、私はゲームの設定通りに振舞う事を早々にあきらめた訳です。
ヒロインが彼らを攻略した場合、柚璃香が落ちぶれるのはお約束の展開ですし。
彼らをいたぶる気も起きませんでしたしね。
だって、婚約者は別に悪いところないですし。
弟にいたっては可愛いですから(ここ重要)。
本当に可愛いんですよ?
ねえさま、ねえさまって満面の笑顔で懐いてくれる弟は天使のようです。
愛でることはあっても虐げることなんて出来る訳がありません。
おかげで、婚約者とも、弟とも良好な関係です。
ヒロインが現れたらポイ捨てされるかもしれませんが。
婚約者はともかく、弟から捨てられたらマジで泣く自信があります。
そんな未来が来ないことを祈りつつ、日々を過ごしていた訳ですが。
ええ、はい。
油断してました。
記憶持ちの転生が自分だけだと思ってはいけなかったんですね。
「柚璃香。どうして俺をいたぶってくれないんだ」
「そんなへたれはどうでもいいです。僕にちゃんとおしおきしてください」
驚いたことに、婚約者殿と弟君は転生者でした。
前世も男性だったのに、なんで乙女ゲー知ってるの!? と思いましたが、薄い本を愛読していたらしいです。そういえば、柚璃香の話って結構ハードで男性にも人気だった記憶が微かにあります。
「どんな縛りにも対応できるように、柔軟もかかしていない。亀甲縛りだって問題ない。というかしてくれ」
「鞭もいいですが、僕は直接ねえさまに触れて欲しいです。是非その手でスパンキングをお願いします」
私がいたぶるのをずっと待っていたらしいんですが、全く私が行動に移さないので要求することにしたらしいです。
「このキャラに転生したと気付いてから、ずっと柚璃香に調教してもらうのを楽しみにしていたんだ!」
「僕だってそうですよ。前世ではねえさまに調教してもらえる伊久美がずっと羨ましかったんです。その念願が叶うと知ってどれだけ悦んだか!」
私の可愛い天使のような弟君は夢幻だったようです。
「ソフト六条鞭ではなく、ハードな鞭で是非!」
「僕も低温蝋燭ではなく、普通の蝋燭でお願いします」
なんかものすごいコアな事を言われている気がするんですが。
「ああ、夢にまで見た柚璃香の責め。肉体的・精神的に痛みと悦びで追い詰めて虜にするあの手腕。想像するだけでイキそうだ」
「こらえ性のない早漏は黙っていてください。ねえさまの調教を受けるのは僕だけでいいんです」
なんか微妙に喧嘩しそうになっている二人を見て、私はそろそろと後ろに下がった。
切実に、逃げたい。
攻略キャラだけあって、二人とも見目麗しいです。だけど中身が変態では台無しです。というか、台無しどころかマイナス評価一直線です。
「柚璃香? どこに行くつもりだ」
あ、見つかっちゃいました。
「ダメですよ、ねえさま。僕を置いていなくなろうとするなんて」
なんか二人とも目が怖いです。
「わ、私はノーマルなんです。そんな趣味はありませんし、高度な技術を要求されてもできません!」
私は必死に訴えました。
そ、それは確かに柚璃香の足を舐める婚約者とか、涙で潤んだ瞳で見上げる弟とか想像するとちょっとドキドキしちゃいますけど。
ちょっとだけです。そんな知らない世界に飛び込む気は全くありません。
「そうか。俺は嗜好に合致しているが、転生ではミスマッチが生じることもあるか」
婚約者が私の言葉に頷いてくれました。
後は弟が納得してくれれば逃げることができるでしょう。
「非常に不本意ですが仕方ありません」
弟も納得してくれたようです。これで私の生活も安泰です。
ほっと胸をなでおろした私に、彼らが非常にいい笑顔でとんでもないことをのたまいました。
「一からってのが面倒だが、それはそれでやりがいがあるか」
「そうですね。Mを自分の好みのSに調教するのはSの楽しみであり、勤めですから」
はいぃぃぃぃ!?
にこやかに言う台詞じゃありませんよね?
私ノーマルだから範疇外の筈ですよね。
なんで二人にターゲットロックオンされているんですかぁぁぁ。
「柚璃香は頭もいいし、飲み込みも早いだろう」
「ねえさまならすぐに素敵なMになれますよ」
私は冷や汗をだらだら流しながら、逃げ道を探しました。
必死に考えても逃げられる気がしません。
前世の記憶なんて、無いほうが良かったです!
流行の悪役のライバルキャラに転生したけど、悪役回避しよう。という話を書いてみようとおもったんですが、どうしてこうなった。
男二人は記憶持ちなので、早い段階で柚璃香が設定と違う事に気付きました。
そして状況を観察している間に、柚璃香を好きになりました。
唯一にして最大の不満は彼らの性癖を満たしてもらえないことなので、仕方なく二人で手を組んで行動に移したという訳です。
性癖に合致する相手探せば良かったんじゃね? と思うんですが。
「馬鹿なことを言うな。SMは愛だぞ」
「そうですよ。愛のないプレイに何の意味があるんですか」
だそうです。




