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メダカ付き

作者: 大谷津竜介

挿絵(By みてみん)


 ぽつぽつと幾粒か水面に降った、緑色をしてぼろぼろのいつもの食事を腹に収めると、メダカはちょろりとターンして、ひとつ糞をした。そのあとは、ゆるゆると浅い水深の中ほどに浮かんでいる。

 ときどき、ぴくりと尾を振って底に沈むのを防ぎながら、静かに口を開け閉めする。細長い糞が、濁り気味でぬるい水の中を、ゆっくりと沈んでいく。


 降る食事よりもさらに気まぐれに、水槽の外がこつこつと小さく叩かれるときもある。くすみきったプラスチックの向こうにぼやけた何かがうごめいて、メダカはちょっと近寄ってみるが、たいていは何かくれるわけでもなく、でもごくまれに食事が降る。なのでこつこつと叩かれると、やっぱりちろりと尾を振って傷だらけのプラスチックに向かって寄ってみて、しかしやはり何もおきずに、うごめくものは水槽の外からいなくなる。


 水槽は薄暗くて、でも水はいつもぬるくて、申しわけ程度に置いてあるポンプはいつも調子が悪い。気泡が出るときより出ないときの方が多く、むしろ止まっている時も多い。

 ポンプが止まっている時は落日とともに水槽のなかもほとんどまっ暗になるので、水槽が置いてある部屋の電気が止められているのだが、メダカに電気というものはなにかわからないし、水槽がいつから薄暗いのかもメダカはわからない。


 そもそもそこが水槽だということもメダカにはわからないし、まして水槽が置かれているのが下駄箱と呼ばれるものの上であることなど知るよしもない。なのでメダカは、いつものとおり、いつもいつも水槽の中ほどにたゆたっていた。


 このところ、いつもよりもだいぶ長いあいだ、夜になると暗くなったままで、食事も降ってこないが、それがどういうことなのかメダカに分かるはずもないので、ただひもじくなりながら浮かんでいると、どれほどの時間が経ったのかメダカに時間の観念はないのでわからないが、唐突に騒がしい気配がして、しばらくたくさんの何かが動き回っていた。

 それもすむとまた静かになり、食事はなく、メダカはひもじくたゆたう。


 メダカがただただひもじくじっと静かにしていると、あるときからまた食事が降るようになった。ポンプからは再び気まぐれに、気泡が浮かび上がる。

 メダカは降る食事を食べ、糞をし、口をぱくぱくさせながらときどき水槽を叩く音に近寄ってはまた中ほどに戻りじっとして、たまに小さく泳いでみる。大きくは泳げない。その理由をメダカは分からない。


 その部屋に水槽があり、メダカが住むことを知るものはいない。メダカも、何も知らない。

 (完)


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