Chapter 3 episode: Angry Boy, Laughing Girl
生真面目人間、東賀 甲一は怒りや苛立ちとともに、生徒会長である雛子の教室へ急いでいた。
――まったく、あの男。なんてことを。
思い出せば出すほど怒りが込み上げてくる。資料室の一件からしてもいけ好かない奴だと感じていたが、ここまでめちゃくちゃだとは思わなかった。
目的の教室にたどり着くと、その勢いのまま扉を開けた。
と、前方には、手に上下の制服を抱えた雛子。
「す、す、す、すみませんっ!」
これまでにない慌てようで、甲一はあとずさった。男らしく、目は背けないまま。
しかし、雛子は笑っていた。
「大丈夫、もう着替えてるよ」
「へ……?」
「更衣室以外で着替えるわけないでしょ」
「あ、ああ……そういえば」
よく見れば、すでに雛子は体操服姿になっていた。
しかも、周囲に他の生徒の姿はなく、休み時間だというのにしんと静まり返っている。
「それで、どうした?」
「ああ、そう――そうです! 奴のことです!」
「学校で術を使ったこと?」
「そうですよ! 白昼堂々と、しかも一般の生徒に!」
「一般の生徒じゃないよ」
「え……?」
「〔騎士団〕だったかなぁ、あそこは術者が多いから」
「そ、そうだったんですか」
拍子抜けした甲一ではあったが、すぐには引き下がらなかった。
「で、でも、術を使ったことは問題じゃないですか」
「うーん、あの場合は仕方なかったと思うけど」
「え? どうしてくわしい状況を知ってるんです?」
「ふふ、甲一くん」
雛子が人差し指を振った。
「は、はい」
「女の秘密を探ろうとしちゃ駄目」
「い、いや、それとこれとは……」
「そんなに知りたい?」
いたずらっぽい目で下からのぞき込まれた。
「……いえ、やめておきます」
「あー、今警戒した」
「いや、そんなことは」
「むぅ」
皆から慕われる雛子はこういう子供っぽいところが魅力でもあるのだが、気をつけなければならない。ときおり、たちの悪いいたずらをするからだ。
「まあ、大丈夫だよ。蓮くんは、そんなに悪じゃないし」
「悪にしか見えません」
「ふふ、正直だね。でも、あの術はけっこう面白そうだからいいでしょ」
「面白そう? なんです?」
「知りたい?」
「……やっぱり、やめておきます。もう、奴にはかかわらないことにします」
「甲一くんは、そうしたほうがいいかもね」
さすがの雛子も苦笑した。
だが、その表情はすぐに引き締められた。
「それより、別のことに気をつけないと」
「ええ、わかってます」
甲一も態度を改めた。
「僕らをなめてるんですかね、こんなに霊波を出しておいて」
「わざとかも」
「でも、できるだけ押さえてはいるようですし。たぶん、霊力の操作が苦手なんでしょう」
「部外者は困るね」
「華院も部外者です」
「もうこの学校の生徒だよ。もしものときは守ってあげてね」
「…………まあ、気が向いたら」
やけに間があったが、それでも雛子はその返答に満足した。
教室の窓の外では、街路樹がざわめいている。