Chapter 5 episode: Another Edge
「もう、洋太。早くしなよ」
「うっせえな、めい。急ぐ必要ねーだろ」
えんじ色の学生服とセーラー服をまとった二人が、やり合いながら街中の歩道を進んでいく。
その後ろを、やけに長身の男とやけに巨乳の女が付き従う。
「ヒナ先輩に怒られるよ」
「あっ、そ、それはマズイ……! 急ぐぞ、おめえら!」
薄茶色をした短めの髪を逆立て、耳にカフスをつけた〝いかにも〟な風貌の洋太が、焦った様子で周囲に声をかけた。
裏腹に、少し呆れた顔の女子生徒がため息混じりに言った。
「今だったらギリギリ間に合うよ。めいが急ぎすぎなんだよ」
「カナの時間感覚は、いつもプラス二〇分だから」
「えー、何ソレ」
めいの背後にいる佳奈が、唇をとがらせた。
「つか、おめえのそのカッコ、なんとかなんねーのか」
「えー、なんで?」
佳奈は、長い豊かな髪が波打ち、出るところは出たスタイル抜群の〝いい女〟だ。
スカートの丈がやけに短いのはともかく、制服は普通に着ているのだが、なぜかその上に巨大なマントを羽織り、さらに頭にはとんがり帽子ををかぶっていた。
明確すぎるコスプレ魔法少女であった。
「少しは自重しろ!」
「これくらいいいじゃない」
「目立つだろうが! 俺たちまで、は、ハズカシイ……」
「そんなこと気にする顔じゃないじゃん」
「ンだと!? この変態魔女め……」
「カナがいいって言ってるんだからいいんだよ」
洋太の隣を歩くめいが 笑いながらそう言う。頭の後ろででポニーテイルが揺れていた。
「ね、〈浩樹〉くん?」
話を振られた背の高い男子生徒がこくりとうなずいた。無雑作に伸びた前髪のせいで、その表情はよく見えない。
「相変わらず〝ロッキー〟は〈黙りか」
「いいじゃない。浩樹くんは寡黙なところが素敵なんだよ」
「そう、洋太と違って」
後ろを歩く浩樹の表情に変化はないが、頬が赤くなっている。
「うっせえ。俺は、言うべきことは言う男なんだよ。ンなことより、雛サン、なんだろうな」
「例の件でしょ。ずっと調べてたし」
「そうだけどよ、なんで今なんだよ」
「さあ……」
カナが脳天気な声で答えた。
「変な動きが多いからね~、最近」
「ああ、どうもちょこまかと動いてる奴らがいる。ロッキーのネットワークには引っかかんねえのかよ」
浩樹がこくりとうなずいた。
「駄目かよ。加賀一族でも掴まえらんねえなら、今んとこどうしようもねーな」
「くわしいことは、ヒナ先輩に聞かないと。だから急ぐよ」
「あ、おい!」
めいが有無を言わさず、ぐいぐいと引っぱっていく。
あっという間に、二人と後方との距離が一〇メートル以上開いた。
「もう~、この夫婦は困るなぁ」
「ヘンなこと言うな!」
洋太の抗議の声も虚しく、カナは意味深な笑みを浮かべたままだった。
道路脇で雀が鳴いている。