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牙 - kiva -  作者: takasho
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Chapter 3 episode: Slasher Has Come 2

 ――ちくしょう。

 相手は、間断なく攻めてくる。

 ――どうしたものか。

 対応を迷っている間に、自身の生傷が増えていく。相手は手に集束させた冷気を刃に変えて、ナイフのごとく操っている。

 これが本当の実力なのか、それともなんらかの術によって増強されているのかはわからない。いずれにせよ、このままではこちらが危うかった。

 表情の消えた芦山が、正面から右手を突き出してくる。

 それを剣袋に入ったままの刀で受け流すと、その生地が音もなく切り裂かれた。

 ――おいおい、とっておきの特注品だぞ。

 霊糸で紡がれた特別な生地。通常の衝撃はもちろん、攻撃の術をまともにくらっても破れない、はずだった。

 ――こいつら、動きもよすぎる……

 全員が元から能力者なのか、その所作には無駄がなく先が読めない。

 防御するだけで精いっぱい、というのもおこがましい。防ぎきれず、体に打撃を受け、ダメージが蓄積していく。

 相手は能力者、しかもおそらくは〝ハンター〟。

 反して、こちらは常人以下にまで力を抑えつけられている。

 その結果は、おのずと予測のつくものだった。

 切り傷よりも無数の打撲によって感覚が麻痺してくる。やがて痛覚さえも鈍ってきて、視界がわずかにぼやける。

 だんだんと焦りが生じてきた。このままでいいはずがない。

 これまでの戦いの中で、刀を構えることさえできないなどということは一度としてなかった。

 思わぬ時、思わぬ形で窮地に追い込まれた。

 認識阻害の術を使っているのか、周りに他の生徒はまるでいない。プライドを捨てて助けを求めたとしても、声が届くかどうか。

 わずかな逡巡。

 直後、異音とともに驚くべきことが起きた。

 忌まわしい黒縁の眼鏡、その右側のレンズとフレームが割れている。

 ――師匠がつくった霊器だぞ。

 壊れてくれればいいとずっと思ってきたが、常人にできることではない。

 こいつらの持っている元々のポテンシャルが高いのか、それとも。

 ――どっちにしろ、〝やばい〟状況になんら変わりはない。

 正面から芦山が迫ってくる。危険すぎるその徒手をすんでのところでかわし、なんとかバランスを保つ。

 だが、背後から現れた別の生徒の拳がすでに目の前にあった。

 ――かわしきれない。

 予想された訪れる衝撃。

 ガードは間に合わず、後方へ激しく吹き飛ばされる。

 なんとか体をよじって受け身はとったものの、衝撃を吸収できずに滑るようにして下駄箱まで弾き飛ばされた。

 ――だが、大丈夫。

 降りかかるほこりを払い、半身を起こしながら、状況を確認する。

 ――パワーは、美柚ほどじゃない。

 女性を基準にするなんて失礼な話だが、事実だった。

 ダメージは、さほどない。しかし、とにかく数が問題だった。

 相手が四人もいるというだけでなく、そのひとりひとりの動きが速く、手数が多い。結果、一打一打は致命傷にならずとも、ダメージは確実につのっていく。

 ――どうする?

 と考えたときに、ふと違和感を覚えた。

 ――眼鏡が、ない。

 いつの間にやら、あの厄介者がなくなっていた。それだけ自分が危機に陥っているのか、それともただ壊れて外れただけなのかは判然としなかった。

 眼鏡を捜すために足元を見る余裕さえない。元よりそんな必要はなかったが。

 ――これで対応できる。

 決壊したダムのごとく、勝手に内側から霊力があふれていく。

 状況の変化に気づいていないのか、無防備に襲いかかってきた相手を霊波だけで吹き飛ばす。

 半径一〇メートルほどの範囲内を青光を放つ結界で覆い、その間に刀を抜く。

 ――いや、待て。

 相手は生徒だ。間違って大怪我を負わせたら厄介なことになる。

 ――〈秀真ほつま〉、しばらく眠ってろ。

 武器は使わずになんとか無力化するしかない。

 結界を解いて、今度はこちらから攻める。

 手近な男を、鞘に入ったままの刀でしたたかに打ちつけ、無力化した――はずだった。

「何っ!?」

 鞘は、確実に相手の首にめり込んでいる。にもかかわらず、男に動じた様子はまるでなく、そのまま手刀を叩き込んでくる。

 蓮は、すぐに刀を引いて柄の部分でそれを防ぎ、柄頭を掴んでてこの原理で鞘の先を相手にぶつけた。

 それによって距離をとることはできたが、相手に怯んだようなところはない。

 ――ダメージを受けているはずなのに。

 眼前の敵の動きは、明らかにおかしい。肉体的には問題が出ているにもかかわらず、精神がまるでそれを感じていない様子だった。

 どう対処すべきか逡巡していると、後ろに控えるようにして立っていた生徒が突っ込んできた。

「!?」

 何かがおかしい。

 相手が両手に集束させた霊力が、際限なく増幅していく。

 何か、ではない、明確におかしい。

 相手から感じられる霊気の量を遥かに超えて、それは異常なまでに膨らんでいった。

「おいおい!」

 それがまさに弾ける寸前、こちらの目の前で相手が手を開いた。

「――――!」

 まず初めに光。

 その後、甲高い爆音ととも一気に弾け、四方八方へと細かい霊気の塊が飛んでいく。

 蓮は爆圧をもろに受けた上に、無数の〝霊弾〟をくらって窓際までどうしようもなく弾き飛ばされた。

「なんてことを……!」

 刀を杖がわりにして起き上がると、先ほどの生徒は制服まで切れ切れに吹き飛んで廊下に倒れ伏している。

 ――人間核弾頭かよ。

 信じがたいことだが、普段は使えない潜在的な霊力まで強引に引き出し、それを無理やり圧縮することで爆発を起こしてみせた。

 ――術者は、最低のクズ野郎だ。

 これでは、元の人間はただではすまない。現に倒れた男子生徒から霊力はまったく感じられず、生きているかどうかも怪しい。

 ――だが、これで相手は〔騎士団〕とはなんら関係はないことがはっきりとしたな。

 味方をこんな形で犠牲にするはずがない。もっとも、そんなことをする輩も世の中にはいるだろうが。

 ――俺の姉のように。

 思い出してカチンと来て、蓮はいら立ちまぎれに鞘の先、〈こじり〉で床を叩いた。

 黒幕が誰かは知れないが、こんなやり方、断じて許しがたい。

 ――しかし、どうする。

 見れば、他の奴らまで同じように霊力を増幅させようとしている。

 ――やるしかないのか。

 未だ人が訪れる気配はない。もはや、自分でどうにかするしかないのは明白だった。

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