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庸滅亡 作者:文叔

第四章 昏晦平原の戦い

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第四章 昏晦平原の戦い 2

 庸軍六十万は北河の渡河とかを始めた。何艘なんそうもの巨大な軍船の他に、何百艘もの中小の船を集め、それらに兵を分乗して運んでゆく。
 これについては準備の段階から特に支障はなかった。渡河には地元民の協力が不可欠なのだが、北河南岸の庸人にしてみれば自分たちのすぐ近くに暴虐無残な騎馬民族がいるのだ。撃退してくれる庸軍への協力は積極的なものになるのも当然である。船はわざわざ徴発するまでもなく、自分から提供してくる者も多かった。特に北河を使って水運業を営んでいる者は、船だけでなくその他にも様々な便宜べんぎを図ってくれた。

 支障がなかったもう一つの理由は、騎馬民族側から妨害がなかったことである。
 渡河の最中に攻撃を受けるのは致命傷につながる。特に軍の半ばが渡り終え、半ばがまだ渡河の最中である時に襲われれば大打撃はまぬがれない。それがゆえに渡河には細心の注意と警戒が必要で、呂石もそれを怠らなかったのだが、実はこれは無要の配慮だった。騎馬民族の方で彼らを襲撃する気がなかったのだ。正確には気がなかったわけではなく、することができなかったのである。


 騎馬民族は水が苦手であった。北の平原はそもそも水に乏しく、泳げない者も珍しくない。河や湖がないわけではないが、北河や南江のような大河はなく、当然ながら彼らには操船技術もなければ船の建造技術もない。地上では無敵の騎馬民族も、水の上では央華民族にこうし得ないのである。
 それでも渡河途中の庸軍を襲うことはできたかもしれないが、水が近いことそれ自体が彼らにとって脅威きょういであったし、水辺での戦いもまた庸軍の方が慣れている。
 なにより庸軍は六十万の大兵力で、渡河地点は最初の攻撃目標スンク族の勢力範囲。「迎撃担当」となるスンク族四万の十倍以上の大軍なのだ。いくら渡河途中の襲撃が好機であっても、これほどの戦力差があり、しかも地の利も庸軍にあるとすれば、バジュやタクグスであっても無理に攻撃を仕掛けるわけにはいかなかったのだ。
「口惜しいが連中の上陸をはばむわけにはいかぬか。だが見ておれよ、平原での戦いであれば負けはせぬぞ」
 バジュは悔しさを苦みに変えて言葉に乗せる。
 だが今回は平原での戦いも厳しい。数の差があまりにも大きいのだ。それでも彼は負けを考えていなかった。それだけ自らに自信があるのだが、今回はそれだけが強気の理由ではなかった。
「ですが叔父上、やはり渡河途中の庸軍の攻撃はしておきましょう」
 考えながらタクグスは叔父にそう進言する。
「なぜだ。無駄に兵が犠牲になるぞ」
「いえ、本格的に攻撃を仕掛ける必要はありません。兵に北河近辺での戦いを経験させることと、多少なりとも庸軍の戦力をぎつつ彼らの力を測っておくことが目的です。水辺での戦いは今回だけの話ではありませぬから」
 バジュの問いにタクグスは答え、それを聞いた叔父は不敵にうなずいた。
「なるほど、確かにその通りだな」
 彼らは央華を征服する。少なくともせっかく奪った北河以北を庸に返す気はなく、また他の騎馬民族に譲る気もなかった。その意思ある限り、これからも戦いは続く。その戦いに勝利するためにも、たとえ苦手な水辺であっても今後戦地となるべき場所を知っておくのは重要であった。
 バジュにしろタクグスにしろ、目の前の戦いに全力を注ぎつつ、これからのことも忘れてはいなかった。

 スンク軍は遠めから矢を射る形で渡河中の庸軍を襲い、彼らに百人程度の損害を与えた。大軍ゆえそれは微々たる損失でしかなかったが、タクグスたちは庸軍の様々なものを見ることができ、収穫はあった。
 スンク軍の損害は、調子に乗って庸軍に近づきすぎた部隊が矢を受け、二人が戦死、三人が負傷であった。これもまた、彼らに今の自分たちにできることとできないことをわきまえさせる経験となった。
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