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心斬る
作:白石のっち


 彼女が掛け声と共に竹刀を振り下ろしてくる。受けた私の竹刀と彼女の竹刀はそのまま二つに重り、踏み込んできた彼女と鍔迫り合いの形になった。面の向こうで彼女の真剣な眼差しが見える、一旦間合いを取ろう、力を込めて彼女の竹刀を押し返し、後ろへ引くと。彼女が再び竹刀を振り上げるのが見えた。
「胴有り!」
 一瞬の隙を突いた私の胴打ちが彼女の両腕の下を通った。
「止め」
 お互いに試合開始の位置へと戻り、向き直る。
「勝負有り」
 私の勝ちが審判から宣告され終了後の礼法を行う。最後の立ち礼をした時彼女が少し震えているように見えた、先程の試合で何処か痛めたのだろうか。
「やっぱり横山さんは強い。最後も勝てなかったけど、仕方がないわ」
 駆け寄った私の心配をよそに、彼女はあっさりした調子で言った。彼女の言うとおりこれは最後の試合、高校三年生で受験を控えた私達は剣道部から引退する。

 それから数ヶ月。受験も無事終わり、晴れて高校の卒業式となった日、式も終わった頃に彼女が話しかけてきた。
「横山さん、話したい事があるの。大丈夫よ時間はとらせないから」
 彼女についていった先は二人で何回も試合をした武道館だった。彼女は何処からか一本の竹刀を取り出し、それをじっと見つめている。
「私と最後に試合をしてくれない、防具は用意してあるわ」
 彼女は竹刀を見つめたまま続ける。
「剣道からしばらく離れてて気づいたの。私嫉妬してた、剣道だけじゃなく、いろんな面であなたにね」
 驚く私を見て、彼女は首を振った。
「だから剣道で心を鍛えてた。私のお願いは、最後に残ったそんな私の弱い心を斬ってほしいの」

 私は用意された防具を付け彼女と向かい合う。突然の彼女の願いに正直戸惑っていたが、久しぶりの竹刀の感触は懐かしかった。ほんの数ヶ月前まで、今と同じように私は竹刀を握り、目の前の彼女と対峙していた。
 頭に鋭い衝撃が走った、彼女の振り上げた竹刀が無防備な私の面を打ったのだ。
 剣道とはその剣で己の誤った心を斬る修行、彼女は自分の心を知り、私に最後の試合を挑んでいる。では私の心はどうか、あの時試合に負けて震えてる彼女に私は本当は何を思っていただろうか。
「私も、負けたくなかった」
 たった今彼女に斬られた心を振り返り、私は誰にも聞き取れないような声で呟く。
 そして彼女に向かい、大きく竹刀を振り上げた。














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