Chapter 4 episode: Determination
部室の中は暗く、カーテンの隙間からこぼれる弱々しい光だけではとても奥までは見通せない。
几帳面に整然と並べられた机の向こうに、細身の男の姿があった。
その目はどこか虚ろで、窓の外に視線を向けているにもかかわらず、部屋の中の暗さを体現していた。
扉が静かに開けられたのにも気づいた様子はなく、相手がすぐ近くに来るまで身動きひとつしなかった。
「先生」
「……なんだ?」
教え子、というより部下の声に、鈴木 勝俊は気怠げに嘆息した。
その態度に、響子はさすがにむっとしながらも言葉をつづけた。
「例の件、準備が整いました」
「そうか」
「……本当に、これでよろしいのですか?」
「どういう意味だ」
「その、行き過ぎのような気がして」
「行き過ぎ、か」
勝俊が息を吐いた。それは先ほどとは異なり、わずかな嘲りを含んでいた。
「今さらだ」
「先生……」
「今さらじゃないか。ここまで来てやめられるはずがない。周りが許さないし、僕も許さない」
その表情は先のそれとはがらりと変わり、決然としたものになっていた。
妥協するつもりも、あきらめるつもりもない。
ここで立ち止まったら、今までのすべてが無駄になる。
そして〝彼女〟は――永遠に帰ってこない。
そんなこと、できるはずないじゃないか。
「君は、黙って言われたことをやっていればいい。余計なことは考えるな」
「……はい」
勝俊の言葉は冷たかった。
それでも反論することなく、響子はきびすを返して静かに部屋を去っていった。
後ろ姿を見送ることもなく、勝俊は再び窓外へと視線を戻した。
――綾乃。
自分のせいで〔消された〕少女。その面影は今も胸に残り、こころを苛む。
――かならず、かならずだ。
もう、次はないのだから。
窓の外を吹き抜ける風は強く、街路樹は常にざわめいていた。