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庸滅亡 作者:文叔

第三章 三族

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第三章 三族 4

 コナレ、スンク、ギョラン。この三族の騎馬民族を中心に、北河以北は地獄と化した。西のスンク、東のギョランはまだ横へ横へと領域を広げ、コナレ族に負けない勢力を作ろうとしていが、最初から準備が整っていたコナレは、波濤はとうというより溶岩さながらの勢いで央華の大地を放射線状におかし、焼き尽くしてゆく。
 央華大陸の北寄りを西から東へ流れる大河、そして央華文明の中心である大河・北河ほくがの南部に位置する帝都・寧安ねいあんすら、すでに安泰あんたいとは言えなかった。
「陛下には一刻も早く玉体ぎょくたいを安全な場所までお運びいただかなくては」
「しかしそれでは陛下が北狄ほくてきから逃げたと見られかねん。民が動揺し、北狄に寝返ったらどうするつもりだ」
「すでに降るむらは降っておる。もし降らないにしても、そのような邑は北狄に焼き尽くされておるわ。降る者は生かして使う、降らない者は殺す。それのみが北狄の法なのだからな」
「北河以北のことだけを言うておるのではない。華南かなんも含めた全土の民の動揺のことを言うておるのだ! もしここで陛下が玉座ぎょくざをおうつしになれば、我が大庸の根幹が崩れかねんぞ」
「ではこのまま陛下に寧安におとどまりいただいて玉体にもしものことがあったらいかがする。そのような事態になれば、我が大庸は滅亡するぞ!」
 巨大な敵の出現に、宦官派と士大夫派の争いは多少減った。だが議論が紛糾ふんきゅうし、結論が出ず、方針を決定することが出来ない。軍隊が弱いこと以上に、これこそが庸の最大の弱点であった。

 結局のところ「とりあえず陛下には寧安へおとどまりいただく」ということで話はまとまった。というのも北河以南の庸全土から、続々と編成を終えた軍が北上を始めたからである。
 弱兵とはいえ軍隊は無力ではないし、数から言えば自国内である庸軍の方が圧倒的に多い。しかも今回は、自国の防衛どころかすでに国内へ侵入されての存亡の危機である。大量の窮鼠きゅうそが猫に挑むようなもので、しかも猫の方は分裂したままである。各個撃破は充分に可能である。
 集結した庸の総兵数は、実に約六十万。コナレ族約八万、スンク族約四万、ギョラン族約五万。三族合計の三倍以上である。
 スンク族は本来であれば六万から七万程度は集められるが、初動が遅れた上、ズタスの狙いを見誤っていたため全軍が整っていなかった。
 ギョラン族は全軍である。初動はコナレ族に遅れながらもズタスの企図を最初から見破っていた唯一の族長であるスッヅは、ためらいなくすべてを投入してきたのである。
 通常であれば庸の兵数も三十万か四十万が限度であったかもしれないが、今回はどの群県も兵の供出を渋ることなく、なにより徴兵される民たちが積極的であった。このまま南下されれば彼らの住む土地まで侵略されてしまうかもしれないのだ。必死さという点で、庸の全国民は騎馬民族にまさっていた。
「これだけの兵があれば北狄を長城の北へ叩き出すことができるぞ」
 と宮廷が考えたのは当然であるし、それは決して夢物語ではなかった。

「ついに来たな」
 庸軍六十万集結という報をズタスが受けたのは、長城を越えて三ヶ月が過ぎた頃であった。常であれば腰が重く動きの鈍い庸が、これだけの大軍をこれだけ素早く動員してきたことが、彼らの本気度を示している。
 ズタスは自軍の強さに絶対の自信を持っていたが過信することはなかった。その冷徹れいてつな目で見た現状は、破竹の勢いに見えるコナレ族とて弱点が多々あることを知らせてくる。
 コナレ族は長城の中央付近から庸国内へ侵入し、放射状に進撃、北河北岸に届くほど占領地を広げた。広さからいえば北河以北の半分程度に達する。しかも闇雲に軍を進めたわけではない。北河以北の重要な街、交通や戦略上の要地、鉱山、耕地など、占有した後に有利になる地を選んで攻略してきたのだ。
 凄まじい戦果だった。だがあくまで「広さにして半分」であり、しかも左右(東西)に敵を持ってしまったことが不安要素である。
 西はスンク族、東にはギョラン族。コナレ族に比べ、出遅れた上に準備不足の二族だけに、それぞれの族が占領した広さは北河以北の四分の一でしかない。だが出遅れではあっても遅れすぎはしなかった。
 四分の一でも領有できたのは、二族の族長や指導層の有能さの証明である。なにしろ他の族はコナレ族の尻馬に乗るだけで、彼らがすでに略奪し尽くし、焼き尽くした地に入り込むことしかしていない。略奪という目的を果たせないだけでなく、その場でコナレ族に叩かれ、吸収されるばかりであったのだ。コナレ族が他の二族に比して兵力が多いのは、そういう事情もある。
 その危険を感じたからこそスンク族は西へ、ギョラン族は東を侵し、コナレ族ほどではないにしても充分に広い領地を手に入れることができたのだ。

 しかも偶然ではあったが、二族でコナレ族を挟む形に領地を得たことも大きかった。スンク族とギョラン族は決して同盟を結んでいるわけではなかったが、強大なコナレ族に対して「敵の敵は味方」の論理が成り立つ余地は大いにある。いくら精強を誇るズタスとコナレ軍とはいえ、スンクとギョランから挟撃きょうげきされては分が悪い。加えて北上してくる庸軍も迎え撃つとなれば三方を同時に相手取ることになり、分が悪いどころの話ではなくなってしまう。


 が、こうして自分たちのみが不利であるという思考で固まらないのがズタスであった。
 彼は東西にいる敵族の長たちの能力を認めていた。力強さだけでなく、知性や理性という点でも。それゆえ打開策はある。
「好みではないがな」
 というのは力を第一とする騎馬民族の一員であれば誰でも思うであろう。凡百ぼんぴゃくな族長であればその感情にからまれて自滅するしかないが、苦笑で済ませて抑えられるのがズタスであり、他の二族の長たちであった。
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