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牙 - kiva -  作者: takasho
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Chapter 3 episode: Victims 1

 昼の教室は賑やかで、笑い声が絶えない。方々で十代特有の活気があふれている。

 というより、明らかに〔荒れていた〕。

「〝〈女王クイーン〉〟に近づくなっつってんだろ!」

「クイーン?」

「美柚ちゃんのことに決まってる」

 相手の言葉に、蓮は鼻で笑った。

「フッ、お前らはばかか。奴はそもそも女じゃない」

「何ィ?」

「猛獣だ」

「…………」

「アレは、人外の生物だ。クイーンという人間のための呼称はふさわしくない。猛獣の〝メス・リーダー〟というなら納得してやる」

 直後、蓮の体が飛んだ。

 周りを取り囲んでいた武志団の面々を巻き込んで壁まで跳ねていく。

 それを見下ろす一対の冷たい目。

「猛……獣……」

「まだ言う!?」

「背後からの攻撃は卑怯だ!」

「そういう問題か……?」

 二次被害を受けた武志團の面々が、起き上がりながら蓮を睨んだ。

 ここに、武志團のリーダー格である前田 大樹の姿はなかった。なぜか最近は休みがちで、もっぱら〝第二派閥〟である芦山を中心に蓮にからんでいた。

 この学校に限らず今どき、いかにもな〝不良〟はいないのだが、周りとうまくやっていけないはみ出し者はどこにでもいる。そんな連中をうまくまとめていた。

 実質的なリーダーである大樹にそこまでの狙いがあるのかどうかはともかくとして、エネルギーの余った連中を武志團としてまとめることで暴走を防いでいる面は確かにあった。

「まったく、狂信者は困る。お前ら、催眠術でも受けたんじゃないのか」

「うるせえよ、失礼なこと言うな」

「騎士団は礼儀を知らん。騎士なら騎士らしくマナーを守れ」

「武志團だ! つか、てめえに礼儀を言われたくねえ」

 それはそうだ、と周囲から同意の声が上がる。

 むっとした蓮であったが、さらに追いつめられる一声が上がった。

「美柚ちゃんを二度も泣かしやがって」

 ざわっ。

 周りの空気が一変した。方々で非難の声が上がり、男女ともに蓮を糾弾する。

 当の美柚は、状況に拍車をかけるべく嘘泣きなどしていた。

 追いつめられた蓮の言い分は、ひどいものだった。

「……あいつが勝手に泣いただけだ」

「なんだ、そりゃ!?」

 厳しい声が一段階増した。

「知らん、俺は知らん」

 責任を一切放棄し、蓮は逃げるべく教室の扉へ向かった。

「!?」

 と、直後、背中を襲う衝撃。

 油断していた蓮は、頭から派手に転んで倒れ伏した。

「ほんとに口だけの奴だな。鈍すぎ」

 武志團を中心に、嫌みを含んだ笑声が上がる。

「こいつら……」

 膝をついて相手を睨みつけた蓮を遮る影があった。

「ちょっと、あんた達ひどいんじゃない!?」

「い、いや、美柚ちゃんさっき自分で……」

「転校生をいじめるなんて男らしくないよ!」

「い、いじめ!?」

 その一言にいきり立ったのは、芦山たちではなかった。

「失敬な! 俺は、いじめになんか遭ってない!」

「いじめられてる奴に限って、そうやって現実から逃げようとするんだよ」

「現実逃避マン……ぷっ」

 余計なことを言う〈ひかる〉を睨んで黙らせ、再び武志團と――そして美柚と対峙した蓮であったが、ぷいっとそっぽを向いた。

「こんな低俗かつ劣悪な連中、相手にする価値もない」

 そんな捨て台詞を吐いて、部屋の出入り口へ向かおうとした。

 背後からまた〝何か〟が来る。そう警戒していたのだが、今度は足元が突然動かなくなった。

 ――なんだ!?

 人の気配は感じなかった。霊気を感知する能力は黒いブツのせいでひどく鈍っているが、それ以外の感覚は正常なはずなのに。

 どうすることもできずに、再びうつぶせに倒れ込んだ。

 ――そういうことか。

 足首にわずかな霊気を感じる。集中して見れば、眼鏡越しにもそこに霊力でつむがれたひもがからんでいるのがわかった。

 それを放った主を見つけようとするものの、直後、すべては消し飛んでしまった。

「……圭、どういうことだ」

 蓮の声音が変わったことに、教室内がしんと静まり返る。

「そういうことだよ。この学校だ。意味わかるだろ?」

「そうか、ならばこちらも遠慮することはない」

「おい、蓮――」

 それまで傍観していた圭が思わず立ち上がった。

 蓮は、薄く笑みを浮かべている。これまでとは明らかに違う彼の様子に、武志團だけでなくクラスメイト全員が息をのんだ。

「口で言ってもわからないだろうから、力でわからせてやる」

 右の拳に霊気が集束する。それは、標準的な〝ハンター〟のそれを軽く凌駕していた。

「消えろ、雑魚ども」

「待て、蓮ッ!」

 圭が止める間もなく、蓮の高速の拳が飛んだ。

 それは対象を的確に捕らえ――ることはまったくなく、あさっての方向に進み、やがて手近にあった机に墜落した。

 寒気がするほどの破壊音を立てながら、机の板は折れ、金属の支えはひしゃげ、一瞬で原型を留めない状態になった。

「くっ……なぜずれる!? もう一発――」

「おい、蓮。よせ!」

「放せ、圭。こいつらには実力行使でわからせる」

「こんな奴らのために言ってんじゃねえ! 学校の物を壊したら、麗々先生がどうなると思う!?」

「……………………」

 狂犬がピタリと動きを止めた。

「……これは事故だ」

「事故で済ます気かよ……」

 周りの緊張が一気に解け、かわりに再び非難の声が上がりはじめた。

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