Chapter 4 episode: Fluctuation
いつもは静寂に包まれたリビングが、今日は常になく慌ただしい空気に包まれていた。
それというのも、ロミオが苛立たしげにスプーンでカップを叩き、ミカが分厚く古めかしい本をひっきりなしにめくっているせいでもあった。
「麗奈が、またへまをやらかしたらしいね」
「原因も詳細もまだわからない。だが、定時連絡が途絶えたのは確かだ」
「霊力の感知は?」
と、スーツ姿の省。
「できない。おそらく場所は例の学園タウンだろうが、あそこは全体が結界に包まれている。しかも、ご丁寧に校舎ごと部屋ごとに個別に術がかけてあるところもある。外からでは無理だ」
「僕が行ってこようか?」
「駄目だ、ロミオ。状況がよくわかっていない段階でへたに動くと、我々まで不測の事態に陥りかねない。今は待て」
「だから、僕が様子を見てくるって言ってるんだよ。どっちにしろ、学校に行かなきゃいけないし」
「そう思うんだったら好きにしろ。お前の操霊術は、同じ術者にとっては目立ちすぎる。うまく情報を集められるとは思えないが」
「…………」
返す言葉もなく、ロミオは沈黙した。
「心配するな。いざというときは、〝彼〟がやってくれるだろう」
「未だ顔を見せない奴が当てになるかどうかわからないが」
省が、手に持っていたグラスをカウンターに置いた。
「俺たちは俺たちで動いたほうがいいのかもしれない」
「もう動いてはいる。今は準備を進めているだけだ」
「だといいが」
含みのある声に、ミカがわずかにその細い眉をひそめた。
ロミオはそんな二人の様子に気づいた風もなく、大仰にため息をついてソファに寝そべった。
「まったく、麗奈は無警戒なんだよ。いっつも人のことをとやかく言うくせに、自分はすぐ油断するんだから」
「心配か?」
「ミカ、変なこと言わないでよ。少なくともいざとなったら、脱出くらいは自分でできるはずだし」
「信頼しているんだな」
「だから――」
やり合う二人をしり目に、省はひとり一連のことを懸念していた。
――本当に大丈夫なのか?
あの男が学園タウンに現れて以来、不測の事態が立て続けに起きている。こちらの計画に影響があるほどではないものの、〔少しずつ何かがずれてきている〕ように感じられてならない。
気にしすぎかもしれない。しかし、それだけでは済ませられない何かが確実にあるように思えた。
――ロミオではないが、俺が動いてみるか。
未だ不毛な反論をつづけている少年を見ながら、省はひとつこころに決めていた。