Chapter 3 episode: Nonplussed
部屋はいつもの薄暗がりのままであったが、その空気は明らかに常時とは異なっていた。
「――どういうこと?」
麗奈の問いに答える者はいない。中途半端な沈黙に、麗奈はいら立った。
「なんでこういうことになるの?」
「僕たちとは別の誰かが動いてるってことでしょ。そんなこともわかんないの?」
「わかってるに決まってるでしょ、ロミオ。そうじゃなくて、その誰かが誰で、なんのために動いているかってこと」
「それはわからない」
答えたのは、立ったままのミカだった。
「ただの偶然かもしれないし、誰かのいたずらかもしれない」
「それは楽観的すぎる」
意外にも、姉の意見に省が反論した。
「相手は、こちらの術を瞬間的に上書きしてみせた。そんなことは、狙ってやらなければできないはずだ」
「そうだね。かけた術を上書きするには、それを再構成してかけ直すか、いったん前の術を完全に消すしかない」
ロミオの意見は正しかった。
「でも、結果的に狙いどおりになったんだからいいじゃない」
「麗奈は楽観的だなぁ。そういう問題じゃないだろ? 今回は、僕たちに被害がなかったからよかったけど、もし敵対したら大変なことになるかもしれないじゃないか」
「敵対するかどうかわからない」
「それこそ憶測だよ、それも希望的な」
「全部憶測だ」
ソファに座っていたミカが立ち上がった。
「最悪の事態を想定することも大事だが、警戒しすぎて過剰に反応していては時間の無駄だ。我々にはやるべきことがある」
正論であった。
「ところで」
省が、姉から麗奈たちへと視線を移した。
「お前たちはどこへ行ってたんだ? あのとき、学校にいたんだろう?」
「私は、もう外に出てた」
「僕は小学校に戻ってたよ。授業あるし」
「そうか」
もっともらしい答えに、省ももっともらしくうなずいた。
「それにしても、〔あいつ〕、どういうつもりなの?」
と、麗奈。
どこか怒りをにじませた様子で、ローファーのかかとを使って床を叩いている。
「彼には彼なりの考えがあるのだろう。我々は、自分の役割をまっとうするだけだ」
「でも、ミカ――」
「麗奈」
ミカの声は相変わらず静かであったが、有無を言わさぬ迫力があった。
「自分の目的を思い出せ。他人の詮索をすることが狙いではないはずだ」
「……わかってる」
無駄話はこれで終わりだとばかりに、ミカは別の部屋へと消えていった。
それぞれも、それぞれの方法で去っていく。
省だけが、そんな彼らを見送っていた。