満月の夜だった。
というと聞こえはいいが、実際は半月であった。
そんないいかげんなことでいいのか!
いいのである。なぜなら・・・・
ぷるるるるるる。
「おっと。着信が」
良彦は携帯電話を手に取り画面を眺めた。
「うわ。正子さんやん。どないしよ」
正子というのは良彦の奥さん。ケンカしててもう二週間も口を聞いていない。
「出たくねぇなあ。出たくねぇなあ」
良彦が切ろうとしたその時!
ぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
携帯電話が急に爆発した。
「ひっ」
良彦はビックリして、飛び上がった。
アスファルトに転がる携帯電話の破片を眺めながら、良彦の頭ん中は「?????」になっていた。
「まさか、これ、正子さんの仕業じゃなかろうな」
「んなわけないだろ!」
「ひっ」
どっかから怒鳴り声が聞こえて、その声の方を見やると・・・・
そこには鬼の形相の正子がいた。
車の上に乗って仁王立ちしている。
「ま、正子さん!」
「よっくん! あんた、わたしが大事に取っておいたアイス食べたでしょ!」
「知らないよ、知らないよ」
「ウソおっしゃい! 犯人はあんただって調べはついてんだからね!」
「ひー」
よく見りゃ、車の横に刑事がズラッと並んでいる。
みんな手帳を片手になにやらわめいている。
「なんだコイツら」
刑事の一人が、一歩前に出てしゃべり始めた。
「奈良田良彦。アイス盗み食いの罪で逮捕する」
「ひーなんやてー!」
良彦は、捕まえようとする刑事の腕を振りほどき、駆け出した。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
数十分は走った。
西川町二丁目だ。
さすがにもう刑事の姿はない。
「ここまで来ればもういいだろ」
と一服しようとしてポケットから煙草を取り出そうとしたその時!
「甘いぞ!」
どっかからまたもや怒鳴り声が。
「だ、誰や。てか、この声はまさか」
「そのまさかだよ!」
車道脇に停めてあった車の上に正子さんが仁王立ち。
「し、しつこい」
「よっくん! あたいのアイス返しなさい!」
良彦はもう何がなにやらウンザリしてきた。確かにアイスを勝手に食べたオレが悪いのはわかるけど、こんなにも神出鬼没にやられたんじゃどうにもならん。
「正子さん! いいかげんにしろよ! アイスを愛すのかオレを愛すのか、はっきりしてくれ!」
「アイスを愛す?」
良彦は、やべ、と思った。まさか、おやじギャグが正子の怒りのレーダーに触れたか?
「ぷわぁーはっはっは。良彦、お前おもろいやんけ。アイスを愛すって、ぷわぁーはっはっはっは」
正子がひーひー笑い続けるので、だんだん良彦、腹立ってきた。いくらなんでもそこまで面白くはないだろ!
良彦は車の上で笑いころげる正子に向かって石を投げた。
命中した。
正子は頭を押さえながらわめいた。「痛いじゃないの! このクソ野郎が!」(了) |