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牙 - kiva -  作者: takasho
33/57

Chapter 3 episode: Slasher Has Come 3

 芦山を先頭に、それぞれがつま先に重心を移す。

 ――もう、

 一斉に動きだした。

 ――やるしかねえ!

 迷わず、秀真を鞘から解き放った。

 相手の霊力が膨らみきる前に斬り伏せるべく、みずからも相手に向かって跳んだ。

 こちらの一撃をまともにくらえば、その誰もがただでは済まないだろう。しかし、もはや選択の余地はなかった。

 一気に広がった秀真の赤い霊光が、相手をからめ取るように包んでいく。それでも、芦山らに怯んだ様子はまるでなかった。

 ――恨むなよ。

 迷わず、愛刀を思いきり振り下ろした。

 覚悟を決めての一撃であったが、しかし、それは芦山の横をすり抜けていった。

「何っ!?」

 相手の速度は想像以上だった。先ほどまで、その霊力によるパワーにばかり意識が向いていたため、〈過増幅オーバーブースト〉された速さを測り間違えてしまった。

 側面に回り込まれたときにはもう、相手が不気味に揺らめく霊気の塊――霊弾を両手で挟むようにして振り上げていた。

 ――まずい。

 もし、これをまともにくらったら――

 蓮は自身の霊力を一気に爆発させ、防御のために障壁を前方に展開する。

 ――間に合わない……!

 目の前に、自分のものではない霊光。

 もはや、大きなダメージを覚悟するしかなかった。

「――――」

 しかし、予想された衝撃は一向に訪れなかった。

「…………?」

 腕のガードを解くと、眼前にはやはり芦山。

 なぜか白目をむいて、間抜けに口を開けたまま横にかかしのごとく倒れていった。

 気がつけば、他の生徒たちもすでに床に倒れ伏している。

「大丈夫か、蓮」

 すぐ近くからかけられた声にはっとする。

 この声。まさか――

 振り返ると、そこには長い銀色の髪を後ろで無雑作にまとめた長身の男がいた。

「玲次……」

「相変わらず解呪系は苦手なようだな、蓮」

「俺は基本的に単純な術は使わないんだ――って、〔誰に向かって〕言ってる!?」

 玲次は、なぜか昇降口にある銅像に向かって話しかけていた。

「お? おお、こっちか」

「眼鏡をかけろ……」

「大丈夫、全部把握している。――うん?」

 玲次が男にしておくには惜しい切れ長の目を細め、徐々に徐々に蓮に近づいていく。

「顔が近いっ!」

「なんだ、蓮のほうが眼鏡をかけてるじゃないか。視力が落ちたのか? それでは、ハンターとして――」

「霊器だ」

「力を抑え込んでいるのか。どうりで、最初位置がわからなかったわけだ」

 ひとり納得し、うんうんとうなずいている。

「全部把握してるんじゃなかったのか」

「それは言葉の綾だ」

『どんな綾だ』という蓮のツッコミにも、まるで動じた様子はなかった。

「それより、転校早々厄介ごとに巻き込まれてるな」

「俺の責任じゃない。問題が向こうから勝手にやってくるんだ」

「お前はいつもそう言う」

「……美柚みたいな言い方するな」

「なんだ、鈴木とは知り合いか」

「知り合いというか……腐れ縁だ」

「ふん?」

「いつもいつも俺の邪魔ばっかりをして、暴力的で終末的で……」

「お前に気があるんじゃないか」

「いきなり核心突くな! 俺は……母上のような和風美人がいい」

「鈴木も和風美人だと思うがな」

「黙っていれば、な」

「それで、お前は鈴木をどう思ってるんだ」

「だから核心突くな」

「ほら、いろいろあるだろう」

「いろいろ?」

「体のほうだ」

「体?」

「あの豊満な体を見てなんとも思わないのか」

 濡れた制服、家での薄着、そして風呂場での――

「鈴木は、性格は悪いが体は最高だ」

「それは認める」

「あんたらはっ!」

 階段近くから響いてきた声に振り向くと、一組の美脚が飛んでくるところだった。

 両足できれいに二人同時攻撃してきたのを、蓮は毎度のごとくもろに受け、しかし玲次はひらりと華麗にかわしてみせた。

 獲物を一匹逃したことに舌打ちしながら、美柚が着地した。

「相変わらず体はすごいな、鈴木」

「まだ言う!?」

「――いや、身体能力という意味だ」

『どうだか』と未だ怒りをあらわにしながら、何をするつもりか戦闘用のグラブを装着している。

「つか鈴木、下着が見えるぞ。俺たちとしてはうれしいが」

「俺は、うれしくともなんともない」

「大丈夫だよ」

 と、美柚がなんの恥じらいもなく両手でスカートをたくし上げた。

「ほら、今日は下にショートパンツはいてるし」

『…………』

「もう! なに、じろじろ見てんのよ!」

「お前が見せたんだろうが! この見せたがりの変態女!」

「んだとぉ?」

「よくわかった」

 周囲を疲弊させるばかりの不毛な紛争が再発しかかったとき、玲次のどこかのん気な声が響いた。

「二人はいい仲なんだな」

『違うっ!』

「照れなくていい。二人がどれだけ進んだか、言わなくてもわかる」

「いや、だから――」

「もう一緒に住んでるのか?」

『…………』

「お? もしかして――」

「それより玲次、退却するぞ。厄介ごとが、また向こうからやってくる」

 再び階段の方向から足音が聞こえてくる。

 そこから現れたのは、髪をきっちりとまとめたまじめそうな男子生徒とスタイルのいい女子生徒だった。

「華院! また君か!」

「ほら、こうなった」

「なんだ、〔東一〕とも知り合いか」

「甲一だ! いい加減憶えてくれ、不登校児」

「どちらでもいいじゃないか」

「そうだ」

「いいわけないだろう! まったく、こいつらは両方とも……」

 腕を組んで文句をとうとうと語る甲一を押しのけて前に出たのは、生徒会長の雛子だった。

「あ、やっぱり玲次くん」

「雛……」

 そのとき、玲次が初めて感情の揺らぎを見せた。

「学校にたまにしか来ないってことは、まだつづけてるの?」

「俺には成し遂げなければならないことがある。それを果たせないうちは前へは進めない」

 玲次から、先ほどまでの飄々とした雰囲気は消えていた。

「でも――」

「けじめをつけるために必要なことはある」

 そう答えたのは蓮だった。

「己が納得するまでやればいい。俺がお前と同じ立場だったら、同じようにしていたと思う」

「蓮くん……」

「すまん、蓮。そう言ってもらえると助かる」

 玲次がきびすを返した。この話はここまでという合図だった。

 周囲には倒れた生徒が四人もいるというのに、訳がわからない美柚も甲一も三人の普段とは違う様子に気を取られていた。

 この場にいる誰もが、〝第三の目〟にまるで気づいていなかった。

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