Chapter 4 episode: Dangerous Classroom 1
休み時間の教室はひたすらにやかましく、あちらこちらで無意味ともいえる会話がひっきりなしに交わされていた。
「レンレーン……麻生と遊ぼう……」
「ひとりで遊べ」
「あ、そう」
「…………」
今日はもう帰ろうとサボる言い訳を考えていた蓮に、いつものように光がねちっこくまとわりついていた。
「絡みつく刃……影が……陰る……」
「何を言ってる」
と返したところで、はっとした。
――また〝予言〟か?
こいつの言葉は九九%意味がないが、ときおり謎めいたことを口にする。しかも、それが後に起こることと奇妙に符合するものだから、無視したいのに無視できない。
「光、お前――」
本当は何を、と言いかけた蓮は途中で声を詰まらせた。
「きゃっ」
背中から軽い衝撃とかわいらしい声。
振り返ると、金髪の美少女がそこにいた。
アイーシャの胸の感触を確かに得たことはおくびにも出さず、蓮は彼女のほうに向き直った。
「お前か」
「ごめんなさい」
「ちょっと待て」
謝ってすぐに立ち去ろうとするアイーシャの前に、蓮が立ちはだかった。
「ずっと聞きそびれていたが、お前、どうしてあのときあそこにいたんだ?」
転校してきた初日、教会で起きた事件。戦い自体はどうということもなかったが、なぜかあのときアイーシャがいた。
そして戦闘が終わったあと、その姿はなくなっていた。
――ま、逃げろと言ったのは俺だが。
アイーシャは、わずかに逡巡してから答えた。
「夜のお祈りを捧げようと」
「わざわざ改装中の教会に? 敷地内だけでも他にあるじゃないか」
「帰ってきたばかりで知らなくて……」
「ふん」
どうも要領を得ない。
そもそも、学園タウンの中とはいえ、あんな時間にこんな少女がひとりで出歩くものか?
――それも、お祈りのためだけに。
「お前、本当は――」
「あ、〈刃〉」
蓮の言葉を遮ったのは、光の間の抜けた声だった。
「は?」
相変わらず掴みどころのない表情で、光はアイーシャのほうを指さしている。
「ちょっと、光!」
怒りの声を上げたのは、美柚をはじめクラスの女子たちであった。
「アイーシャに失礼でしょ! まったく、女の子に向かって――」
「刃」
「まだ言う!?」
美柚が拳が振り上げても、光はアイーシャではなく中空を見つめ、ぽかんと口を開けていた。
「…………」
殴る気が猛烈に失せ、美柚はもう相手にしなかった。
「ごめんね、アイーシャ。このクラス、変な野郎ばっかで」
「う、うん」
はっきりうなずくアイーシャも、けっこう失礼である。
彼女が凶暴な女子たちに囲まれてしまった。このクラスでは捕食関係の位階で下位に属する男子に、もはや打つ手は残されていなかった。
――また、はぐらかされたな。
結局、本当のところを聞けずじまい。
二人で会う機会が意外と少なかった。
それはアイーシャの身を案じ、周りがそう仕向けているせいだということに、まるで気づいていない蓮であった。
「ちっ」
光の言動も含めて一連のことで不機嫌になった蓮は、わざと周りに聞こえるように舌打ちして、教室の外へ向かった。